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005 初恋の相手

 近衛騎士を王子の側へと運んだ後、私はルシアンと馬車に乗り、屋敷への帰路につきました。


 二年前に妹が学園に入学した時から、私はルシアンと妹の三人で、王都の屋敷から学園に通っています。

 それまで私は学園の寮にお世話になっていましたが、ど田舎のルロワ領との行き来は不便だし、私のように寮から通うなど言語道断だと、どこぞの侯爵子息が王都の屋敷を妹の為に貸してくださったのです。

 妹が学園に通う間は好きに使っていいと言って。


 それなので妹は、両親もこの大きな屋敷に呼び、私と同じく寮で生活していた留学生のルシアンを離れに住まわせたいと言い出したのです。ルシアンは、植物学科の専門講師である叔父さんも一緒で良いならと言い離れに住んでいます。 

 留学生なのだから丁重に扱わなければならないと言っていた妹ですが、本当は別の目的があって提案をしたということが、妹の様子を見てすぐに分かりました。


 妹は、ルシアンに恋をしていたのです。


 それに気づいた時、私もルシアンに対する自分の気持ちを知りました。誰もが妹を好きになることは分かっていたので、私は気づいたばかりの感情に蓋をしようと思いました。

 ですが、ルシアンは何故か妹を冷たくあしらい続け、変わらず私の隣で共に勉学に励んでいます。


「シェーラ。俺の顔に、何かついてる?」

「いえ。別に……」


 馬車の向かいに座るルシアンは、小首をかしげて丸く大きなエメラルドの瞳で私を見つめ返しました。


 ルシアンは私と二人だけの時、極厚眼鏡を外して過ごします。あの眼鏡は、植物の観察用と、見たくない人の顔を見ないようにする為にかけているそうです。

 ですが、普段から外していた方が、変人扱いされずに済むだろうにと考えてしまいます。

 ルシアンは、今まで見たどの殿方より顔の造形が整っているのです。肩まで伸びた金髪は無造作に束ねられているだけですが、繊細でとても綺麗ですし、初めて会った時より背も伸びて、ますます魅力的に成長しています。

 ガブリエラが一目惚れした気持ちは分かります。

 私も、そうだったのですから。


「今日は、忙しい日だな」

「え?」


 屋敷に着くと、何やらいつもと様子が違いました。

 使用人達が普段より念入りに掃除に勤しんでいるのです。帰宅した私とルシアンの前に慌てて現れたのはメイド長でした。


「シェーラ様、ルシアン様、お帰りなさいませ」

「忙しそうですね」

「そうなんです! サリュウス伯爵が明日いらっしゃることになりまして」

「はぁ!?」


 驚いて声を上げたのはルシアンです。

 普段から落ち着いた彼としては、珍しい反応です。


「あら。お知り合いですか? ルシアン様と同じく隣国の方だとお伺いしました」

「ああ。そうだが……。何をしに来るのだ?」

「ガブリエラ様にドレスをお持ちくださるそうです。来月の誕生日にお召になれるように」

「そう。ついに約束の日なのね」


 いつかこの日が訪れると分かってはいたものの、初めてお相手が誰か分かると、急に現実味が出てきて、ガブリエラとの別れが寂しくなりました。


「とてもご立派な伯爵様とのお噂で、奥様もお喜びです」

「そうね。明日が、楽しみね」


 私は寂しさを忘れようと、笑顔を作りましたが、隣に立つルシアンは険しい表情で立っていました。


お読みいたたきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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