第1話:【朗報】「呪具師なんて不気味だ」と追放された俺、実は「神の遺産」を作れる唯一の存在だった
「――ゼノス・マクレーン。本日をもって、お前との婚約、並びにSランクパーティ『黄金の夜明け』からの追放を言い渡す!」
王都の高級ギルド、その大広間に王太子・アステリオスの声が響き渡った。
周囲にいる騎士や貴族たちの視線が、中央に立たされた俺――ゼノスへと突き刺さる。
「……殿下。今、なんと仰いましたか?」
俺の手には、ついさっきまで手入れをしていた『呪いの触手マント』があった。
パーティーの盾役が「背後からの奇襲を防ぎたい」と言うから、あえて呪毒を付加して自律防御機能をつけた自信作だ。
「耳まで腐ったか? お前のような陰気な『呪具師』は、我が国の次期国王たる俺の傍に相応しくないと言ったのだ! なあ、リリィ?」
アステリオスが隣に座る聖女――俺の婚約者であったはずのリリィの腰を引き寄せる。
リリィは俺を蔑むような目で見つめ、扇子で口元を隠した。
「ええ。ゼノス様が作る道具はどれも禍々しくて……。わたくし、生理的に受け付けないのです。聖女であるわたくしの隣には、もっと光り輝く『聖具師』こそが相応しいわ」
「ということだ。お前の代わりは既に見つけてある。光属性の最高位職『大聖具師』のハンスだ」
派手な金ピカの鎧を着た男が、ニヤニヤしながら前に出る。
「悪いね、ゼノス君。これからは僕の作る『光の加護装備』が彼らを支える。君の作るような、触手やら目玉やらがついた気味の悪いゴミは、もう必要ないんだよ」
周囲からドッと笑いが起きる。
「呪具師」という職業は、確かに不吉なイメージが強い。
呪いを素材とし、呪いをもって呪いを制する。それが俺の仕事だった。
「……そうですか。ですが、皆さん。俺の呪具がないと、次の『腐敗の森』の遠征は維持できませんよ。あの森の瘴気を防げるのは、俺が打った『吸毒の首輪』だけです」
「黙れ無能が! そんなものはハンスの『聖なるバリア』があれば事足りるわ!」
アステリオスは苛立ったように俺の足元へ袋を投げ捨てた。
「身ぐるみ剥いで追放しても良かったが、俺の慈悲だ。そのガラクタを持って、今すぐこの国から失せろ。二度とツラを見せるなよ」
……そうか。
もう、説明するだけ無駄なんだな。
俺が作っていたのは、ただの「呪具」じゃない。
強力すぎる呪いを「有益な力」へと反転させた、世界で俺にしか作れない特注品だ。
それを「気味が悪い」の一言で切り捨ててしまうのなら、もうこれ以上彼らを助ける義理はない。
「分かりました。……今まで、ありがとうございました」
俺は地面に転がった、手垢のついた古い道具袋を拾い上げる。
中身は、使い古したハンマーと、誰にも見向きもされなかった端材の黒石だけ。
俺が背を向けて歩き出すと、後ろからアステリオスの勝ち誇った声が聞こえた。
「ハハハ! せいぜい野垂れ死ぬがいい! お前のようなゴミに頼らなくとも、我ら『黄金の夜明け』は世界最強なのだからな!」
――数分後、俺は王都の門をくぐった。
俺の右手の指には、一つだけ「呪い」の指輪が残っていた。
自作の、試作第零号。
名前は――『因果応報の指輪』。
「……さて。あの首輪のメンテナンス、今日が期限だったんだけどな」
俺が国を出た瞬間。
王都の奥深く、ギルドの武器庫に安置されていた俺の作品たちが、一斉に真っ黒な煤となって崩れ落ちたことを、俺はまだ知らない。
そして、俺が向かう先……追放先である「腐敗の森」に、世界で最も美しい「呪い」が眠っていることも。
俺の本当の人生は、ここから始まるらしい。




