入学式。
枕に叫んだあと、俺は自分の部屋を出てふらふらと階段を下りて、リビングに居る姉二人に向って挨拶を交わす。
「おはよ~」
すると最初に耳障りな声がした。「涼花、顔キモイw」俺の顔を見るなり腹を抱えてそう言ってきた金髪のこいつは、長女の美鈴。
くそっ、こいつはいつもいつも…人を馬鹿にしやがって。
「今日は一段と可愛いな。」次に聞こえてきたのは、朝ご飯を頬張りながら真顔で見つめるこいつ。次女の恵梨。
恵梨はいつも可愛いと言ってくるが、なんだか今日は少し嬉しそうだ。
「今日は入学式だからワクワクしてんだよ!悪いか!」低めな声で美鈴を威嚇し睨み付ける。
「やっぱ怒ってる時も可愛い…」いつも通りの恵梨。
ちなみに言っておく…必要もないとは思うが、恵梨はブラコン。なので基本無視。
そんなやり取りをし終えてから「そいえば涼花、今人身事故で電車止まってるらしいけど、車で送ってってあげよっか。」と、にやにやしながら俺の心配をする美鈴。
人を馬鹿にするくせに案外世話焼きな美鈴、だが。このにやにやは絶対に何か裏がある。だが、姉弟だからなのか、なんとなく目的が分かってしまう。
「ただ単に学校来たいだけだろ。」
俺は朝飯を頬張りながら美鈴に問う。
「流石は涼花。姉の考えてることは何でもお見通しだな!」
美鈴は高らかに笑いながら食器を片付けると、ささっと二階の自室に戻っていった。
見事にはぐらかされて学校で何をするつもりなのか内容を聞きそびれていたが、そんなことはもう忘れて俺も食器を片付けて登校の準備をし始めた。
それから数十分。
俺は準備万端なのだが、美鈴の方がまだ準備が終わっていなかった。
別に登校時間まではまだ時間があるので良いのだが、何故か午後から仕事のはずの恵梨まで支度しているのである。あの後直ぐに食器を洗い終わらせ、いつもの朝シャンを浴び終えてソファーで待機していた。
男の俺に準備を合わせられるのも、多分女性の中でもコイツだけだろう。
恵梨は俺が友達と普段遊びに行くときなどにも、知らん顔してさりげなくついて来ようとするのだが、流石に、もうやめていただきたい。
まぁ、今日みたいな特別な日くらいは別に構わんのだが、恵梨はテレビによく出る有名人だったりする。
なので人だかりができるととても困る。それに、これ以上ブラコンを拗らせないでほしいのだ。
こうなってしまったのも、両親が早くに亡くなってしまったからなのだろうが。
両親は俺が五歳の頃の死んでしまった。
死因は交通事故だ。
不運なことに、盗難車の逃走劇に巻き込まれたのだった。犯人は車を盗んだ挙句、事故死。
その事故内容がまた酷いものだった。
渋滞している列の最後尾に位置した両親の車に時速百キロ超で犯人は突っ込んでしまい、二十三名の死傷者。だが、亡くなったのは両親と犯人のみだった。
不幸に不幸が重なった最悪だった。
両親の葬式の時に、まだ十歳だった恵梨に仕事の話が来た。そう、両親の知り合いだった。
父と母揃ってテレビ業界で仕事をしていたらしいのだが、かなりの有名人だったらしく、葬儀には数えきれないほどの人が集まった。
その中の一人、御影さんが恵梨に声をかけたのだった。
両親にお線香を焚いて昔の事を思い出していたら結構いい時間になっていた。
「準備終わったから行くわよ~」玄関から美鈴が俺と恵梨を呼ぶ。
行ってきます、父さん母さん。
はいはい~と返事を返し、俺と恵梨は玄関を出て車に乗り込んだ。
学校に近づくにつれて緊張で心臓がバクバクだ。
これから俺が通う学校は、最寄り駅から五駅。そこから歩いて十分ほどの場所にある。
何故、こんなに離れた高校を選んだか。それは、高校見学で一目惚れした人がいるからだ。
名前も学年も聞けなかったのは滅茶苦茶後悔だったが。
美鈴にはその日家に帰るとすぐに顔でバレたが、馬鹿にはしてこなかった。
というか、「高校選ぶ理由なんてそんなもんで良いんだよ!」と笑っていたくらいだ。
俺はその日初めて恋愛というものに興味を持った。
そんな興味ある人が通う高校に、今日、正式な生徒として俺は通うことができるのだ。
色々妄想して、気が付けばもう学校の駐車場についてしまっていた。
気持ちを切り替えてから、俺は車を降りた。