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【官能演習その三:異性と性癖について語り合う】
例によって彼女の部屋。
「さあ、たんと性癖を語り合いましょう!」
「地獄か」
「天国ですわ、昇天だけに!」
「何上手いこと言ったみたいな感じになってるんだよ」
「ではまずは私から」
「積極的だな、おい」
「多種多様なジュブナイルポルノを読んできた私ですが、性的にピンときたものにはある特徴があるのです」
「ほう」
「それは、ヒロインが一人しかいないということです」
「……それ、普通じゃねえのか」
「普通ではありません。ヒロインは二人以上出てくることが一般的です」
「一般の定義が狂う」
「そんな中あえてヒロインを一人に絞る、これはつまり純愛ジャンルということになります」
「まあそうだろうな」
「すなわち、私の性癖は純愛ものということですわ」
「えらく普通の結論だな。っていうか疑問なんだけどよ」
「何でしょうか」
「あんたが男性向けのジュブナイルポルノ読んで楽しいもんなの?」
「楽しいですわよ」
「興奮もするのか?」
「まあ、それなりには」
「そういうもんかね」
「ジュブナイルポルノ作家の中には女性も多く居るのですよ」
「へえ。それはすごいな」
「すごくはありません。普通のことです」
「普通……ね。そうかもしれねえな」
「はい、次は高城さんの番ですよ」
「それなんだけどよ……」
「?」
「いくら考えても、俺、性癖とか良くわからねえんだ」
「そんな馬鹿な。健康な男子高校生が」
「健康な男子高校生にもあんまりエロに興味ないやつだっているんだよ」
「それでは、抜くときはどうしているのですか?」
「抜くとか言うなよ、女子が……。まあ、適当にネットの動画とかで済ませるんだよ」
「女性の好みとか、少しはあるでしょう?」
「好み、ね。それもわからねえのが本音だが……」
「だが?」
「その黒髪ロングは、ちょっと可愛いと思うぜ」
「なっ、何を言うのですか!」
「いや、すまん、良くない冗談だった」
「冗談なのですか!」
「いや冗談じゃねえけど」
「どっちなのですか、もう」
「まあ、だから俺の性癖は黒髪ロングってことで、いいじゃねえか」
「もっとドロドロでグチャグチャな対話を期待していたのに……」
「そんなん期待しないでくれ」
「しかたないですわね。その三は保留ということにしましょう」
「さいですか」
「また今度、二人で語り合いましょうね」
そう言って彼女は微笑んだ。