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波打ち寄せる世界を往く  作者: 川崎春
序章

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城の新人騎士達

 -----その頃の王国王城。


 城に歌声が響く。それは幅広い音域で、ゆっくりと盛り上がっていく。普通なら肺がもたない様なブレスの無い歌。音域は幅が広く人のそれとは思えない。城の敷地内に居ればどこででも聴く事ができるのに城の敷地を超えると途端に聞こえなくなる。現国王の第一王女、ベルの歌魔法だ。

 歌を聴いた者達には様々な恩恵がある。城勤めをする者は健康で長寿だとされている。歌魔法の使い手が王族に現れると、採用枠は競争になる。今もその状態だ。

 始祖王の王妃は歌姫であったと言い伝えられている。しかし王国は歌魔法を持つ王女の居ない時代が続いていた。ベルは待ち望まれていた歌魔法の王女だった。

 十四年前ベルが生まれた日、城に二重の虹がかかった。ベルが生まれて以来、不作や凶作は王国内で発生していない。だから王国でベルは莫大な人気を誇っている。

 そんな理由もあって、皇太子が病に倒れ、近々ベルが皇太子になると言う告知に、国民は皇太子を心配しつつも歓喜していた。


(神の御業だ。素晴らしい)

 歌に聞き入る騎士イデルは心底そう思った。

「新入り、ぼやっとするな」

 城で備品の確認をする上官に続いて歩いていたイデルは、足を止めていた事に気付いて慌てて上官に追いついた。

「すいません」

 上官は怒っている訳ではないらしく、苦笑した。

「ベル姫様の歌を聴くのは初めてか」

「はい」

「気持ちは分かる。今日はいつもと歌われる時間が違うのだ。……何かあったか?」

 小声でつぶやいた最後の言葉はイデルには聞き取れなかった。

 話題を変える様に上官は言う。

「そう言えば、もう一人の新人はどうした?」

「直前に魔法院の方に呼ばれてそちらに」

「ああ、貴族のご落胤で魔法院の訓練優先だったか?」

「そう聞いています」

「可哀想に……」

 上官の言葉にイデルは怪訝な表情を向ける。

「何故ですか?貴族になれるのですよね?」

「貴族はなるものじゃない。生まれながらに貴族は貴族だ。今更貴族と言われた所で、魔法の勉強など大変だろうよ」

「それはそうかも知れませんね」

(魔法が使えるなら、死ぬ気で頑張るけどなぁ)

 そう思ったがイデルは口にしなかった。従士になり、城騎士として叙勲するまで五年かかったのだ。登城初日で上司に悪印象を残したくない。

 仕事は上司の言う通り長くかかった。遅い時間に閑散とした食堂に行くと、同じ日に配属された新人騎士が食事をしていた。騎士学校の同期でもある。

 イデルは声をかけて向かい側に座った。

「マシュー、遅いな。何してたんだ?」

 従士の頃からの友人であるマシューは、渋い顔で応じた。

「書類整理。お前は?」

「備品点検」

 どちらも大事だと分かっているが、できれば訓練や見回り等、騎士らしい仕事からやりたかったのが本音だ。

「体がなまる」

 イデルがため息を吐くと、マシューが言った。

「夜でも早朝でもいいから、一緒に訓練場行かないか?申請通すから」

「いいよ。多分このまま言われた事をしているだけだと、先輩との訓練についていけないかも」

 人気である城勤め。その中でも騎士は男性の憧れる職業だ。結婚相手を探すのも貯蓄も思い通りだ。しかし肉体労働である為、執事の様に長く続ける事が難しい。後に従士を鍛える仕事に就くとしても、現役の時代が長いに越した事は無いのだ。

