025 姉妹
あれから数週間が過ぎました。私とルシアンは無事に学園を卒業し、ルシアンは留学期間を終え別棟を出て行きました。
なんとか完成したマボロシ茸の魔法薬は小瓶三つ分で、私はその内の二つを自室の窓辺に並べておきました。婚約式の前日と前々日である明日の夜、飲む予定です。もう一つの魔法薬はルシアンが伯爵にかけてくれることになっています。
しかし、よくよく考えてみれば、これは伯爵を騙して婚約者にすげ変わるようなものです。でも、ルシアンは気にするなと言ってくれました。
はじめに押し付けてきたのは私の妹と両親であり、いずれ伯爵に嘘が知られ、それから認められる為に苦労するのは私とルシアンなのだから、と。
この薬は始まりで、婚約者になれたら終わりというわけではないのです。
そして、こうも言ってくれました。フェミューがガブリエラに与えた加護よりも、私とルシアンとフェミューが力を合わせて作った偽物の繋がりの方が、本物よりも強い繋がりをもたらしてくれたのではないかと。
小瓶を手に考えていると、部屋の扉がノックされました。
「お姉様失礼しますわ。最近研究室にこもりっきりね。植物学の本にサリュウス伯爵でも載っていたのかしら?」
「卒業の為の論文を仕上げていたの。もう終わったわ」
「ふぅーん。ルシアン様からお話は聞けたの? 隣国にはどんな化け物が住んでいるのかしら」
「そうね……」
その話なら色々と聞いています。領地の山には巨大な大樹があって、そこには怪鳥が住んでいるとか、マボロシ茸以外にも沢山の種類の毒キノコを繁殖させた洞窟があるとか。
見てみたいような見たくないような物まで色々と教えてくれています。
「顔色が悪いわ。明後日、伯爵が迎えに来るといっても、すぐに連れて行かれるわけでは……。あ、でも。荷物をまとめておけとか言っていたわね。ふふっ」
「すぐに発つわ。伯爵が私で良いと言ってくださるのなら」
「大丈夫よ。その日はレオナルド王子を屋敷に呼んだわ。私との婚約を記した王命を持ってね。だから、お姉様を選ぶしかないのよ」
「……」
ルシアンも言っていましたが、レオナルド王子は本当に王命を持って現れるのでしょうか。研究室で会った時、私が身代わりになったことを心配してくれている様子でした。レオナルド王子がガブリエラを気に入ってくれているようには感じませんでした。
「でも、もしもお姉様じゃ駄目だと仰っても、別にいいじゃない。私はこの国の王妃になるのだから、伯爵の言う通りにルロワ領が衰退しても構わないもの。あっ。お姉様は大変ね。ど田舎の貧乏令嬢に元通りだから」
「ガブリエラっ」
ルロワ領に対して、ガブリエラがそんなことを思っていたとは驚き、つい声を荒らげてしまいました。
「何よっ。わたくしをそんな目で見ないでっ。お姉様がルシアン様をわたくしから――いいえ。ルシアン様をいやらしい目で見るから、目が覚めて欲しくて言っているの。全部、身の程知らずなお姉様がいけないのよ!」
身の程知らず。何度もガブリエラから聞いた言葉です。
ですが……。
「私もガブリエラも、同じ地で同じ両親から産まれたのに、どうしてこんなにも違うのかしら」
「ふふっ。仕方ないじゃない。お姉様は精霊の加護がないのだから」
「でも、誰にでも人を好きになる権利はあるわ。――私はルシアンが好き。ガブリエラも好意を抱いていることを知った時は、諦めようと思ったわ。でも出来なかった」
「わ、わたくしは好きじゃないわっ」
「そう。それなら良かったわ。ルシアンは、いつも仏頂面で分厚い眼鏡をかけて表情を見せないけど、研究に没頭している時はコロコロと色々な表情を見せてくれるの。そんな彼を近くで見ていられるのなら、私は幸せよ」
「あっそ。化け物だらけの国でも、ルシアン様の故郷だから良いってことね。好きにしたら。二日後が楽しみだわ」
捨て台詞を吐き、ガブリエラは部屋を出ていきました。




