第50話 「手刀! 手刀! 手刀!」
あらすじ
黒幕は祖父
アパートから徒歩数分とかなり近い場所にある日本防衛所に向かって走っている。
すぐにプレハブ小屋の防衛所に到着してしまう。だが、今回はこれがとてもありがたい。
誰もいなくなった防衛所の入り口には鍵がかかっておらず、あっけなく侵入できてしまう。防犯とか大丈夫かと思うが、これもこちらにはありがたいことなので深く考えない。
そのままの勢いで居間へやってきた。
「大吾か。そろそろ来ると思っていた」
人のいなくなった寂しげな居間に、イケボがはっきりと聞こえてくる。
「センセイ! やっぱりいた!」
「そう、興奮するな」
真っ白なセンセイを抱き上げる。
別れてからあまり時間が経っていないような気もするが、とても懐かしい気持ちになる。
「わかったから、降ろしてくれないか?」
急いでセンセイを畳に戻す。
「でも、どうしてセンセイはここに?」
「私は犬だからな。どうやら放置されたらしい」
センセイは達観した様子だが、実はこうなることを知っていたのかもしれない。
「そんなことより、ここに来た理由は分かっている。超巨大ロボット改人が現れたことだな」
「名前までは知らないですけど、テレビに映っていたんですよ。これ、どうしたらいいんですか!?」
「落ち着け。私たちにはもうボウエイオーは無い。どうしようもないのではないか?」
センセイの言葉に続けて口が動かない。
その通りなのだが、何かできないのだろうか。
「そうだな。天地博士なら……どうにかできるかもしれない」
最初からこう言えばいいのに、センセイは勿体ぶる。
やっぱり、何かしらの手段が残されている。
「なら、天地博士を捜します。どこにいるかも知ってるんですよね」
「……最初からそのつもりなのだから、隠しても仕方がない。紙と鉛筆を用意しろ」
「え……? 持ってないですけど」
「これから伝えることは電子データではない方がいい。その辺にあるだろう。探してくれ」
居間を捜すと意外と簡単に見つかった。
そして、センセイの口から出た言葉をメモしていく。
「地方警察署の5階だ。侵入経路は今伝えたとおりだ。急いだほうがいい」
センセイの言葉にうなずく。
だが、やっておきたいことがある。
「おう、愛子か?」
「どうした? いきなり電話とか、告白か?」
「馬鹿言うな」
「って、馬鹿はないだろ……」
「そんなことより――」
電話を終えると、続けて晴香にも連絡を入れておく。
「センセイ、もしもの時に備えて、愛子と晴香をこちらによこします。あいつらでも役に立つと思います」
「気が利くな。では、早く行きたまえ」
センセイに向けてうなずくと、颯爽と居間を後にした。
と、いう訳で、地方警察署にやって来た。意外と近い場所で助かった。
電車で2駅といったところだ。
警察署の1階は一般解放されており、誰でも楽々行き来ができる。
何食わぬ顔で1階を横切っていく。
センセイが言う通り「改人」が突如現れたことで、署内は大いに荒れている。こちらを意識してくれなくなるのはありがたいが、あまり騒ぎになり過ぎると、締め出される可能性もあるので、速足で2階を目指す。
問題なく2階へ上がる。
2階は各種手続きができる場所となっており、1階より多くの人が集まっていた。
だが、やはり改人の影響であわただしく人が行き来している。待っていた人はニュースを見ていないのだから、何が起こったのかわからない様子だ。
3階からは一般開放されていない。普通なら3階への階段へ近づくのに気づかれたかもしれないが、緊急事態で混乱している。周りを気にしすぎると怪しまれるので、さっさと階段を上る。
そして、3階。
一般開放されていないので、人通りが少ない。それでも、今は改人の登場で警察がうろうろとしており、発見される可能性が高い。そこで、センセイの言葉を書き写した紙を広げる。
『階段より西へ3歩、北へ5歩、さらに西に6歩、南に7歩』
書いていた時も思ったが、これってよくゲームにあるヒントじゃないだろうか。本当にこの通りに歩けば4階へ行けるのだろうか。
行けました。
センセイの情報収集力には恐れ入る。だが、4階はメモ通りにはいかない。
センセイ曰く「警備が巡回しているため、どうしても接触してしまう」らしい。
最も安全なルートを教えてもらったのだが、それでも3階のように素通りするのは難しい。
物陰に隠れながら、見つからないように進む。
だが、5階へ階段は遠く、警備の目が離れることはない。
なら、ここはやるしかない
「おらぁ!」
警備の背後から思い切り蹴とばした。
可哀想かな警備の人は顔面から廊下へ倒れこむ。これだけ綺麗に倒れたら、顔面がいたそうだ。
「お前! 何をする……って侵入者か!」
こういうところでは、相手が気絶するのがお約束なのでは?
