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第54話 「今までありがとうな、ボウエイオー」

あらすじ

改人との最終決戦

「ひぃぃぃさぁつぅッ! ボウエェェイィビィィィームゥ!」


 腹の底から全力で叫ぶ。

 ボイスコマンドが認証され黒く表示のないディスプレイが真っ白に輝いた。

 次に計器やレバーから豪快に火花が散る――いや、そんな生易しいものではない、小さな爆発が何回も起こっている。


「うわっ! 熱っ! 私服が燃えるぞこれ……って、うごごごご」


 改人(モンスター)が爆発したのか、コックピット内が激しく揺れる。

 それは竜巻の中にいるかの如く、上下左右関係なく、体が引っ張られたり、押さえつけられたりして自分がどうなっているのかわからない。ついでに身体を守ってくれるシートベルトがきつく食い込んできて痛い。

 激しいGが頭も揺らし、血液が行ったり来たり。簡単に意識を刈り取ってくれた。



※


 はたと、目が覚める。

 いや、目の前が真っ暗で目が覚めたのかよくわからない。

 体を動かそうとすると痛むので夢を見ているわけではないようだ。

 起きようとするとシートベルトに固定されていることに気づく。シートベルトの接触面が痛いことにも気が付く。というか、何故今まで気にならなかったのか不思議なくらい痛い。

 こいつがいなかったら、あの爆風みたいな揺れで合い挽き肉になるところだった。シートベルトは偉大。

 痛む身体に鞭打ってシートベルトを外す。

 手探りで起動や通信を試みるも何も起こらない。完全に機能停止している。以前、電源が落とされた時とは様子が違う。通信も一切通じない。


「……あれからどれだけ経った?」


 ボウエイビームを撃って、気を失って、その間何があった?

