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第8話 「どうかな? キミに対しての嫌がらせだよ」

あらすじ

俺の妹がガチでヤバイ

 現在、俺は天地博士が所有する赤のスポーツカータイプの自動車に乗っている。

 天地博士の命令で黒のスーツにネクタイという面接時の服装で呼び出された。博士自身も白衣の下が黒のスーツになっていた。相当に畏まった場所につれていかれることだろう。期待半分、恐怖半分といったところだが、天地博士の性格からすると――何処に連れて行かれるのだろうか予想ができない。


「所長のところよ」


 こちらの心を読んだのか、顔に出ていたのか、向こうから答えてきた。

 博士と初対面の時に「所長代理」と言っていたことを思い出す。所長に挨拶するのは初めてになる。だからこその正装、だからこそのスポーツカー。


「着いたわ」


 車が止まり、目的地に到着した事がわかる。2人乗りの車は意外と外に出辛い。

 到着したその場所は見た事もないビル群だった。見上げても頂上が見えないようなビルばかりが建っている中、そこだけ全く空気が違う場所があった。背の丈ほどのバラの生垣、その奥に見えるのは豪華な洋館。殺人事件とかがいつ起きてもおかしくないような印象を受ける。

 正面には鉄格子の門がある。西洋の貴族の家とかでよく見かけるやつだ。


「はい、ちゃっちゃと行くわよ」


 天地博士は勝手に門を開けると、洋館に向けて歩き出す。それに続くように俺も入っていく。

 内部も予想を裏切らないスタンダードなもので、天井にはシャンデリアがあり、謎の絵画が飾られ、さっきメイドとすれ違うくらいに普通の洋館だった。

 その中でも群を抜いて豪華な扉の前で天地博士が止まった。

 ここにこれから出会う「所長」がいるのだろう。天地博士が軽くノックを4回すると、「入りたまえ」という低めの声が聞こえてきた。

 声から察するに男性、年齢は50を過ぎている。ダンディーな髭をたくわえ、グラス片手にワインを飲んでいそうな感じがする。


「失礼します」


 博士の後に続いて挨拶をして部屋の中に入る。真っ先に鈍い色をした木製のデスクが目に入る。レッドカーペットに、ガラス張りの棚が壁伝い並び、正面はガラスで庭の緑を楽しむ事が出来る。

 庶民であり、かなり下層にいる人間なので、ものの価値が全くわからないが、金がかかった高級なものであることだけはわかった。 部屋を支配する椅子に座った男。彼が件の所長なのだろう。


「来てやったぞデブ禿狸はげたぬき、なんの用事だ?」


 第一声がこれかよ。確かに言うとおりに頭は禿げ上がり、黄土色のスーツ越しでも分かる大きく膨れている腹、所謂肥満体型に、何処となく狸を連想させる外見。さらに、何故か汗をかいていた。

 天地博士の言葉は間違ってはいないが、ここで言うべき言葉ではない。


「天地博士、流石にそれは――」

「はぁはぁ、実にいい挨拶だよ、天地くん」


 変態だった。あの挨拶で呼吸は上がり、顔が少し赤くなっている。そういう趣味を否定はしないが、諸手を上げて賛同はしたくない。

 天地博士は心底嫌そうな表情をして舌打ちをした。気持ちは分かる。


「そっちが、パイロット候補か……駄目だな、首だ」


 禿狸の言う事が一瞬理解できなかった。呼び出された理由がいきなり解雇である。不当解雇だ。


「納得できないという顔だね。いいだろう特別に理由を話してやろう」


 そう言うと禿狸は一度窓に体を向けてから、上半身だけをこちらに振り返った。ただその仕草がしたいだけなのだろう。


「私は女性所員しか認めない! 私の夢であるハーレムを築く為には男など不要! 不当だろうと何を言おうが、日本防衛所はこの私、天見あまみ 管利くだりのモノだ!」


 所長は振り返った姿のまま、決まったといわんばかりにしてやったりな顔をしている。


「それに、この部屋は暑いだろう」


 確かに空調が働いている音がかすかにするが、たいして涼しくない。所長が汗をかいている様子からずっとこの様子だったようだ。


「どうかな? キミに対しての嫌がらせだよ」

「所長の方も汗をかいておられますし、暑いんじゃないですか?」

「実はエアコンが壊れていてね。私も暑くて困っている」


 俺を解雇するよりエアコンを修理するのが先なのでは? と思いはしたが、このままでは妹共々路頭に迷ってしまう事態は避けなければ――。


「何やってんだこの役立たずが! ハーレムとかセクハラか!」


 言葉の途中に天地博士が割り込んできて、全力で右ストレートを放っていた。

 本気の一撃に所長は天に舞い、地に落ちる。だが、その表情は恍惚に満ちていた。本当にこの防衛所は変態しかいないのだろうか(自分の事は棚上げ)