このままではまずい。倒れた警備は立ち上がると、無線へと手を伸ばす。
「こちら、佐とうッ……」
突然、無線機を手放し、再び倒れこんだ。
何が起こったのか理解できなかったが、すぐにその理由が分かった。
「はぁ……もっと慎重に侵入していただけないでしょうかねぇ」
妙にねっとりとした言い方に、黒ずくめのファッション。つば広帽子の下からは白髪が伸び、その奥には赤い瞳が光っている。
そんな厨二病を患っている人物は1人しか知らない。
「てめぇ、イワマ! 何しにきやがった!」
「静かにしてくれませんかねぇ。今何をしているか、思い出していただきたいですねぇ」
急いで口を手で塞ぐ。
倒れて動かなくなった警備の人が視界に入る。
「まさか、殺した?」
「もう、黙っていただけませんかねぇ」
イワマの赤い目がジトっと睨んでくる。
「冗談は別として、何しに来た?」
「あなたの援護でしてねぇ。クライアントも今回のことは快く思っていないようでしてねぇ」
「今回のこと……天地博士か!?」
「少し違いますが、概ねその通りですねぇ」
こいつのクライアントは祖父である草加国防大臣。
あいつにとって現状は好ましくないない。一体、何故?
「こっちだ!」
遠くから男性の声が聞こえる。さすがに騒ぎ過ぎたようで、ほかの警備の人がこちらに気づいたようだ。
「おい、お前、イワマのせいだぞ」
「どの口が言ってすんですかねぇ」
責任は全てイワマに押し付けることにした。
「後は頼みましたから、目的を果たしてくださいねぇ」
当然だと顔を引き締めると、5階への階段を上っていく。
あのイワマのことだ、何があっても警備が5階へ上がってくることはないだろう。
5階には警備している人が2人。センセイのメモでは天地博士のいる部屋の前だ。
これはもう、どうしようもない。警備の人を黙らせるほかに道はない。
「せぇい!」
まずはドロップキックをかましてやる。
1人はぶっ飛んでいったが、当然、もう1人いる。
そこで、すかさず手刀。
首の後ろをたたく。が、まるで動じていない。
「手刀! 手刀! 手刀!」
何度も繰り返すうちに相手の動きが鈍ってくる。
それだけ叩きつけられたら、堪らないだろう。
ドロップキックで吹き飛ばされたもう1人が起き上がってきた。
「手刀! 手刀! 手刀!」
同じように首筋に何でも叩きつける。
すると、同じように動きが鈍ってくる。
これは、手刀最強説が濃厚。
「馬鹿なことをやってる場合じゃない!」
1人叫ぶと、目的のドアへと入る――が、当然鍵がかかっている。
仕方ないので、手刀でやっつけた警備の人の持ち物を探る。
だが、結局鍵らしきものはなかった。当然といえば、当然か。
「うらぁ! カチコミじゃあ!」
全力でドアを蹴とばす。
何度も蹴っているうちに鍵が耐えられなくなったのか、バキンと音がしてドアが開いた。引き戸だったのに、よく鍵が壊れたもんだ。
そして、天地博士がいるはずの部屋へと入っていく。
あとがき
「手刀! 手刀! 手刀!」という叫び声を聞いて、頭を抱えるイワマ




