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波打ち寄せる世界を往く  作者: 川崎春
一章 法国編

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世界の理

 重い空気の中、ラガールがレイシアに言った。

「各国には防波堤が作られております」

「防波堤……汚れた波に対する?」

 ラガールは頷く。

「防波堤と言う名前ではありますが、実際には魔族によって用意された半魔の為の戦場です。世界の法則で作られた結界の一部にやつらの侵入できそうな手薄な場所を作り、そこに集めて半魔が叩くのです。……全ての国で城の一部がその場所となっています」

「どうして、全てに強固な結界を張り巡らして追い返さないの?」

「それでは浸食され続けて結界が壊れるからです」

「え……壊れてしまうの?」

 ラガールは頷く。

「ですので、あちらが狙いやすい場所を用意し、おびき寄せて撃退します。それで世界の浸食を最小限に抑え込んでいるのです」

 レイシアは、自分の足元がぐらつくような錯覚を覚える。

「王国は女性にこの手の教育をしないから、驚かれたでしょう」

 黙って頷くと、ラガールは続ける。

「王国の方法は悪い方法ではありませんので、誤解なさらない様に。……実はこの世界を護る結界の強度は女性の数で決まっています」

 レイシアは目を丸くする。

「汚れた波の狙いは女性なのです。あれの目的は、女性の腹から生まれ出てこの世界の未来に紛れ込む事です」

 あまりのおぞましさに、レイシアは震えあがる。

「汚れた波はそれで何をしたいの?滅ぼしたいの?」

「分かりません。我々が奴らの発生源に赴く事は不可能ですから」

(一方的に浸食されているだけ……)

 レイシアはラガールの言葉と表情からそれを悟る。

「『今は』滅ぼされてしまう程ではないのでご安心下さい」

 ラガールのひっかかりのある話は続く。

「汚れた波自体の強さは大したことありません。ただ出現時の量に差があり、多い時は止めきれずに城内に入り込む事があります。ベルネア商会の会長であるお嬢の役目の一つは、他国の防波堤の状況や波の大きさ等を記録した書類を確認し、他国に飛ばす事です」

 貴族で記録係が居て、波の規模や防波堤での戦闘の状況を記録しているそうだ。この記録を共有する為には、どこの魔法でも受け取れて解読できるベルネア侯爵家の魔法が必須なのだ。

「半魔は汚れた波への耐性を始祖から与えられています。汚れた波を撃退する為に生み出された種ですので。しかし人間にはその耐性が一切ありません。半魔の耐性にも限度があるので、汚れた波にある程度は耐えうるという表現が適切かも知れません。防波堤の先はあれの領域。流された者は半魔でも浸食を受けます」

 防波堤の先は、人も魔族も生きていけない場所なのだ。

 レイシアは、リオンの語るロハンと言う男性の死が如何に惨い物であったのかをようやく理解した。……魔族の加護を失っても、耐性のある貴族はすぐに変質しない。汚染されながら友や愛する人の世界が遠ざかっていくのを見るのは、どれ程の絶望と恐怖を伴った事か。

「ラガール、詳しく教えてくれてありがとう」

 レイシアはそう言うとリオンの方を向いた。

「リオン……辛いと思うけれど、話を続けてもらってもいい?」

 リオンはレイシアに頷くと、暗い表情で話を始めた。

「我々は式をまとめた本を式帳と呼んでおります。私もロハンも百式操師なので、式帳を戦場に持ち出す事ができません」

 分厚い上に重いのだろう。

「まず式を呼び出し、それを連れて防波堤に向かいます」

「式を使役していても、式の本体となる式帳は離れた場所にあるという事ね」

 リオンは頷く。

「ロハンはラーナ殿下の夫として城に部屋を持っておりました。式帳もそこにありました。しかしその日、ロハンの式帳は消えました」

 国を守る為に式を出しているロハンの式帳に危害を加える者が城内に居るなど、誰も思っていなかったそうだ。

「式帳も犯人も捜査する余裕すらありませんでした。ロハンが居なくなり、城の統率は乱れました。俺の言葉は、一部の貴族に疑念を生みました」

「城育ちの二人に確執があったと疑われたのね?」

「はい。勝手に互いの部屋に入っていた事も城では周知されていましたので」

 リオンは犯人だと疑われていたのだ。

「それでもラーナ様の為に城で育った事から次の婚約者になりました。何とか真相を調べようとしたのですが……調べる前にロハン殺しの犯人だとされ、証拠不十分で王族殺しの極刑は免れましたが、貴族籍をはく奪される事になりました」

