第36話 「お前の自信作、叩き潰してやるぜ。 行くぞ! 絶対堅守ボウエイオー!」
あらすじ
最終回
今回も俺は滑空に乗り込み、ターゲットを牽制するように旋回していた。
ターゲットはもちろん、巨大ロボット。コードネームは『黒曜』。黒いボディに虹色に発光するという奇天烈なロボットだ。
今回の任務はその黒曜にミサイルをぶち込むことだ。話では射程が短いという弱点があるらしく、距離をギリギリに保てば、こちらに被害は出ないらしい。
そんな任務を何度も失敗してきたが、大丈夫だろうか。
「あの目標、ミサイル程度でどうこう出来るのでしょうか。あのボウエイオーも手傷を負ったという噂を耳にしました」
「そうだな……黒曜にはあの光のバリアがありやがる。俺たちは攻撃を試みるだけだろ。本命はボウエイオーだろうしなぁ」
実はこの黒曜とは面識がある。実際に対峙したわけではないが、遠くからボウエイオーと戦ったところを見たという程度だ。
戦闘を見たのは当然撃墜されて脱出した後だ。
「おい、この任務が終わったら一杯やろうぜ。まあ、結果はいつも通りだろうがな」
「……」
「……」
俺と鈴木は返事をしない。
岸本はそれをすぐに察してか、急いで言葉を続けた。
「なんだよ、2人ともノリが悪いな。俺、何かしたか?」
その白々しい態度に俺の我慢は限界に達した。
「岸本、てめぇ、自覚ねぇのか? スク水のことといい、袋とじのことといい、マジふざけんなよ! 誰がお前なんかと喋るかよ! ぜってぇ許さねぇからな!」
スク宮呼びに、楽しみにしていた袋とじと、その被害は半端がない。命令でチームを組まれていなかったら絶対一緒に任務なんてするかよ。
「俺も同感です。母親想いが一転して熟女好きですよ。こんなレッテル貼られてまともに会話できるとでも?」
比較的温厚な鈴木ですら、岸本への風当たりは厳しい。確かに母親をそう思われるってのは堪えるだろ。俺なら岸本の首を絞めるな。
「そんなことかよ。じゃあ俺もカミングアウトしてやるよ。いいか、よく聞け、俺、実は、オッパイ星人なんだ」
岸本のカミングアウトにぶつりという堪忍袋の緒が切れた音が聞こえた。
「はぁ? てめぇ、そんな当たり前な事のどこがカミングアウトなんだよ! 男はなぁ、みんなオッパイ星人なんだよ! むしろ、おっぱい星人じゃねぇ奴の方が少数派なんだよ!」
「あー、あれですね、普通アピール。自分は他の人と同じ性癖を持ってますって言いたいんですよね。手口が汚いんですよ」
この件に関しても鈴木と意見が合致した。
正直、岸本がここまで腐っているとは思わなかった。
もうチーム解散を上申するしかねぇ。こんな奴とは任務したくねぇ。
「じゃあ、どうすれば満足するんだよ。俺にはそれぐらいしか性癖ないしな」
くそっ!
普通アピールが鳴りやまねぇ。
「あ、そうか、あれか! 最近、白スクもありだと思い始めただろ宮本。だから妙に突っかかってきたんだよな。いやー、さすがの俺でもそれは無いと思うわ」
「は?」
ちょっと待て、何がどうしてこうなった?
ここは岸本がゲロする話だったよな。おかしいだろ、何でまた俺が槍玉にされてんだよ!
「それは流石に俺も引きますよ」
「何でだよ、いいだろ、白スク! 水に濡れると透け――」
突如、目の前に黒いボディがロボットが現れた。
くだらないことを言いあって気がそれていたが、あの距離を一瞬で詰められるなんて、誰が想像しただろうか。
「うおっ! 眩し!」
虹色の光を見たと思ったら、滑空が急激に傾き地面へと向かっていく。どうやらどこかやられたらしい。
鈴木機、岸本機も滑空の一部が削り取られたようになくなっていた。
何が起きたかわからないまま、俺は脱出を試みた。
※
激しいGを受けながらも、レバーを握り締め、ペダルを全力で踏み倒す。
全速力になったボウエイオーは足を前に出し、まるでキックのような姿勢を取る。
「くッ――!」
気を張っていないと、意識を持っていかれる状況でも構わない。このまま一直線に目標へと突っ込む。
目標は虹を背負った黒い巨大ロボット、黒曜だ。
まだこちらに気が付いていない。このままなら――空気を裂き、奴に蹴りを――
かませない!
