もうすぐ第二次成長期
いつものよう、私は殿下とラベナと朝食を取っていた。
ルーガ王子の朝食はワゴンでメイドさんが部屋まで運んでくる。それを私かラベナがテーブルにセットするんだけどね。ラベナが王太子のカップに紅茶を注ぎながら聞いた。
「殿下。そろそろ避暑地に行きますよね?」
「そうだな」
確かに、ここ最近はすごく暑いけど。
「避暑ですか?」
ラベナが私のカップにも紅茶を注いでくれる
「ああ。毎年、この時期に王家は一周間くらい出かけるんだ。深緑の森って知ってるかい?」
「地図でなら見ました」
「ここから北に一日くらい馬車で走るかな。森の側に王家の別荘があるんだよ」
ルーガ王子は半熟卵をパンにつけながら、少し楽しそうに話してくれた。
「湖があって舟遊びできるし、釣りもできる。やる気なら狩もできるんだぜ?」
「狩ですか」
「まあ、大型の動物はいないけどな」
パクパクと食欲旺盛に食べてる殿下を、少し意外に思いながら頷く。
「殿下も狩をするんですか?」
「時々だけどな。ウサギくらいなら捕まえたことあるぜ?」
「へぇ。弓でですか? それとも罠?」
「弓だ。罠は仕掛けないよ。人が掛かったら危ないからな」
彼は朝食をペロッと食べて、少し物足りなそうにしてる。
「殿下。良ければ、私の卵も食べませんか?」
「お前は食わないのか?」
「……暑くて、食欲が落ちてまして」
「もらう。けど、そんなじゃダメだろ、マロー。飯はちゃんと食っとかないと」
「そうですね」
この子、何が起こってるんだろ。
料理長さんに言って、少し食事の量を増やしてもらおうかな。
☆
王太子の側付きの仕事の一つに、その日の洋服を用意するってのがある。
その日の気温に合わせて用意するんだけど、タンスを開いた私は少し首をひねった。
「殿下?」
「……ああ?」
殿下は夜着を着たまま、まだ眠そうに椅子に座ってる。
「タンスの中身が変わってます。あと、枚数が少ない」
「ああ。前のは小さくなったから、処分したんだよ。そこにあるのは、ラベナの古いのだ」
「え? ラベナのお古? 王太子殿下が?」
「仕方ないだろ。急に着られなくなったんだから。それに、ラベナだって一応は貴族の子息だからな。そこまで品質の悪い服は着てねぇよ」
彼はそう言いながら、少し顔を顰めて足を摩った。
「……足、痛いの?」
バツが悪そうな顔をした殿下は、細い首をポリポリと掻いた。
「いいから、早く着替えを出せよ。メイドが朝飯を持って来ちゃうだろ」
「足痛いなら塗り薬ありますよ?」
「いらない」
少し面倒そうに言われてしまった。
まあ、すっごく痛いなら、なんとかしろって言われるだろう。
白い半袖シャツと、焦げ茶のハーフパンツに靴下、もうこの気温でベストはいらない。確かに肌触りも縫製もしっかりした良い品みたいだ。ラベナもお坊ちゃんなんだなぁ。
私が服を出すと、彼はそれを持って衝立の後ろへ向かう。
殿下は人に着替えを手伝わせることはない。
ラベナが苦い顔で、前にそれで酷い目にあったからって言ってた。
何があったのか知らないけど、一人で着替えてくれるのは助かる。
——と。
衝立の向こうから殿下が言った。
「ああ。お前、今日は休んでいいよ」
「え? 休み?」
「俺はラベナと出かけるから」
着替えを終えた殿下は、衝立から出て伸びをしたり、腕を回したりして服の具合を確かめてる。
確かに昨日までの服より余裕があるな。伸びしても、シャツが出てこないし。
「突然に休みって言われてもなぁ」
「調薬したいって言ってただろ? 読みたい本も溜まってるって言ってたし、休み欲しいって言ってたじゃんか」
「……そうだけど」
——なんか、急に言われるとな。
「殿下はラベナと何処へ行くんですか?」
「城下だよ」
「城下町ですか? いいなぁ」
「行きたかったのか?」
殿下が少し意外そうに私を見上げる。
私は濡れタオルを差し出しながら、馬車で通っただけの城下町を思い出した。
「そうですね。行ったことがないから」
「……行ったことないのか?」
「ないなぁ」
「ふぅん。なら……今日は無理だけど、そのうち連れてってやるよ」
「あ、嬉しいな」
濡れタオルで顔を拭いた殿下に、今度はブラシを渡す。彼の髪はサラサラで、首筋なんかは短く刈り込んであるのであんまり必要ないけど。
ノックと共にラベナが入って来た。
返事も聞かないで人の部屋に入ってくるもんな。
殿下もそうだけど——。
「殿下。おはようございます」
「ああ」
「あ、それ。丁度いいですね?」
「そうだな。このくらいで丁度いいみたいだ」
「俺の着てた服を殿下が着るなんて、なんか感慨深いな」
ノックが聞こえたから、私が対応する。
たぶん、朝食の到着だから。
「で、成長痛はどうですか?」
「それなりに痛い」
「ですよね。骨が軋む感じ」
「そんな感じだ」
私はメイドさんからワゴンを引き取って、楽しそうな二人を見た。
「足が痛いのって、成長痛なの?」
「ラベナがそうだろうってさ。だから、薬塗っても仕方ない」
「……そうかぁ」
ラベナがワゴンの食事をテーブルに並べながら笑う。
「殿下は、そろそろ第二次成長期に入るよ。ここから、背丈が伸び始める」
「なら、カルシムとタンパク質を増やさないといけないかな?」
「そうだな。代謝も上がってるから、カロリー自体を上げて欲しいな。料理長と相談してみて」
私は殿下をチラッと見る。
第二次成長期かぁ。
「なんだよ」
「成長を止めませんか?」
「は? 気が違ったか、マロー」
「だって、第二次成長期って声変わりとかするでしょ?」
「だろうけど?」
細くて華奢な殿下が、国王のような美丈夫に変貌してゆくのかと思うと——。
「ヤダ! 低い声の殿下も、喉仏でた殿下も、すね毛の生えた殿下も、嫌だー!」
「ラベナ、この変態女を外へ摘み出せ」
「誰が変態か!」
「お前だ。俺の成長が喜べないお守役なんかいらん」
「喜んではいる。いるけどー」
思わずキュッと奥歯を噛んでしまう。
知識では知ってても、成長痛とか、私には分からない。
男の子の成長過程って、どう頑張ったってラベナの方が詳しいんだよな。
何しろ本人が通った道だから。
この先の変化は、私よりラベナが相談に当たることが増える。
少し悔しい——。
ラベナはクスッと笑って私を見る。
「そういや、マローのことをカメオが褒めてたよ」
「え? カメオさんが?」
私のどこを褒めてくれたんだ、あの人。
「ちゃんと勉強するようになったって」
「……いや。それ、普通じゃない?」
「その普通が出来ないって、前にボヤいてたからね」
——まあ、確かに。
最近は、あまりに放置時間が長くて、勉強しないと間が持たないから真面目に勉強してる。カメオさん、私の授業時間をガッツリ睡眠に充ててるし。
殿下が少し目を瞬かせて私を見る。
「カメオが人を褒めるなんて、希少だぞ」
「マローは気に入られたみたいですよ」
「お前って、変わった奴からは好かれんだな?」
——どういう意味だ、それ。
いや、確かにカメオさんは変わってるけどさ。
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