「疑う気持ちは分かるが……それでは本末転倒だな」

 ラガールの言葉を受けてリオンが応じる。

「法国で式帳を持たない貴族は一人も居ません。ロハンの死に多くの者が衝撃を受け、式帳の在り方に疑問を持つ者が出ました。そして、式に頼る事そのものを怖れるようになりました。しかし式の代替になる物はありませんでした」

「優秀な者程、恐れたでしょうね」

 レイシアの言葉にリオンは頷く。

「おっしゃる通りです。優秀な者程、式帳は厚くなり持ち歩く事は無理になりますので。こんな事になるまで我が国ではこの脆弱性を理解していませんでした。……法国魔法は馬鹿専用と言われて腹を立てましたが、事実です」

 リオンが俯き黙り込む。

 気まずいのでレイシアは慌ててレザンの方を向いて言う。

「さっきの方も一緒に汚れに触れてしまったという事かしら」

 黙ったリオンの代わりにレザンが言う。

「あれは……私の従姉のカリンです。長年ラーナ様の侍女を勤めておりました」

「そう。お悔み申し上げます」

「いいえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」

 これでも気まずい話題だった。レイシアは内心肩を落とす。しかしこのままではいけないと考え直す。ベルとのお茶会でも気まずい時はあったのだ。その時の事を思い起こし、めげずに話す。

「メルルが怪異に出会ったら人間だから助からないと不安がっていたのだけれど、カリン様が貴族だったから大丈夫だったのかしら?」

 レザンが頷く。

「夏家の分家の出身ですので、耐性はあるかと」

 ラガールがそこで口を開く。

「しかし腑に落ちない。汚れに汚染されれば自害するのが王侯貴族の矜持だ。何故生きてここまで来たのか」

「自害ですって?」

 レイシアの声にラガールは頷く。

「いくら耐性があっても、限度があります。助からないのであれば、化物になってしまう前に死を選びます。法国は違うのか?」

 レザンが首を横に振る。

「法国も同じです」

「どうしてラーナ殿下達は生きてここまで来たのかしら」

「そこが分かれば、対処は分かるのですが……」

 大事な部分は謎のままだ。

「そう言えば、殿下はどのような方なの?」

 黙っていたリオンが顔を上げ、懐から紙を取り出した。すると掌に乗る程度の女性の姿が立体的に現れた。ふわりと踊りながら回っている。

「二年前のお姿です」

「綺麗な方ね」

「はい。法都の華と呼ばれておりました」

 二つ名がしっくりと来る姿からリオンは目を話さずに続ける。

「魔法の才も群を抜いており……私とロハンの上を行く、『千式操士』であられます」

 法国出身者以外は顔を引きつらせる。

「それだけの式を持っているのに、何故汚れに?」

 ラガールの言葉に、レザンが悔しそうに言う。

「リオン様が貴族籍を抜けた後も、式帳の問題が更に問題視されておりました。結局、式の使用が城内の防波堤以外で禁止されました。王命でした」

「馬鹿な!カシギ陛下はそれに代案を出さなかったのか?」

 リオンの怒鳴り声にレザンは気まずそうに応じる。

「出されました。言祝ぎで補うと」

 レイシアが首を傾げる。

「言祝ぎとは何?」

「法国における祝福の魔法です」

 レザンの言葉によれば、祝福される事で不幸を免れるという魔法であるらしい。貴族も使うが王族の言祝ぎは特別であるらしい。

(だったらどうしてラーナ殿下は汚れた波に触れたの?)

 レイシアは法国の王に強い違和感を持った。

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