表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/80

もうすぐ第二次成長期

 いつものよう、私は殿下とラベナと朝食を取っていた。


 ルーガ王子の朝食はワゴンでメイドさんが部屋まで運んでくる。それを私かラベナがテーブルにセットするんだけどね。ラベナが王太子のカップに紅茶を注ぎながら聞いた。


「殿下。そろそろ避暑地に行きますよね?」

「そうだな」


 確かに、ここ最近はすごく暑いけど。


「避暑ですか?」


 ラベナが私のカップにも紅茶を注いでくれる


「ああ。毎年、この時期に王家は一周間くらい出かけるんだ。深緑の森って知ってるかい?」

「地図でなら見ました」

「ここから北に一日くらい馬車で走るかな。森の側に王家の別荘があるんだよ」


 ルーガ王子は半熟卵をパンにつけながら、少し楽しそうに話してくれた。


「湖があって舟遊びできるし、釣りもできる。やる気なら狩もできるんだぜ?」

「狩ですか」

「まあ、大型の動物はいないけどな」


 パクパクと食欲旺盛に食べてる殿下を、少し意外に思いながら頷く。


「殿下も狩をするんですか?」

「時々だけどな。ウサギくらいなら捕まえたことあるぜ?」

「へぇ。弓でですか? それとも罠?」

「弓だ。罠は仕掛けないよ。人が掛かったら危ないからな」


 彼は朝食をペロッと食べて、少し物足りなそうにしてる。


「殿下。良ければ、私の卵も食べませんか?」

「お前は食わないのか?」

「……暑くて、食欲が落ちてまして」

「もらう。けど、そんなじゃダメだろ、マロー。飯はちゃんと食っとかないと」

「そうですね」


 この子、何が起こってるんだろ。

 料理長さんに言って、少し食事の量を増やしてもらおうかな。


 ☆


 王太子の側付きの仕事の一つに、その日の洋服を用意するってのがある。

 その日の気温に合わせて用意するんだけど、タンスを開いた私は少し首をひねった。


「殿下?」

「……ああ?」


 殿下は夜着を着たまま、まだ眠そうに椅子に座ってる。


「タンスの中身が変わってます。あと、枚数が少ない」

「ああ。前のは小さくなったから、処分したんだよ。そこにあるのは、ラベナの古いのだ」

「え? ラベナのお古? 王太子殿下が?」

「仕方ないだろ。急に着られなくなったんだから。それに、ラベナだって一応は貴族の子息だからな。そこまで品質の悪い服は着てねぇよ」


 彼はそう言いながら、少し顔を顰めて足を摩った。


「……足、痛いの?」


 バツが悪そうな顔をした殿下は、細い首をポリポリと掻いた。


「いいから、早く着替えを出せよ。メイドが朝飯を持って来ちゃうだろ」

「足痛いなら塗り薬ありますよ?」

「いらない」


 少し面倒そうに言われてしまった。

 まあ、すっごく痛いなら、なんとかしろって言われるだろう。


 白い半袖シャツと、焦げ茶のハーフパンツに靴下、もうこの気温でベストはいらない。確かに肌触りも縫製もしっかりした良い品みたいだ。ラベナもお坊ちゃんなんだなぁ。


 私が服を出すと、彼はそれを持って衝立の後ろへ向かう。


 殿下は人に着替えを手伝わせることはない。

 ラベナが苦い顔で、前にそれで酷い目にあったからって言ってた。

 何があったのか知らないけど、一人で着替えてくれるのは助かる。


 ——と。

 衝立の向こうから殿下が言った。


「ああ。お前、今日は休んでいいよ」

「え? 休み?」

「俺はラベナと出かけるから」


 着替えを終えた殿下は、衝立から出て伸びをしたり、腕を回したりして服の具合を確かめてる。

 確かに昨日までの服より余裕があるな。伸びしても、シャツが出てこないし。


「突然に休みって言われてもなぁ」