こちらの奇襲に気付いて超スピードで距離を取られてしまう。
「くそっ! 避けるな!」
避けられたキックは街に衝突するギリギリで勢いを殺しきれた。その反発したロケットの出力で空に舞い戻る。
向こうも奇襲に面食らっているようで、挙動がおかしい。機体がゆらゆらと揺れている。
発進したまま蹴りをかましてやる作戦の半分未満成功したようだ。
「い、いきなり何をするのですか!?」
初めて、声が聞こえた。
今までだんまりを決めていた黒曜から初めて声が発せられた。
「お前、喋れたのか?」
「当然です。今まではこいつが不安定だったので言葉を口にしなかっただけです。どうも私は完璧主義者らしく、未完成の黒曜で登場するのは気に入らなかったのですよ」
よくも自分でそんな事をいえるものだ。
それより、この口ぶりからは黒曜が完成したのだと窺える。
今までも、不調や不慮の状況から逃げ出していた。それがなかったら、こちらが危うかったが、今度はそんなラッキーは無いということだろう。
「驚いたでしょう、大吾くん。私が黒曜のパイロットであることに!」
「……?」
覚えがない。知らない声だ。
ロボット愛好会の知り合いなんていないはずだし、こんな上から目線で喋る人物に心当たりは無い。
「も、もしかして、私を忘れたんですか? 私と貴方の仲じゃないですか」
「悪い。覚えてない」
「な、なら、これでどうです?」
黒曜から何かデータのようなものが送られてきた。
『もう、酷い。いつもメールでやり取りしてたよね。私はいつもメールを楽しみにしてたの。忘れたの? でも、こうやって再会できたって事は、運命だよね。私、嬉しくて昨日は眠れなかったんだぞ。そんな態度を取られると、ちょっぴり悲しいかな。でも、今は元気いっぱい。頑張っちゃうぞ!』
「お前、トウイツか!? いつも迷惑なメールばかり送りやがって!」
「え? 迷惑……? そ、そうだった……のですか……」
今まで元気に饒舌だったトウイツの口調が突然弱くなり、語尾が聞こえなくなるほどの沈んでいる。
本当にめんどくさいやつ。
「まあ、面白くないことは無かったけどな」
「そうか! いや、そうだろうとも! 貴方とは心を通じ合わせた仲。敵同士なんて壁は関係ありません」
うわ……面倒くさい。
前に出会ったときも自分の作ったシナリオを勝手に展開する病的な奴だったが、ここまでとは思わなかった。
また、勝手に自爆してくれないかな。
「……いけない。忘れていた。この黒曜に搭載されたシステムについて教えないといきませんね」
突然正気に戻ったトウイツは黒曜の説明を始めた。
「この黒曜の能力をある程度は知っていると思ますが、システム『アマノイワト』を搭載しています。ボウエイオーに勝ち目はない」
『アマノイワト』?
何を言っている?
それがいったいなんだというのか。ボウエイオーが勝てない……?
『大吾! そいつの言うことなんて無視しなさい!』
天地博士が通信で割り込んできた。
このシステムは何か都合の悪いことでもあるというのだろうか。
「その反応、聞いていないのか? そうか、まだ隠していたのか……まあ、他人を信じられなくなっているのも仕方がないですよね」
自分で言って、自分で納得している。自己完結がたの思考をしているらいい。
こちらにもわかるように説明して欲しいものだ。
「このままではフェアでない。システム『アマノイワト』について軽く説明しよう」
「勝手に話を進めるなよ」
こちらの声を無視したように、トウイツは言葉を続ける。
「『アマノイワト』は一種の永久機関だ。この世のすべてを光に分解し、エネルギーを得る。そう、この世のものなら、この虹に消えてしまうのだよ」
全てを分解――心当たりがある。
最初、黒曜と戦った時、左腕が消滅した。2回目では投げた薙刀が虹に溶けていった。
あの虹の前では攻撃も防御も不可能ということなのか……。
「今も背後で虹が光っているのがわかりますよね? これは大気を分解、吸収することでエネルギーを得ており、空中に浮くことができているということです」
なんだか訳のわからない展開になってきたが、やることは1つだろ。
「お前の自信作、叩き潰してやるぜ。 行くぞ! 絶対堅守ボウエイオー!」
『アマノイワト』だか、なんだか知らないが、片っ端から蹴散らしてやる!