 天地博士は小声で「よし、こいつ通報しよう」と呟き、スマホを取り出す。

 その声が所長の耳に届いたのか、何事もなかったように立ち上がり、壁に面したガラス窓の棚に歩いていく。

 ガラッと扉を開くとなにやら弄り始めた。

 何をしているのかと、不思議に思っていると、天地博士が口を開いた。


「この禿、辛い事があると、おもちゃをいじる癖があるのよ。子供じゃあるまいし、何を考えているんだか……」


 そう言われて、棚の中のロボットの模型を再び見る。遠目では気がつかなかったが、棚のなかはロボットの模型ばかりで、大半は見覚えのあるものだった。

 その時、ある事に気がついた。


「その手に持ってるは『参倍剣神アビシオス』じゃないですか! うわー懐かしいなぁ!」


 よく見ようと所長の近くに寄っていってしまう。ふと、近づきすぎた。ただでさえこちらのイメージが悪いのに、これ以上心証を悪くしたら本当に不当解雇されてしまう。


「キミはわかるのかね? では、こいつは?」

「『宇宙王者ゴッドアース』ですよね。当時、六体合体なのか五体合体なのかで揉めてたって聞きました」

「ゴッドアースの話は当時の人間しかしらないはず……」


 所長はロボットを弄りながら、何か考えている様でぶつぶつ独り言をしている。どんな判決が下されるか、正直気が気でなかった。


「確か、大吾だったな。キミに兄弟はいるかね?」

「はい、妹がいます」

「採用」


 一瞬、何が起こったのかわからなかったが、解雇が撤廃されたということだろうか。ちらりと天地博士を見ると、顔を青くして小刻みに震えている。


「これからは、山本シスターズと名乗り、パイロットをしたまえ。キミが危険な本パイロット、妹さんはパイロット補佐。これを1人とカウントすれば、四捨五入で女性に傾く! これなら、私のポリシーは守られる!」


 四捨五入したら、男にもなるのではないかと思ったが、口にはしなかった。

 予想外の事になったが自分は今のままパイロットとしてやっていけるのだろう。そして、晴香まで加わってくれるのなら、好都合だ。2人分の給料を確保できるかもしれないし、何より傍らにいればいつでも守ってやれる。


「ありがとうございます! これからは、妹も一緒に――」

「止めてください、本当にそれだけは勘弁してください!」


 早口で捲し立てると頭を下げていた。

 何をしても頑なに頭を下げなかった天地博士が、ピシッと腰を90度曲げている。こんな礼儀正しい礼は見た事がない。それほどまでにこの案件がいやなのだろう。


「却下だ。もう決めた。兄妹揃わなければ入所は認めん!」


 所長の言葉に天地博士は礼をしたまま固まっている。このままで大丈夫かと思っていたが、所長が少年のように瞳を輝かせてこちらに問うてきた。


「キミはゴッドアースについて話せるのかね? キミの年齢では視聴できないはずだが?」

「昔、父親に見せてもらったんです。父もロボットが好きで色々な作品を見ていまして、ロボットの事に詳しくなったみたいです」

「うんうん。それはとても素晴らしい父親に違いない」

「――いえ、父親としては、問題だらけでしたが」


 父親というキーワードに体が動かなくなりそうになる。その言葉を聞くのは久しぶりの事だった。


「よし、大悟くん。今度妹も連れてきてくれたまえ、一緒にロボット談義に華を咲かせようじゃないか」

「妹はあまり興味ないですよ?」


 妹のことを謙遜していると、背後から恨めしい怨念を感じて、振り返る。そこには殺意の黒いオーラをまとった礼をしたままの天地博士がいた。


「嫌だって言ってんだろーが!」


 マジ切れした天地博士の拳は所長の顎をとらえると、そのまま振り抜き天高く殴り飛ばした。

 三回転半した所長はそのまま窓ガラスへ突っ込みガラスをぶち抜いていた。


「なかなかいいパンチだったよ。やっぱり君の遠慮のない拳は最高だな」


 全身血だらけになりながらも、いい笑顔の所長は何をやり遂げた顔をしていた。

 最後に右手でサムズアップして気を失ってしまう。殴られてもコレクションを傷つけないように体をはる所長に、シンパシーを感じずにはいられなかった。


「この防衛所には変態しかいないのかぁーー!」


 先ほど俺が思ったことを叫ぶ天地博士だが、自分がその1人である事を気付いていない。


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