渇すれども盗泉の水を飲まず
この世界は死んだ。
何をどう思ったのか、神が世界を見届けるのに飽きてしまったのか。何一つ分からないけれど、ひとつ確かな事はこの世界は死んでしまったと言うこと。
ここは元々日本だった場所。
未だに建物は健在であるも、そこに住まうのは人間だった者たち。昼間は一歩たりとも外には現れず、夜になればあちらこちらから呻き声が響く。
この世界はあの日、謎のウイルスによって滅亡したのだ。
『感染型ゾンビウイルス』と、誰が名付けたのかも分からないそのウイルスは、発見と同時に世界中に広まり、世界はあっという間にゾンビに支配された。支配……と言うよりも汚染、人間のみに感染するそのウイルスは人類を滅亡させる為だけに生み出されたと噂する者もいる。
簡単に今の状況を説明すれば、バイオ〇ザード。
恐らく、これを聞いた全ての人が想像する世界そのままだろうね。
映画の中だけだと思っていたのはもう何日も前の事。
「さて…今日も生きますかね」
私こと相模花は、この死んだ世界に取り残された数少ない人類の一人。
ゾンビウイルスの感染は、察しの通り他のゾンビからの感染。用は噛まれたり攻撃されたりと、直接体に触れられる事でウイルスに汚染されるらしい。
出た当初は空気感染やらで一瞬にして感染が広まったのだけど、空気感染には人類の半数近くが耐性を持っていたらしい。もちろん付近の人がゾンビになれば接触せずに逃げるのは難しく、結果人類は滅亡の一途を辿っているわけなんだけど。
「とりあえず…まだ生き残ってるコンビニでも探しますか」
では何故私は生きているのかと言うと、正直分からん。
ただの偶然。
その一言に尽きる。
ゾンビに汚染されたあの日、私は風邪で寝込んでたんだよね。私はマンションの5階、つまりは最上階に住んでて、家族は両親共に働いてて、弟は学校で、偶然空気感染に耐性があって。
何も知らずに一日寝て過ごして、次の日起きたらあら大変。世界は滅亡してましたってオチ。
いつまで生きれるかも分からないけど、とりあえずコンビニとかの食料で何とか生き残ってる状態なわけ。
毎日水と食料を求めて歩き回って、夜は扉をバッチリ閉めて我がマイハウスで引きこもる。
「水道も電気も止まっちゃったし」
一番近くのコンビニは一昨日ゾンビに占領されてたからもう近寄れないし、この辺あんまりコンビニ無いんだよね。
仕方なく周囲を警戒しながら食べ物を探す。
しばらく歩いていると、中に誰もいなそうな雑貨屋さんを発見。
「たまには食べ物以外も見てみようか」
ただの気まぐれでその店に入った。
「はぇ〜〜ほんとに色んなもの売ってるんだ」
口からはそうでてきたけれど、内心の驚きは凄かった。
何せ綺麗な食器や日用品、遊び道具や文房具と様々であり、何よりも綺麗だったのだ。全ての物が清潔に保たれていて手入れがなせれている。
普通であればそれは当たり前なのかもしれないが、この世界ではそれは普通ではない。
有り得ない状態の品々に、考える事をやめて見入っていた為、後ろからの物音に気が付かなかった。
「へぇー久しぶりのお客さんだ。俺以外にも生き残ってる奴がいたんだな」
「うわぁっ」
突然背後から話しかけられて、咄嗟に腰に刺しておいたナイフを抜きかけた。
「ちょっと待て、俺は人間だ。そんな物騒なもん抜くんじゃねぇよ」
「生きた……人?」
「ああ、この通りピンピンしてる人間様だ」
そこには生意気そう少年……ギリ青年かな。
とにかく自分以外の生きた人が居た。
「良くもまぁ生きてたな、しかもこんな状況でこんな所に来るなんて物好きなのか」
「これ、あなたが全て手入れしてたの?」
「ん?まあな。こんな世界になっちまったら他にやる事もないし、せめてこの店を守れば住む場所にも困らない。暇つぶしってやつ?」
暇つぶしにしては、随分と丁寧なことで。
特にこの食器は、大量にあるのに全て綺麗。
水も貴重な中でどうやって掃除しているのか。
「………これ」
「ん?なんか言ったか?」
「このコップ、一つ貰える?」
入ってきた時、始めに目に付いたコップを手に取る。
今まではただの普通のコップだと思っていたのに、今ではとても貴重なものに見える。
家の食器は洗えなくて空気感染の事もあり使いにくかった。
「持ってけ持ってけ。どうせ使う人もいないんだ」
「いくら?」
「金なんていらねぇよ。どうせこの世界じゃ金なんて価値はないんだから」
「いいからいくら?」
少し強引に迫る。
「ちょっ…近いって。それなら300円だよ」
「…じゃあ、これ」
「律儀だな…別に払わなくても犯罪には……ってこれは」
私は持ってきたリュックの中から取り出したものを渡す。
「300円分の食料。お金よりもこっちの方が価値はあるでしょ」
確かにこの世界は死んで、お金や物の価値も等しく無くなっている。でもなぜだか、食料や水を見つけるとお金を払って持っていく。
責める人も捌く人もいないのに、身体が犯罪はダメだと身を引いてしまう。
こんなんだから新しい服も用意できないんだよ。私。
「…そっか。良い奴だな、お前」
だというのに、何故か優しい笑顔でそんなことを言う。きっちりブツブツ交換を了承し、食べ物を受け取った。
「それで…お前はこの後何処に行くつもりなんだ?」
受け取ったコップをリュックにしまっていると、レジの椅子に座った青年が尋ねてきた。
「今日はこれから食料と水探し。近くのコンビニにゾンビが居座っちゃったから、新しい所を探しに」
整理し終えた私は、再び人のいない外界へと踏み出す。
「あっちょっと!」
すると、青年は慌てて立ち上がる。
「何?」
少し冷たいだろうか。
仕方ない。人と話すのなんて久しぶりなんだから。
「私、急がないと行けないから」
無慈悲にも今の私にはこんな言葉しか出てこない。
呆気に取られていた青年は、私がそのまま踏み出したのを見て声を上げた。
「また来てくれよな!」
その言葉にどれほどの気持ちが込められていたのかは分からない。けれど、この世界に残された人類同士。また会いたいと願ってしまった。
「うん、また来るよ」
私は振り返ると、久しく感じていなかった暖かい気持ちを心に、最大の笑顔で返事をした。
渇すれども盗泉の水を飲まず : いくら苦しく困っていても、不正、不義に汚れることを嫌い、身を慎むこと。
どうも、最近あとがき結構書いてるなぁと思う、深夜翔です。
そもそもここまでしっかり読んでくれる方がいるのかも怪しいですけど。
こんな小説ですが、毎日20人近い人が読んでくれている事が本当に嬉しい限りです。いくら趣味で書いていても、誰かが読んでくれていると嬉しいものですね。何度も言わせてもらいますが、ありがとうございます。
これからもこんな感じにダメダメな小説を投稿していきますが、どうか「成長してるやん」と思って頂けたら有難いです。
ではまた明日……さらば!




