金の切れ目が縁の切れ目
商人とは嫌われる生き物だ。
基本的にはお客さんに対して礼儀正しく振る舞うが、それは金銭のやり取りが行われるからで心から感謝をする場面はほとんど無い。
商売は売上が最も重要であり、どれだけ手厚くもてなした常連であっても金銭がやりとられなければ他人と同じ。
お金が無ければ関係は潰える。そういう世界。
つまり好かれる努力をすると共に、嫌われる努力もしているのだ。客を選ぶとはよく言ったものだ。
元商人の俺が言うのだから間違いない。
客引き、誘惑、押し売り。
どの単語も良いものとして知られてはいないだろう。それでも尚行われるのは売上が一番であるから。
「金銭の絡まない商売など無意味」
これが両親に何度も言われた事。
生粋の商人家に生まれた俺は小さい頃からそれだけを学ばされてきた。もちろん親の為にも跡を継ぐ気でいたが、どうやら俺には商人としての才能が無かったらしい。
どうにもその金銭だけの関係に納得出来ず、相手に対して礼儀正しすぎる事に苛立ちを覚え、すぐに辞めて冒険者になった。
両親からは猛烈に反対されたが、半ばゴリ押しで反対を押し切った。
そんな過去があるからか、こうして色々な街に来る度に屋台や武器屋を覗いてはくだらないと思ってしまう。
そんな俺があの店を見つけたのはつい最近の事。
発見できたのはただの偶然で、入ったのも特に大した理由は無かった。路地の小さなアイテム屋。
薄暗い路地の途中にシンプルなデザインの看板。
ショーウィンドウには丁寧に並べられた瓶の数々。
素人でも分かるほどに隅々まで手入れがされている。
内装は温かみのある木製で、天井からはオレンジの光が部屋全体を包み込んでいた。
「いらっしゃいませ。あら、初めて来るお客さん」
「ど、どうも」
少し奥に入った所のカウンターにゆったりと腰掛けていた店員が一人だけ。
「今日はなにかお探しに?」
「いえ、特には…。ただ、少し気になって」
「ゆっくりしていきや〜」
その纏う雰囲気に飲まれそうになる不思議な少女。
年齢は分からないから見た目が少女であるだけだが。
どうにもこの店は他の店とは違う、まるで別世界のようだ。視線をずらしつつ観察するも、店員はただの人間で特殊な所は何一つない。
だが売られている多数のアイテムは、どれも高品質で市販のものよりもずっと素晴らしい。
それなのに値段は市販と変わらない。物によっては市販よりも安い。さすがに驚いた俺は、恐らく唯一の店員であろう少女に声をかけた。
「ここに売っているのは何処から仕入れたんだ?」
「いえ、仕入れたのではなくうちが作ったものやね。私はただの生産職やから」
「作った?!この品質のモノを一人で?!」
「ええ、よろしければご覧になりまっか?」
「いいのか?もちろん見たい」
「それじゃあここで……」
そう言うと、机の下から小さな鉄鉱石と木材を取り出した。机の上にそれらを並べると、彼女はそのちいさな手をかざす。
「自然の恵と恩恵に感謝を…"ナイフ"」
そう唱えた瞬間、机の上に合った二つの物体が淡く光り始め、あっという間に小型のナイフへと変形した。
「魔法?」
「ええ、うち自身もほんまに魔法が使えるとは思わんかって…最初は驚いたで」
「そのナイフ…見せてもらっていいか」
「ええよ〜」
軽い…それに随分と斬れ味も高い。
そしてこの柄の部分。
鮮やかな模様が彫られていて、飾っておくにも充分な形だ。
それをあんなにあっさりと……。
「そないまじまじ見て…気に入りました?」
「あっすまん…つい」
「もろてもええで〜?」
「いいのか?!」
「初めて来たお客さんや。サービスしときますー」
ここで初めに考えたのはなんとも失礼な事だった。
(何を企んでいるんだ?)
金銭の絡まない商売には裏がある。
まして見知らぬ俺にタダで物を渡す商人がいるものか。
「いくら払えばいい?」
「お代はええよ〜」
「いや、そんな訳には…」
「そう?それならまた来たってや。それがうちにとって一番嬉しいかな」
無垢な笑顔。
商人には有り得ないと思っていた心からの感謝。
それを感じさせる表情に、俺はそれ以上考えるのをやめた。俺の考えはあまりにも彼女に失礼だから。
「分かった。また来るよ」
「おおきに〜」
これが彼女との出会いであり、俺のこの先の道を大きく変えた出来事になる。
その後の出来事は、まだ語るに至らないだろう。
金の切れ目が縁の切れ目 : 金銭面での利益がもう見込めなくなった時が人間としての付き合いも終わる時だということ。金銭で成り立っている関係は、金銭がなくなれば終わるということ。
すみません…今日はちょっと頭が痛いのですぐに寝ます…おやすみなさい。
深夜翔でした。
ではまた明日……さらば!




