第9話 「あんたはあたしの彼氏だ。絶対に別れてやらん」
あらすじ
所長はM
部屋でごろごろしながら、テレビを眺めている。たまにニュースでボウエイオーについて取り上げられ、正義のスーパーロボットとして紹介されている。日本防衛所に関しての話は一切でないので、あまり興味がない。
こうしていられるのは非番であり防衛所へ出勤しなくてよいからだ。
一応は公的機関なので、いつでも出動できるように交代で休暇を取っている。とはいえ、土日祝日はしっかり休んでいるので非番は必要ないのだろうが、もらえるものは自分の利がるものなら貰っておく。
まだまだ残暑が厳しくエアコンは出来る限り温度を上げて稼動させている。もうそろそろ晩飯の買出しに行こうと考えているが、外に出るのが億劫で行きたくない。テーブルに突っ伏していると、部屋のチャイムが鳴った。
「あ、私が出るね。変な勧誘は完膚なきまで断るから安心してね。特に知らん女は容赦しないから」
若干不安になる単語があったが、いつものことなので問題ないだろう。
てとてとと玄関に向かうと晴香はドアを開けた。
「あ! 愛子さん! お久しぶりです」
予想外な名前を聞いて顔を上げた。
背が高いため晴香の背中越しに金のロングヘアーが見える。やはり、あの愛子なのだ。
「さあ、上がってください」
「おじゃましまーす」
少しハスキーな声が耳に届く。ジーンズにTシャツ、デニムの上着と実にラフな格好である。シャツには赤い右矢印に「回れ右」の文字がプリントされている。いつも通りセンスが悪い。
顔は可愛いというより凛々しい印象を受ける。笑えばそれなりに可愛いところはあるが、今はどちらかといえば、凛々しすぎる気がする。
「おう、久しぶりだな愛子」
愛子はずかずかとテーブルの前までやってくると、力強くテーブルを叩いた。
「久しぶりじゃない! あんた一体何処行ってたんだよ!」
「ずっと家にいたが?」
何を言っているかわからないが、どうやらご機嫌斜めのようだ。
愛子は俺の正面にどかっと腰掛け、こちらを睨んでくる。何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか。
「嘘ばっかり言うなよ、あんた何も言わずにチームに来なくなっただろ。心配したからな……」
そういえばそんな事もあった。
愛子は世間的にはレディースと呼ばれるチームに参加している。俺はたまに顔を出していたのだが、そこまで心配されるとは思わなかった。
「愛子さんも落ち着いてください。折角きてくれたんですから」
晴香が珍しく快く女性を部屋に招いてる。愛子は晴香にも優しく、いつも飴をあげていたから懐いたのかも知れない。
「ごめん、ちょっと落ち着けない。あんたの様子が心配で家を訪ねようとしたら、家そのものがなくなって売り地になってただろ! さらに心配したよ! 一体何があった?」
確かに愛子にはあの事を言ってなかったが、わざわざ言うべきことでもなかった。心配させたのなら言うべきだったのかも知れない。
「いい忘れていたわけじゃないんだが、両親が蒸発して大変だったんだよ」
「は?」
今まで憤慨していた愛子だったが、うって変わって惚けてしまった。だが、すぐに持ち直したようだ。
「そんな大変なこと、さらっと言うなよ? 今度はびっくりしたよ!」
「ははは、すまんすまん。両親が借金抱えていてさ、代わりに支払えって言われて家まで手放しちまった」
「だから、さらっと言わない」
愛子は頭を抱えている。
「そんな大切な事、なんで言わないんだよ? あたしたち恋人だろ」
「あん?」
愛子の言葉に晴香が反応した。今までの上機嫌な様子が一変し、般若よりおぞましいものへなっていた。
「何言い出してるんですか、この泥棒猫」
「ど、どうしたの晴香ちゃん? ちょっと言葉が悪くなってるよ?」
「落ち着け、晴香。俺達はもう別れてるからな」
「やったー兄さん!」
晴香が胸に飛び込んでくる。最近は情緒不安定で良くない。
膝の上に頭を乗せてきたので、優しくなでてやる。
「すまん。両親がいなくなって俺しか家族がいなくなったからな。どうしても不安を感じるんだろう」
「んふふー、兄さん、もっと撫でて」
俺たち兄妹の姿を見たせいか、愛子は表情を緩める。先程までの険しさが消えた。
「そういえば、愛子はどうしてこの場所がわかったんだ?」
「そこ! 滅茶苦茶大変だった。もう家はないし、山本なんて苗字いくらでもあるし、ご近所を何度聞き取りしたか覚えてないくらい調べたよ」
地雷を踏んでしまったのか、愛子は早口で捲し立ててくる。相当不満がある様子でこちらの言葉を挟む余地がない。
話しつくしたのか一旦言葉を留めて、肩で息している。実は話の半分以上聞いていない。向こうは喋れば満足するだろう。
「まぁ、色々あったけど、あんたが元気そうで何よりだよ」
「いつ臓器を売られるかわからないけどな!」
そんな事言うなと、窘められた。実際、そうなっていないことが不思議なくらいだ。
「金がいるって事は、就職した?」
「最近な。公務員やってる」
愛子がぽかんとして数秒、ようやく意識を取り戻した。
「公務員って、あの? あれよね、資格がいるやつ」
「俺は資格持ってないけどな。ロボットのパイロットだ」
「は?」
「日本防衛所っていうところで、ロボットのパイロットに就いているんだよ」
「何それ、ふざけてるの?」
「いや、マジで」
頭を抱えている姿を見ると、これが普通の反応だと、少し安心する。晴香以外は所員だったので、この反応はしないよな。
「一応、公的機関で給料もいい。所長の天下り先だから、業務も楽。定時上がりは当たり前の超ホワイト職種」
「やっぱり、金も?」
「抜群」
話を理解した愛子はテーブルから乗り出して顔を近づけてくる。あまりに近いのでキスができそうだ。しないけど。
「あたしも就職したい。その話、もっと聞かせろ」
「愛子さん、実は私も防衛所に勤めてるんだよ」
「は?」
晴香の言葉に、愛子は目を白黒させる。実はユニットで就職している。と軽く説明すと、少し悩んだように口を閉ざした。
「じゃあ、3人ユニットでいけない?」
「所長なら許可しそうだな。お前は口さえ開かなければ美人の部類だからな」
「え? それって喧嘩売られてる? それとも馬鹿にされてる?」
馬鹿な事を言ったせいか、元の愛子に戻っていく。特に目的もなく、喋って、馬鹿やって、暴走して、そんな仲間。
「なんか、こういうノリ、久しぶりな気がする。あたし達が恋人になったのも、こんなノリだったな」
「そうだな。なんかそんなノリだった」
理由を思い出そうとしても、あまりに日常の1つだったのか、思い出せない。それくらい、当たり前だった。
「あんたは別れたっていたが、あたしはそう思ってない」
「ん?」
膝枕されている妹が何か反応を示した。お邪魔虫センサーでも付いているのだろう。
「あんたはあたしの彼氏だ。絶対に別れてやらん」
「はぁー? 何言っちゃってくれてるんですか? 兄さんは私のものなんだから!」
妹と愛子のバトルが勃発したので、暫くは蚊帳の外にいられる。取っ組み合いの喧嘩になっているので、バタバタしているのはどうしようもない。
「家がわかったんだ。たまに遊びに来いよ。お茶ぐらい出してやる」
「なら、今出せよ」
喧嘩する2人の隣を通って、キッチンへ向かう。
たまにはこんな休日があってもいい。