「調薬したいって言ってただろ? 読みたい本も溜まってるって言ってたし、休み欲しいって言ってたじゃんか」

「……そうだけど」


 ——なんか、急に言われるとな。


「殿下はラベナと何処へ行くんですか?」

「城下だよ」

「城下町ですか? いいなぁ」

「行きたかったのか?」


 殿下が少し意外そうに私を見上げる。

 私は濡れタオルを差し出しながら、馬車で通っただけの城下町を思い出した。


「そうですね。行ったことがないから」

「……行ったことないのか?」

「ないなぁ」

「ふぅん。なら……今日は無理だけど、そのうち連れてってやるよ」

「あ、嬉しいな」


 濡れタオルで顔を拭いた殿下に、今度はブラシを渡す。彼の髪はサラサラで、首筋なんかは短く刈り込んであるのであんまり必要ないけど。


 ノックと共にラベナが入って来た。

 返事も聞かないで人の部屋に入ってくるもんな。

 殿下もそうだけど——。


「殿下。おはようございます」

「ああ」

「あ、それ。丁度いいですね?」

「そうだな。このくらいで丁度いいみたいだ」

「俺の着てた服を殿下が着るなんて、なんか感慨深いな」


 ノックが聞こえたから、私が対応する。

 たぶん、朝食の到着だから。


「で、成長痛はどうですか?」

「それなりに痛い」

「ですよね。骨が軋む感じ」

「そんな感じだ」


 私はメイドさんからワゴンを引き取って、楽しそうな二人を見た。


「足が痛いのって、成長痛なの?」

「ラベナがそうだろうってさ。だから、薬塗っても仕方ない」

「……そうかぁ」


 ラベナがワゴンの食事をテーブルに並べながら笑う。


「殿下は、そろそろ第二次成長期に入るよ。ここから、背丈が伸び始める」

「なら、カルシムとタンパク質を増やさないといけないかな?」

「そうだな。代謝も上がってるから、カロリー自体を上げて欲しいな。料理長と相談してみて」


 私は殿下をチラッと見る。

 第二次成長期かぁ。


「なんだよ」

「成長を止めませんか?」

「は? 気が違ったか、マロー」

「だって、第二次成長期って声変わりとかするでしょ?」

「だろうけど?」


 細くて華奢な殿下が、国王のような美丈夫に変貌してゆくのかと思うと——。


「ヤダ! 低い声の殿下も、喉仏でた殿下も、すね毛の生えた殿下も、嫌だー!」

「ラベナ、この変態女を外へ摘み出せ」

「誰が変態か!」

「お前だ。俺の成長が喜べないお守役なんかいらん」

「喜んではいる。いるけどー」


 思わずキュッと奥歯を噛んでしまう。


 知識では知ってても、成長痛とか、私には分からない。

 男の子の成長過程って、どう頑張ったってラベナの方が詳しいんだよな。

 何しろ本人が通った道だから。

 この先の変化は、私よりラベナが相談に当たることが増える。

 少し悔しい——。


 ラベナはクスッと笑って私を見る。


「そういや、マローのことをカメオが褒めてたよ」

「え? カメオさんが?」


 私のどこを褒めてくれたんだ、あの人。


「ちゃんと勉強するようになったって」

「……いや。それ、普通じゃない?」

「その普通が出来ないって、前にボヤいてたからね」


 ——まあ、確かに。

 最近は、あまりに放置時間が長くて、勉強しないと間が持たないから真面目に勉強してる。カメオさん、私の授業時間をガッツリ睡眠に充ててるし。


 殿下が少し目を瞬かせて私を見る。


「カメオが人を褒めるなんて、希少だぞ」

「マローは気に入られたみたいですよ」

「お前って、変わった奴からは好かれんだな?」


 ——どういう意味だ、それ。

 いや、確かにカメオさんは変わってるけどさ。



ブックマーク、嬉しい(^_^)

嬉しいので、二回あげます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