第49話 「――さあ! これがラストステージだ! 倒してみろ! ボウエイオーッ!」
あらすじ
スパイ雪絵
地方都市の中心地、そこでもとびぬけるほど高いビルの25階。
まったく、いくらエレベーターがるとはいえ、高すぎるだろ。馬鹿となんちゃらは高いところが好きというが。
ただの部屋でありえない大きな扉を目の前に、強めに4回ノックする。
「……入ってきたまえ」
扉の奥から静かなで平坦な声が聞こえてくる。
扉を開きその中に入る。
無駄に広いその奥に目的の人物がいる。
「久しぶりだね。草加雅紀国防大臣。ご機嫌はいかがかね」
「アポくらいは取るべきではなかったかな? 天見管利元国防大臣」
やたらに高そうな木製のデスクに肘をついて、手を組んでいる。その背後には壁一面にブラインドで隠されているガラス窓。その隙間から少し光が漏れていた。
真ん中でぴっちり分けられた白髪交じりの頭に、皺一つないパリっとしたスーツ。
まさに、絵にかいたような官僚様。私のような自由な服装を見習ってほしいものだ。
「こんなことろまで何の御用かな」
「ロボット愛好会の黒幕様に用事があってね。こうしてわざわざ出向いてやったというところだ。感謝してもらいたいものだ」
「ほう。なんの証拠があってそのようなことを」
まったく動揺しない平坦な喋りにこちらが気圧されそうだ。
もし、こんな奴が祖父だったら、絶対に一緒に暮らしたくない。
「用途不明金。あまりにも巨大な金が動いているね。まったく、横領ならもっと上手に行うべきだったね」
「あなたなら見破られるとは思っていた」
こちらの言葉にまったく揺さぶられない。
こちらも確たる証拠がないことを言っているだけに、攻めにくくてしょうがないな。
「ロボット愛好会などとばかげたものに、何故支援したのかね?」
「それはこちらの台詞だ。日本防衛所などというばかげた組織を作っていながら」
「それはだね……天地くんが困っていたから、手を貸したというか……そんな建前だ」
全く動じない草加にこちらが動揺してきた。
日本防衛所の本来の目的に気づいているということか。
「あなたと同じです。研究の理解者を装ってロボットを作らせたことと」
「黒曜の『アマノイワト』かね?」
「そうだ。資金に困っていた統一を手助けしたに過ぎない」
「だが、それだけではないのだろう?」
「そうだ。あなたが作り上げたスーパーロボットが活躍する舞台を作った。それだけだ。その為にはロボット愛好会という明確な敵が必要だと考えた」
草加は言うべきことは言ったとばかりに口を閉ざした。
本当に口数が少なく面倒な奴だ。それでも、普段の彼を知っていればかなり饒舌なっているのだがね。
「まったく、そんな理由でよくもこんな計画を実行に移せたね」
「こんなではない。それこそが必要だった。私の働きで今や空前のロボットブーム。誰もがロボットに憧れ、ロボットを見直し、愛するようになった。これこそ、私が手を貸した本懐。私の念願叶ったり」
さすがに草加も気分が高揚してきたのか、口数が多くなってきた。
こういったオタク気質は自分の舞台となると、周りが見えない。まあ、私もその口だがね。
それにしても、最近のロボットブームにまで黒幕がいたとは。
確かに手際が良すぎたとは思っていたが、彼ならそれも納得できる。
「だが、草加くん。もっと別の方法があったのではないかね。犠牲が少しばかり多かったのではないのかね?」
「私にとっては些事にすぎん」
1つ息を吐く。やはり、交渉の余地はないということなのだろう。
「自首しなさい、草加くん」
「それはできない。最後の見せ場が残っている」
「何を?」
「ラスボスだよ。物語の終わりには必要不可欠。まだ、ボウエイオーには倒さなくてはならない強大な敵が必要なのだ。そして、ロボット愛好会には秘密兵器がある。首魁である統一にも秘密で作り上げたものが」
草加が今まで組んでいた手を離した。
少しばかり口の端が上がっているようにも見える。これは自分に酔い始めている証拠だ。
これは少々藪蛇だったかもしれない。
「待ちたまえ。もうボウエイオーは溶鉱炉に破棄されたのだぞ」
「あなたも理解しているはずだ。まさか、あの程度でどうにかなるものだと?」
奥歯を噛み締める。
まさか、そこまで知られているとは。思った以上にロボットオタクだぞ、こやつ。
草加は右手を軽く上げると、パチンと指を鳴らした。
次の瞬間、地面が激しく揺れ動く。地震とはまた違ったうねりがビルを通して伝わってくる。
「うおおお……?」
そして、草加の後ろにあった窓ガラスが一斉に弾け砕ける。
さすがの私もこんなガラスの破片を全身に浴びるのは耐えられない。というか、真後ろの窓が吹き飛んだというのに、彼は平然と立ってるな。幸運値が高いとでも言うのか。
ブラインドの隙間から差していた光が巨大な影により、完全に遮断された。
巨大な影は動くことはなく、ただ光を遮っているだけだった。
「ま、まさか!」
「そのまさかだ!」
いつの間にか、草加の左手にスイッチが握られていた。
このパターンは嫌な予感がする。
「このスイッチを押せば、この巨大ロボット『改人』は起動する」
草加の親指がボタンに接触している。少しでも力を加えれば押してしまえるだろう。
いろいろと影響され過ぎだな。
「やめたまえ! こんなことは許されない」
「いいや、これで最後だ。押すねッ!」
カチリというボタンを押す音とともに、虚影が動き出す。
ゴゴゴゴゴと音を鳴らしつつ、衝撃を放ってくる。
割れた窓から建物が破壊されていく様が見える。それはデタラメな光景だった。
サイズは50mどころではない。25階という高所にいながら、その全容が知れない。
「早く止めたまえ!」
「これで動き始めた。『アマノイワト』を搭載した改人は永遠に破壊し続けるッ! そして……」
草加は左手に持っていたスイッチを地面に叩きつける。
そして、追い打ちとばかりに踏みつけて、完全に破壊してしまった。
「このスイッチがなければ止めることはできない。改人を破壊するまで止まりはしないッ!」
激しい振動でビルがいつ倒壊するかもわからない。
そんな状況を楽しむかのように、草加は涼し気に笑っている。
「すべては君の思い通りか!」
「いや、私にも想定外のことはあった。諸外国軍が動いていたことだ。何が「馬鹿馬鹿しい、勝手にやってろ」だ。前もって手を打っておいてよくも言ったものだ。そのため、計画を変更することを余儀なくされた」
「なるほど、想定外というのはボウエイオーの破棄と、天地くんの拘束か!」
「盛り上がってきた時にこんなことが起こるとは。思った通りにいかないものだ、悪巧みも、子育ても……」
微笑をたたえていた顔が急に平静に戻る。
それは、もう、役目を終えたといわんばかりに。
「私のことは好きにするといい。もう役目は終えた」
「草加くん、君は大馬鹿だ。こんなこと、誰も望んでいなかっただろに……」
最後に草加は大きく叫んだ
「――さあ! これがラストステージだ! 倒してみろ! ボウエイオーッ!」
あとがき
格好いいことを言ったけど、すぐにボウエイオーが来るわけではないでので、恥ずかしくなってきた草加国防大臣
と、その様子を眺める天見所長




