第一話 勇者
むかし世紀、⋯⋯たぶん百年?。
ものすごくあやふやな時代、いい加減な世界のどこかにひとりの青年がいました。
その名を『浦島太郎』またの名を『うらしまたろう』と言ったとか言わなかったとか⋯⋯。
ある日、魚を山のように引くほど釣った帰り道。
リヤカーをゴトゴトと引いていると、一匹の亀が山積みにされた魚を掻き分けて、太郎の前に飛び出しました。
「おや? 亀まで釣っていたのか。お前を食ったりはしないから海へお返り」
心優しい太郎は亀を見逃してあげようとしました。
「そうはいきません。 私はあなたに釣られた同胞を助けなければならないのです!」
「なにィ!? 亀が喋るとは、これはたまげた!」
「我こそは龍宮城の勇者! ここで会ったが百年目⋯⋯うぐっ!?」
ガチャン!
太郎は亀が啖呵を切る途中、頑丈な鎖で縛り上げてしまいました。
そして、機械的な微笑みを浮かべて言いました。
「今、龍宮城⋯⋯と言ったかな? お前さん、普通の亀じゃあないね?」
「ぐっ⋯⋯。もちろん、そうです⋯⋯。私は厳しい勇者オーディションの最終選考で落とされたものの、合格者のサメが不祥事を起こして繰り上げ合格をして今ここにいるのです!」
「龍宮城⋯⋯。くくっ、やはり実在したのか!」
微笑みは冷酷な薄ら笑いに切り替わり、やがて高笑いへ。
「ハハハハハーッ! 『あのウワサ』はどうやら本当だったようだな!」
「ひえっ? な、何なんですかあなたは? それに『あのウワサ』とは一体⋯⋯」
意外にノリノリな勇者亀は興味津々で『あのウワサ』について、おっかなびっくり訪ねました。
「ふん。お前さんがそれを知る必要があるのかい? いいや、無い!」
「そんな! 私は当事者ですよ? 知る権利があります!」
反論する亀を一瞥すると縛られて地に転がる彼に手を伸ばしました。
カチャリ⋯⋯
太郎は鎖を外し、亀を解放しました。
「亀さんよ、僕を龍宮城に連れて行ってくれないか?」
先ほどまでとは打って変わり、太郎は柔和な表情になると頭を下げました。
亀は恐怖しながらも考えました。
この人間は拒否したところで構わず単独で龍宮城を探し当てるだろうと。
ならばいっその事、我々のホームである海の中へ、すなわち龍宮城までおびき寄せ、精鋭たちで囲んでしまえば捕らえる事も容易なのでは?
「あなたの目的は分かりませんが、いいでしょう。 龍宮城へお連れします」
「ありがとう、恩に着るよ。では早速⋯⋯」
そう言うと太郎はリヤカーの取っ手を掴みました。
「海産物の売却だああっ!」
太郎は今までになくとびきりいい笑顔で、町まで一直線にリヤカーを引いて走り出しました。
「お、鬼ー!」
太郎の背中に投げつけた言葉は無情にも晴天に響き渡るだけでした。




