第11話:Fランクへの依頼と、試験官の絶望
ギルド測定器を粉砕した翌日。俺は「弁償代を稼がなきゃな」と、Fランク用の依頼掲示板を眺めていた。
すると、背後から「おい、お前が昨日のジャガイモ野郎か?」と野太い声が響く。
そこにいたのは、筋骨隆々の大男。このギルドのベテラン試験官であり、Bランク冒険者のバッカスだ。
「測定器の故障だっていう声もあるが……俺は信じねえ。そのナイフ、俺の自慢の盾で受けてみろ。もし傷一つつけられなきゃ、詐欺師として叩き出してやる」
バッカスが構えたのは、魔銀をふんだんに使った特大の円盾。
「おい、やめろバッカス! 死ぬぞ!」と周囲の冒険者が止めるが、彼は引かない。
「ゼノス様。……この野蛮な男、刻みますか?」
ミーシャの指から、絶対零度の冷気が漏れ出す。
「待て待て、ミーシャ。……いいですよ、バッカスさん。でも、ナイフは危ないから、この『割り箸』でいいですか?」
「はあ!? 割り箸だと? 舐めるな小僧!!」
俺が取り出したのは、今朝の朝食の残りの割り箸だ。
ただ、捨てるのがもったいなかったので、少しだけ『質量透過』と『絶対貫通』の呪いを重ねておいた「呪具・箸」である。
「行きますよ。――えい」
俺が軽く、本当に軽く、割り箸をバッカスの盾に向けて突き出した。
シュンッ。
抵抗は全くなかった。
割り箸は、まるで豆腐に熱したナイフを突き立てるかのように、ミスリルの大盾を無音で貫通した。それどころか、バッカスの背後にあったギルドの分厚い石壁までをも貫き、反対側の通りまで突き抜けていった。
「……あ」
バッカスは、自分の盾に開いた「綺麗な正方形の穴」を呆然と見つめている。
盾の強度、魔法防御、あらゆる物理法則を無視して、ただの木片が国宝級の防具を消滅させたのだ。
「俺の……俺のミスリル盾が、割り箸に……」
「すみません、力加減を間違えました。やっぱり、呪具って扱いにくいですね」
俺が苦笑いしていると、ギルド中が静まり返った。
昨日までは「偶然だろ」と冷ややかな目を向けていた冒険者たちが、今は一斉に椅子から転げ落ち、あるいは祈るように手を組んでいる。
「ゼノス様。さすがです。あの木片にも、我が愛を込めて氷の装飾を施しておきましょうか?」
「いや、ただのゴミだから捨てていいよ」
その時、奥からギルドマスターが血相を変えて走ってきた。
「ゼノス君! 君に緊急の依頼だ! 王国側から『原因不明の疫病』が発生し、それがこちら側にまで広がろうとしている。……君なら、何とかできるんじゃないか?」
「疫病……。ああ、それたぶん、俺がいた頃に抑えてた『地下の下水呪気』が溢れただけですよ」
俺が淡々と答えると、ギルドマスターはガタガタと震え出した。
「それを……君一人で抑えていたのか……!? 頼む、このままだと大陸規模の災厄になる。力を貸してくれ!」
「いいですよ。ちょうど、新しい『空気清浄機』の試作品を作ってみたかったところですし」
俺は「呪具師」として、初めての正式な依頼を受けることにした。
◇
一方、王都では――。
「ハンス! 聖女! なぜ街中に黒い霧が立ち込めている! 早く浄化しろ!」
アステリオス王太子の叫びも虚しく、彼らが「無能」と呼んで追い出した男の恩恵が、どれほど巨大だったかを痛感する時が刻々と迫っていた。




