第12話:史上最凶の「空気清浄機」
「……ゼノス様、やはりこの国(王国)ごと凍らせて浄化したほうが早いのでは?」
王都から流れてくる、どす黒い瘴気の雲を眺めながらミーシャが物騒な提案をする。
「極論すぎるって。俺たちは依頼を受けたんだから、スマートに解決しよう」
俺はギルドから提供された資材置き場で、作業を開始した。
今回の依頼は、国境付近にまで迫った「原因不明の疫病(呪気)」を食い止めること。
王国の無能どもが管理を放棄したせいで、地下に溜まっていた数百年分の不浄が漏れ出しているのだ。
「さて……。普通の魔導具じゃ、この物量は裁ききれないな。よし、コンセプトは『吸引』と『変換』だ」
俺は、そこらに転がっていた「錆びた大釜」をベースに錬成を始める。
そこに、森で拾った「カース・スライムの核」と、ミーシャが退屈しのぎに凍らせた「瘴気の結晶」を放り込んだ。
「トントン、と」
ハンマーを打ち下ろすたびに、錆びた大釜が白銀の幾何学模様を帯びていく。
さらに仕上げとして、俺の『反転錬成』を最大出力で注ぎ込む。
【スキル:概念錬成・反転発動】
【作成完了:神話級アイテム『万物を浄める世界の肺』】
見た目は、小さな煙突のついたお洒落な銀色のストーブだ。
だが、その性能は狂っていた。
「とりあえず、スイッチオン」
俺がストーブのレバーを引いた瞬間――。
ゴォォォォォォォ!! という、大気を引き裂くような吸引音が響いた。
「な、なんだ!? 風が……空が吸い込まれていくぞ!」
国境を警備していた冒険者たちが腰を抜かす。
空を覆っていた禍々しい黒雲が、まるで巨大な掃除機に吸われるかのように、俺の作ったストーブの中へと猛烈な勢いで吸い込まれていったのだ。
「おい見ろ! 煙突から出ているのは……」
ストーブの煙突から吐き出されたのは、真っ黒な煙ではない。
キラキラと輝く『光の粒子』と、あまりにも濃密な『精霊の残り香』だった。
「……ふむ。呪気を吸って、純粋な魔力と酸素に変換するようにしておいたよ。これでしばらく回しておけば、この辺りの土地は以前より豊かになるはずだ」
俺がそう説明する間にも、ストーブは大陸規模の汚染物質をガリガリと食らい尽くし、周囲の枯れ木を瞬時に芽吹かせ、人々の体調を劇的に回復させていく。
「ゼノス様。……これ、放置しておくと王国の魔力まで全て吸い尽くして、あの国を『魔法の使えない不毛の地』に変えてしまいませんか?」
「あ、……まあ、いいか。自業自得だし」
俺たちは快適になった空気の中で、のんびりとハーブティーを楽しみ始めた。
◇
一方、その頃の王都。
「な、何が起きている……!? 魔法が、発動しないだと!?」
アステリオス王太子が、魔法の杖を振り回しながら絶叫していた。
聖女リリィも、ハンスも、自分たちの魔力が空の彼方へと「吸い取られていく」感覚に恐怖し、膝をつく。
彼らが「ゴミ」として捨てた男が作った装置が、今、王国を支えるエネルギーそのものを「清浄な空気」へと変換し、国境の向こう側へと運び去っていたのである。




