018 サリュウス伯爵子息
色々な出来事が重なり、すっかりと忘れていたレオナルド王子の様子を見に行くと、彼はガブリエラに手を引かれ、屋敷を後にするところでした。
意気揚々と軽やかな足取りの近衛騎士達と相反して、王子は食事の時より更に顔を曇らせ、私と目が合うとゆっくりと視線を外し、馬車に乗り込みました。
「王子との婚約。うまく行きそうだな」
振り向くと、ルシアンが立っていました。
ルシアンは私と目が合うと、少しだけ気まずそうな顔をしました。
「ルシアン……。さっきはごめんなさい。色々な事で頭が混乱していて」
「いや。俺が悪かった。ちゃんと」
「大丈夫よ。ガブリエラがサリュウス伯爵から逃れたいと言うのなら、私が婚約します。もう決めたの」
「そうか」
ルシアンは口元を一瞬だけ緩めると、それを隠すように俯きました。ガブリエラが婚約者の時はあんなに怒っていたのに、私の時は喜んでいるように見えます。
もしかしたら、サリュウス家に嫁げば、隣国でルシアンとまた一緒に勉強が出来るのかもしれません。それも楽しそうです。
「まぁ、私で伯爵が納得されるか、分からないけれど。ルシアンはどう思う? 私には鈴蘭の加護はないわ。それでは受け入れられないかしら」
「そうだな。難しいかもしれない。でも、必ず父を納得させてみせるよ」
「……え? 今話しているのは、サリュウス伯爵のことよ。ルシアには婚約者がいて、私も婚約することになったのだから、お父様を納得させなくてもいいのよ。私達はもう……」
「ごめん」
言葉の途中でルシアンは私の手を取り唐突に謝罪し、俯いたまま声を絞り出すようにして言いました。
「ずっと言えなかったんだけど、……アレが父親なんだ」
「アレ?」
「さっきの化け物」
「…………ぇ?」
さっきのとは、サリュウス伯爵のことでしょうか。
ルシアンは少しだけ顔を上げ、私の顔色を窺っています。
そんなルシアンを意気揚々と押しのけて割って入ってきたのはガブリエラです。
「お姉様。王子は私と婚約することになりましたわ。お姉様はサリュウス伯爵のご子息と婚約するのですから、ルシアン様とは距離をお取りになってくださいます?」
そのサリュウス伯爵のご子息がルシアンだと今聞いたばかりで、私は反応に困り真顔のままルシアンを見つめ返してしまいました。
「俺は、サリュウス伯爵子息とは見知った仲だ。ガブリエラが拒絶した婚約者がどんな奴か、シェーラに教えてやろうかと思っている」
「まぁ!? それは良いわ。なぁんだ。ルシアン様ったら。やっぱり、さっき私が言った通りだったのね。ふふっ」
「サリュウス伯爵子息なら、シェーラと気が合うだろう」
私を見つめたまま、何処かぎこちないルシアンの物言いにガブリエラは目を輝かせています。
「あら。そうなの? そっか。お姉様って、植物がお好きですものね。サリュウス伯爵ったら、古びた巨木のようでしたもの」
ガブリエラは大層ご機嫌で、笑いながら屋敷へと戻っていきました。妹が去った方を呆然と見つめていると、ルシアンが私の手をそっと握りました。
「シェーラ。サリュウス伯爵子息の話、聞いてくれるか?」
「ええ。聞きたいわ」




