夢か現か異世界か
「なにこれ?」
家から出る気もおきない冬休みの日のこと。
あたしはこたつに潜りつつスマホをいじっている時に気がついた。
見覚えのない番号からショートメッセージが届いている。
「どうせ迷惑メッセージとか? でも、今まできたことなかったけど」
そもそもメールですら最近じゃあまりしなくてチャットと通話ができる無料アプリのほうで連絡を取るようになってる。
ショートメッセージなんてそれこそスマホ会社からくるような提携のものぐらいしか記憶にない。
ただ、通知として残られると気になる。
URLさえタッチしてサイトに繋がなければ平気だろうとメッセージを見てみる。
「……なにこれ?」
画面に映ったのは文字化けしたメッセージだった。
なんて書いてあるかはさっぱり想像がつかない。
ただ、そもそもSMSって文字化け今どきするの?
日本語じゃない場合でも変な翻訳とか、そのままそっちの言語っていうならわかるけど……。
どこからどうみても文字化けって言うのが正しいぐらい謎のメッセージだ。
「なんかこわっ……消しとこ」
あたしはメッセージ一覧画面にもどってから、そのメッセージを削除とともに送信者をブロックした。
念の為に受信チェックで更新を入れる。
「うん、消えてる。なんか怖いけどただのいたずらだよねー」
少し不気味だったけれど、これで問題解決だと思っていた。
しかし、次の日のことだ。
あたしはこうみえて特撮ヒーローや巷では子供向けと言われているような魔女っ子や戦うヒロインみたいな作品を見続けている。
そんな中で今日は数ヶ月ほど前にやった映画のサウンドトラックの発売日。
冬の寒い日にこたつの誘惑を振り切ってでも電車に乗った先の店で予約したそれを受け取りに行くんだけど。
「あれ……?」
改札を通る時にスマホをICカード代わりにするために念の為に画面をつけてると、ショートメッセージ受信の通知がでていた。
昨日のメッセージを思い出して少し背筋が寒くなる。
「いや、意味不明……って、ここで止まったら邪魔だよね」
あたしはひとまず改札を通り過ぎるためにそのままスマホを改札にスキャンさせた。
そしてピッと認識された音が聞こえた時だった。
一瞬、視界が歪むような気持ち悪い感覚に襲われる。
「うん……?」
すぐにその感覚は収まって改札を抜けることは出来たけれど、朝から別に体調は悪くなかったはずだけど。
貧血も生まれて一度も経験したことないし。
「……あれ?」
そして、もうひとつの違和感に気がついて改札を抜けた先のホームまで小走りで移動する。
――人がいない。
「いや、いくら冬休みなのは学生だからこの時間は空いてても、こんなにこの駅に人がいないわけなくない?」
そう思いながら反対ホームや周囲を確認するけれど、本当に誰もいない。
駅員の人すら誰一人としていなくなっていた。
でも、改札からすれ違って誰かがでていった覚えもないし……。
「ホラー映画じゃないんだからさ……で、電話。そうだ、電話は?」
あたしはそう思い手に持っていたスマホを確認すると――。
「あれ、勝手にメッセージ開いてる? テンパってタッチしちゃったのかな?」
画面に開かれたショートメッセージは昨日と変わらず文字化けして意味がわからない。
あたしはその画面を閉じてホーム画面に戻って電波状態を確認するけれど――圏外になっていた。
「ほんとにどうなってる……ん?」
色々なことが同時に起きすぎて混乱状態にあるあたしだったけれど、耳にあの音が入ってきて思わずそちらを見る。
遠目にこちらへと走ってくる電車が見えた。
見た目は普通の電車だけれど、果たして本当に普通なのかわからない。
それに、仮に何かあってもあたしに電車を止める方法なんてない。
この状況についていけずに、段々と諦めの気持ちすら浮かんでいるなかで電車はゆっくりと目の前に停車した。
そして当然のように開いた扉から強い光が漏れ出してあたしのことを飲み込んでいった。
その後のことは詳しくは覚えてないけれど、たしか最後にスマホから声が聞こえて画面のメッセージが読めるようになっていた気がする。
『世界を救う聖女様。お待ちしておりました』
****
「んぅ……」
何がどうなってるの。
目の前が真っ白になってからどれくらいたったかわからない。
ただ、なんとなくその後に意識を失っていたのだけはすぐに理解できた。
いや、むしろ理解してしまったせいで夢の可能性がなくなって、また頭こんがらがりそう。
「あの、大丈夫ですか?」
そんな声が聞こえてあたしはどうにか目を開いた。
全体的に薄暗くて、少なくとも駅のホームじゃない。
「あ、あの、見えていますか?」
改めてそんな確認する声の主の方に視線を向けると――綺麗な金髪のお姫様こちらを覗き込んでいる。
……お姫様?
「コスプレイベントなんて近所でやってたっけ……」
「え、えっと、こすぷれとは一体……いえ、それより大丈夫ですか!?」
「う、うん」
想像以上に必死なその声も思わず戸惑いながら頷いた。
知り合いでもないのにこんなに心配することある?
手が動くことを確認してどうにか体を起こした。
目が覚めたばかりで少しぼやけていた視界もはっきりを見えるようになって改めて周りを見てみる。
コスプレと考えるには妙に着慣れていて違和感のないお姫様と、その少し後ろに映画でしか見たことのないようなローブを来ている人がいた。
フードを深く被っているせいで顔はよく見えない。
「目を覚ましてくださってよかったです。失敗して召喚の最中のなにかで死んでしまったのかと」
「へっ!? どゆこと!?」
なんか恐ろしい言葉が聞こえて思わず大きい声で反応してしまった。
状況がおかしすぎて少し冷めていた頭が一気に回転し始めた。
「しょ、召喚ってなに? ていうかここどこ? ていうかていうかこの状況は!?」
よく見たら壁も石も写真で見るヨーロッパのお城とかファンタジーのお城みたいな作りだし。
そもそも、あたしはなんで寝てた?
「聖女様。ご説明しますので落ち着いてください」
「聖女……ってなに? もしかして?」
あたしは恐る恐る自分で自分を指さした。
「はい。世界の危機が目前に迫っています。どうか、お力をお貸しいただきたいのです」
「え、えっと……」
あたしが聖女で世界が危機で――。
「聖女様?」
「うん……これは夢だ!」
「聖女様!?」
あたしの頭はそこでオーバーヒートしたのか、再び目の前が真っ暗になった。
こうしてあたしの少し子供っぽさの抜けない平和な日常が終わりを告げて、世界を救うための日々が始まってしまったらしい。