 ボウエイビームで改人(モンスター)は破壊されたはず、その余波は虹色の壁に遮られて拡散していないはず。

 辺りが無事だといいが……。

 それとも、失敗して改人(モンスター)はまだ暴れているのだろうか。

 戦いの行く末はどうなったのか。

 それも大事だが、空気は大丈夫だろうか。このコックピットは密閉されているだろうし、どれだけここにいたのかわからない。

 もう酸素量が残りわずかかもしれない。

 完全な暗闇に不安を駆り立てられ正確な判断ができていない。


「まずは外に出よう」


 ぽつりと呟き、行動を開始する。

 痛む身体を無理に動かし、立ち上がる。緊急時にコックピットを開放するレバーを捜した。

 手探りでその行為は難航したが、脱出用のレバーを手に取ることができた。

 あとはレバーを引くだけで――引くだけで――引けない。


「このっ!」


 現状の弱った身体ではレバーを引けない。

 もしかしたら、このレバーが壊れてハッチが開かないのかもしれない。

 ハッチを直接叩いてみるも、当然何も起こらない。


「誰かいなんですか? ここから出してくださいよ」


 コックピットに入ったら一度は言ってみたいランキング上位に入りそうなセリフを口にする。

 自力は当然、他力も無理。

 もうだめなのだろうか。

 いや、諦めるな。

 誰かが気づいていないだけで、近くに人がいるのかもしれない。

 少ない希望を頼りに、ハッチをたたき続ける。

 ガン、ガン、ガンと叩く音がコックピット内に響く。だが全く開く気配はない。


「さて、どうするかな」


 進退窮まった。

 次の手段を考えていると、かすかな音が聞こえてきた。

 ギィギィと何かがきしむ音。それが頭の上から聞こえてきている。

 もしかしたら救助が来たのかもしれない。


「おい! ここだ! ここにいるぞ!」


 叫びながらハッチを叩く。

 握った手がかなり痛むが、今はそんなこと関係ない。

 全力でたたき続けると、きしむ音が大きくなってきている。

 諦めるものかと、全力で押し出してみる。

 すると、光が差した。

 暗闇になれた目にとって刺激が多きすぎるが、これほど日の光がうれしいと思ったことはない。


「おーい! 俺はここだー!」

「この声! 大吾の奴だ」


 ハッチに隙間から愛子の声が聞こえてくる。


「大吾はコックピットにいるから当然でしょ?」

「そうじゃなくてー、生存を確認できたってことですよー」

「兄さん! 兄さんは生きているの!?」


 今度は天地博士、雪絵さん、春香の声が聞こえてきた。

 通信で話してからまだ間もないが、それがすごく久しく感じうれしくて仕方がない。


「ちょーっと早く開けてもらえませんかね?」

「待ってろ、大吾!」


 光差す隙間にバールのようなものが差し込まれて、隙間が少しずつ大きくなっていく。それと同時に光も強くなり、つい目を瞑ってしまう。

 最後にガコンと大きな音がして……人一人が入れる隙間ができた。

 そこから、みんなの顔が見えた。

 みんな今にも泣きそうな情けない顔をしている。

 だが群を抜いて俺が一番情けない顔をしているのだろう。


「ほら、大吾。出てきなさい」


 逆光になって顔がよく見えないが声から天地博士だと分かった。

 差し出された手を掴み、それを頼りにはい出ようとする。

 が――


「きゃっ!」


 引っ張った勢いで天地博士がコックピット内に落ちてきた。


!!


「んー、こんなところで引っ張るなんてー大吾ちゃんも大胆ねー。時と場合をかえなさいよー」

「そこをどきなさい、兄さんが汚れるわ。愛子、引っ張り上げて」

「晴香ちゃん、口が悪すぎるけど!?」


 外野が賑わっているようだが、そんな場合じゃない。


「早くどけ! マジで! 少しでも早く!」

「何よ、重いっていうの? 雪絵ちゃんよりましでしょ!」

「博士ー? あとで話がありますから覚悟してくださいねー」


 重いなんてもんじゃない。

 博士が落ちてきた時、膝が股間に直撃した。

 現在進行形で俺の息子が圧迫されて死んでしまいそうだ。


「ごめんなさい。すぐに早く一刻も早くお願いします!」

「もー、こんな美女がこんなに近くにいるってのに!?」

「愛子! 早く! 引っ張り上げて!」


 こちらの危機的状況を察したのか、愛子が急いで博士を回収する。

 よかった。息子は無事だった。


「次は大吾だ。ほれ、掴まれ」

「色々とありがとな、助かったぜ。主に息子が」

「本当にな!」


 ボウエイオーのコックピットから出ると、みんなの姿が見える。

 白衣の天地博士は誇らしげに胸を張り、雪絵さんはクッキーを齧っていて、愛子はいつも通りBASTARと書かれた赤い変なTシャツを着ていおり、春香は俺にくっついている。何気にセンセイもいる。


「終わった……のか?」


 辺りを見回すと、がれきの山と焼け野原。辺り一面壊滅したと言っていい。

 もしかして、虹色の壁は爆風を防いではくれなかったのだろうか。


「終わったわ。ボウエイビームで改人は吹き飛び、爆風は『アマノイワト』の壁に防がれた。少しの範囲は被害が出たけど、目論見通り被害は抑えられたわよ」


 ほっと一息ついてしまう。

 よかったと思ったの同時に、緊張の糸が切れてしまう。


「おっと、大丈夫か? 救出まで3日かかったし、疲れてるんだろ」


 今度は愛子に身体を支えられる。

 今日は随分と世話になる。


「って、3日!?」

「ボウエイオーが改人を倒して3日経ったわー。以前、人質を救った実績があったからー自衛隊と一緒に捜索してたわけなのよー」


 だから、みんながここにいるわけだ。


「この様子じゃ、ボウエイオーはもうダメみたいね。コックピットがぐちゃぐちゃ……」


 外から中を覗いて初めて気が付いた。

 計器や操縦装置、ディスプレイ全てがぐちゃぐちゃになっていて、見ただけで壊れたことがわかる。


「こんなんじゃ、動くはずもないよな……」


 こうして助かって落ち着いてボウエイオーを見るとその傷跡がよくわかる。

 傍から見ても装甲は焼け焦げ割れ、内部の機器が焼き切れているのが見える。それでも人型を保っていることを見ると相当頑丈なのだと分かった。

 そんな状態でもコックピットを守ってくれた。


「ボウエイオーに感謝だな」

「いや、コックピット周りを頑丈に設計したのは私なんだけど?」


 余韻ぶち壊しじゃないか。


「大吾ちゃん、後は任せて、休んでねー」

「こっちは処理をしておくから任せろ」


 晴香に支えられボウエイオーを後にする。


「足元は瓦礫だらけだから気を付けてね、兄さん」

「今までありがとうな、ボウエイオー」


 こうしてボウエイオーと別れを済ませた。

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