013 妹の名案
伯爵の見送りをせず、ガブリエラは王子を部屋のベッドまで付き添い涙まで流すと、近衛騎士に後を任せ両親と執務室へ籠りました。
見送りの後、私も部屋へ呼ばれました。両親はソファーにぐったりと座り、妹は泣き腫らした目をしていました。
「お姉様。わたくし、レオナルド王子と婚約するわ」
「へ?」
「王子が倒れて気付いたの。彼を失いたくないって」
「……それは、えっと」
両親はうつむいたまま、私と目を合わせようとしません。
妹が泣いて伯爵との婚約を嫌がり訴えたのでしょう。両親は妹が無謀なことを言っても、咎めることが出来ず、私にその役目を押し付けようとしているのだと分かりました。
「だから、わたくしは王子と婚約するって言っているの。王子との婚約は王命で決まるわ。非力なわたくしでは決して逆らえない。仕方がない事でしょう?」
「ガブリエラ。サリュウス伯爵との約束を守りたくないから、そうする事にしようと言うの?」
「違うわ。私だって約束を守りたいわ。でも、心は王子のものになってしまったの。だから、仕方なく王子と婚約するのよ。お父様とお母様も認めてくださったわ」
ガブリエラに同意を求められると、両親は頷き顔を上げました。
「ガブリエラがここまで言うのだ。叶えてやろう」
「そうね。私もガブリエラを国外に出すことは反対だったの。約束を守りたいのは山々だけれど、王命には私も逆らえない」
「お父様に、お母様まで……」
ガブリエラを説得できるのは私だけ。両親からそう目で訴えられていますが、ガブリエラは満足そうに微笑むと、得意げに尋ねました。
「お姉様だって、約束を守りたいだけでしょ。わたくしの幸せを応援してくださるでしょう?」
「ええ。もちろん私もガブリエラには幸せになって欲しいわ。でも――」
「さすがお姉様。その事でわたくし良い事を思いついたの」
ガブリエラは私に歩み寄ると、両手で私の手を握りました。
「わたくしじゃなくて、お姉様が婚約すればいいのよ。わたくしが王命で婚約できないなら、それしかないでしょ?」
「私が?」
「それは名案だ! ガブリエラ。お前はなんと聡明なのだ」
「そうね! サリュウス伯爵は、私の娘と言っていただけで、一度もガブリエラが良いなんて仰ってなかったもの。シェーラにしましょう」
両親は急に生気を取り戻し喜んでいますが、私では到底務まらない話です。私に鈴蘭の加護はないのですから。
「お母様。私では――」
「黙りなさい。今まで一度でもルロワの為に役に立ったことがあったかしら? 無いでしょ。それに、元を辿れば、シェーラがあの化け物を連れてきたのよ」
「私が?」
「そう。サリュウス伯爵を連れてきたのはシェーラでしょ。そして私に契約を強要した。私は全部思い出したのよ」
母も私と同じように、あの日のことを思い出したようです。
ガブリエラは顔を近づけると、私の耳元で言いました。
「ルシアン様に婚約者のフリをさせたそうね。王子から聞いたわ。ルシアン様にそんなことをさせるなんて、思い上がるのも大概にして……。フリだとしてもルシアン様と婚約なんて許せない」
「それは――」
「ルシアン様の優しさだって事は分かっているわ。でも、嫌なの。お姉様は、あの化け物の一族になればいいのよ。お姉様では力不足で捨てられちゃうかもしれないけど。――それ、あげるわ」
ガブリエラの視線の先には、サリュウス伯爵から贈られた漆黒のドレスがありました。銀髪のガブリエラに似合いそうな、美しい銀糸の薔薇の刺繍が目を引きます。
「失礼します。レオナルド王子がお目覚めになりました」
ノックと共に執事の声がすると、ガブリエラは頬に残った涙の跡を拭い、喜び勇みました。
「まぁ。今すぐ、伺いますわ」
「あ、レオナルド王子は、シェーラ様を呼んでらっしゃいますが……」
「お黙りなさい。わたくしが行くわ」
ガブリエラは戸惑う執事を突き飛ばして王子が待つ部屋へと急ぎました。




