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026 王子とガブリエラ(ガブリエラ視点)

 明日、私はサリュウス伯爵に姉を差し出し、王命により王子と婚約を結ぶ。そして、いずれ私は貞淑で麗しい王妃になる。

 一応、王子の様子を見に来てみた。近衛騎士達の話だと、王子は私への愛に気付いてから、我儘少年から頼れる青年へと進化を遂げたらしい。

 あの迷走中の子犬みたいな王子がどんな顔をしているのか、明日見た時に笑ってしまわないように耐性をつけておこうと思う。

 

 近衛騎士のひとりが私に気付くと、一心不乱にこちらへ駆けてきた。


「が、ガブリエラ様っ」

「ごきげんよう。今日も元気ね」

「あ、あの。王子が王命を賜りました。執行は明日。こ、婚約の件です」

「そう。何か問題でも?」

「お、お相手の名前が、シェーラ様なのです」

「はぁ!?」

「ひぃっ。わ、私共もよく分からず」

「どいてっ。王子に直接尋ねるわ」


 怯えた近衛騎士を押しのけて廊下を進むと、王子が向こうから歩いてきた。生意気な笑顔を向け、王子は私に手を振っている。


「ごきげんよう。レオナルド王子」

「やぁ。ガブリエラ嬢。その顔だと、聞いたみたいだね」 

「何故、婚約者が姉なのですか?」

「ははっ。それは僕が気に入ったのがシェーラ嬢だからだよ。それと」


 私の顔色を楽しみながら、王子は言葉尻を勿体ぶった。

 どこが頼れる青年なのか。前よりガキ臭くて苛々する。

 

「それとなんですの?」

「サリュウス伯爵と父は知り合いなのだ。君と伯爵子息の婚約を邪魔するなど、言語道断だと言い切られたよ」

「な、何ですって!? だからと言って、どうしてお姉様を?」

「君たちが色々と謀をしているからだろ? 君はシェーラ嬢を身代わりで婚約させるつもりだろ。それを阻止するために、王命を賜ったんだ」


 自慢気に話す王子の瞳はキラキラしていた。折角この私が王子の妻になってやろうと言っているのに。


「……して」

「何か言った?」

「どうしてお姉様なのよっ。他の男はみんなわたくしに夢中なのにっ。ルシアン様も。貴方も。私が必要としてあげているのに、どうしてそんな事を言うの!?」

「ルシアン様って、サリュウス伯爵子息のことだろ。あの人はズルいから嫌いだ。僕と同列に名前を挙げないでくれ」

「は?」


 王子は不貞腐れた様子でルシアン様を貶し、聞き慣れた伯爵の名と彼を繋げた。


「あいつはシェーラ嬢を独占したいんだ。ずっと一緒に居たからって、何でも知った顔して。ああいう男が一番嫌いだ」

「……ルシアン様がサリュウス伯爵子息ですって?」

「ああ。知らなかったのか? 確かに、姓は隠して留学していると言っていたな。――ぅげっ。……ガブリエラ嬢。なぜ笑っているんだ?」


 王子は嫌悪感をあらわに私に尋ねた。

 でも、笑いが止まらないのだから仕方がない。


「ふふっ。私も騙されていたみたい。でも、レオナルド王子のお陰で全てうまく行きそうですわ。レオナルド王子は、お姉様と婚約なさってください。明日、王命をお持ちになってルロワ邸へいらしてくださいね。きっとルシアン様の良いお顔を拝見することが出来ますわ」


 私が賛同するとは思っていなかったのか、王子は面食らった様子を見せた。


「そんな顔をなさらないで。わたくしは味方ですから。これは全てルシアン様の策略ですわ。あの方は、お姉様に執着されてましたから。――そうだわ! わたくしと協力いたしましょう。お姉様を助けてあげなくちゃ」

「じゃあ、あの化け物のところへ君が嫁ぐというのか?」

「ええ。あんな大木伯爵。動きも遅くて怖くなんかありませんもの。それより、王子が姉のことを想う気持ちに感動しましたの。ですから、わたくしに応援させてください」

「そっか。――なぁ。シェーラ嬢は……。喜ぶだろうか?」

「ふふふっ。あははっ。勿論ですわ。この事は、まだ誰にも仰らないでくださいね。ルシアン様の鼻を折るのは、事が成功したと見せかけた時が最適ですから」

「ああ。やはりガブリエラ嬢は、性格がねじ曲がっているな」


 私を好きにならない王子も随分と偏屈だと言い返してやりたかったけれど、笑って流してやった。もう王子と伴侶になることもないのだから、どうでもいい。


 でも、いいことを教えてもらった。

 危うく、ルシアン様とお姉様に騙されるところだった。


 きっとお姉様はサリュウス伯爵の子息がルシアン様だと知っている。だから、昨日あんな事を堂々と言っていたのだ。

 明日が楽しみだ。二人の計画をぶち壊すことが出来るのだから。

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