「今晩はどうだ?」

 イデルが言うと、近くで食事を取っていた若い男がぽつりと言った。

「今晩はやめておけ」

「は?」

「明日になれば分かる」

 それだけ言って男は食べかけの食事をトレーごと置いたまま去って行った。

「誰?あいつ」

 マシューが眉間に皺を寄せる。

「多分、俺と一緒に備品点検する予定だった奴だ。貴族のご落胤らしいぜ。それで魔法院から魔法の訓練が課されるから、当分は職務よりそっち優先らしい」

「魔法の訓練ねぇ……。騎士にならないで貴族になれないのか?」

「うちの上司は、魔法の訓練が大変だって言っていたから、そう簡単でもないのかもな」

「魔法って血筋だから、何もしなくても使えるのかと思ってた」

「俺もそう思ってたけど、違うみたいだぜ」

「へぇ」

 二人は雑談をしつつも手早く食事を食べると、男の分もトレーを下げて午後の仕事に戻った。

 イデルは男の言葉を信用した訳ではなかったが、初日で疲れていた事もあって翌朝の修練場の利用許可を取った。


 早朝。修練場に二人が赴くと、そこには何かが落ちていた。

 分かるのは、『生きている』と言う事だけ。

 人の体の一部かも知れない。獣の一部かも知れない。……とにかく、動く肉片の様な物を目にし、物凄い勢いで逃げ出した。とにかく背を向けて走った。

 イデルとマシューの報告で、修練場は立ち入り禁止となった。

 それは城であっという間に共有情報となった。新人の二人は城の詰め所で待機し、その後城騎士団の総大将であるコールに執務室に呼び出された。

「修練場の使用許可を取っていた新人は……お前達か?」

 二人が返事をすると、大きく息を吐いた。

「よくぞ無事で……良かった」

 コールが無事を心底喜んでくれている事に、二人とも感激する。

「よく分からない物が修練場に居ると先輩の部屋に駆け込んだら、寝ていたのにすぐに起きて下さいました」

 そこからは二人の言い分を問いただす事も疑う事もなく、先輩騎士は他の騎士達にも情報を伝えてあっと言う間に修練場に繋がる通路が封鎖された。

「『あれ』が絡んでいるなら当然だ」

 コールの言い分は本当で、叩き起こされて不機嫌だった先輩騎士は、二人の言葉だけで不機嫌を引っ込めて即座に動き出したのだ。

「叙勲早々、災難だったな」

 二人は顔色の悪いまま頷いていいのか悪いのか、曖昧な表情のまま立っている。

「『あれ』に関する説明は、この城の事や貴族の事を理解した後に話す予定だったんだが……少しだけ聞いてくれ」

 コールに椅子を勧められ、二人はおずおずと座る。

「この世界は……外の何かに狙われている。王侯貴族と言うのは、世界を守る為に魔法を与えられた人間だ。平民に権力を振りかざす為のものではなく『あれ』と戦う為に特権階級に位置し、我々や国を守っている」

 イデルは、昨日上官が貴族のご落胤に対して言った言葉を思い出して妙に納得していた。

「『あれ』は人間の太刀打ちできる相手ではない。お前達が見たのは、本体から飛び散った飛沫だ」

(あれで飛沫?液体?訳わかんねぇけど、本体はどれだけでかいんだよ!)

 二人は恐怖に震えそうになる体を必死で直立させた。

「皇太子殿下が病に伏され、少し不備があった様だ。ベル姫様が皇太子に任命されるまではこの様な事があるかも知れない。気を付けるが良い。詳しい事はまた時間を取って座学で学ぶ事になる。不安なら寮で先輩騎士に聞くと良い」

 コールはまだ忙しいのだろう。それだけ言うと二人を下がらせた。

「『あれ』か……」

 ぽつりとイデルが呟く。

 幼児くらいの大きさの肉片。直視してはいけない。二人はその直感に素直に従い、どちらともなく逃走していた。先輩達にはそれを褒められた。貴族はあれを追い返しているらしい。

「城騎士は強いだけでは務まらないってこの事だったのか」

「多分」

 二人は城騎士に内定した際に、同僚に叙勲まで勤務先を隠し通すように通達を受けていた。

 騎士学校の寮では、内定先によって怨嗟渦巻く私闘が最終学年の生徒達の間に繰り広げられていた。怪我で騎士になれない者も出る為、教師陣が酷く神経質な状態なのが毎年の恒例だ。

 これに巻き込まれない為だと二人は思っていた。

 しかし城騎士に必要な用心深さを試されていたのだと、今更理解する。

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