78.どこに惚れた?
終業の鐘が鳴ると、香織のもとに女子会メンバーの二人がやって来た。
「・・・大丈夫?原田さん。今日は疲れたでしょう?」
「田中さん・・・、中川さん・・・」
香織は申し訳なさそうに二人を見つめた。
「田中さん、中川さん・・・。朝はありがとうございます・・・。あの・・・、黙っててごめんなさい・・・」
香織は頭を下げた。
「なんで、原田さんが謝るの?言えないって、誰だって」
田中は優しく言うと、中川も、
「うん、言えない。私だって彼氏が副社長だったら、口が裂けても言わない。絶対黙ってる」
そう言い、香織の肩をポンと叩いて、
「月曜だけど、飲み行く?話聞くよ」
「・・・いいんですか?」
「って、うちらが話聞きたいだけなんだけどね」
と悪戯っぽく笑った。
二人の可愛らしい笑みに、香織の頬も緩んだ。
☆
「それにしても、副社長って『俺様』的な王子様だったのね。正直、意外だった。てっきりシンデレラの王子様のような、優しい人だと思っていたから」
「ホントに~。私も、金曜日の態度に驚いちゃいましたよ」
ビールを飲みながら話す中川に、田中が頷いた。
「でも、格好良かったね、副社長。原田さんを庇うところ。会長にあんな風に盾突くなんてさ」
中川はにっこり笑って、香織を見た。
香織は真っ赤になって俯いた。
「ま、でも、原田さん的には焦ったでしょうね」
田中も笑いながら、香織の空いたグラスにビールを注いだ。
「正直、全身の血液が凍り付きましたよ・・・」
香織は注いでもらったビールを口にすると、小さくため息を付いた。
「ふふふ。じゃあ、この間の秘書室の子たちの飲み会なんて、生きた心地しなかったんじゃない?」
中川は思い出したように笑いだした。
香織は肩を竦めた。
それを見て、田中も笑いだした。
「あれは、私だって生きた心地しなかったですよ~。もう二度とごめんですね、あの二人と飲むのは」
「正直、あの時も泣きそうでした・・・。それに、あの二人にも知られていると思うと、もう今も生きた心地がしません・・・」
「うーん、そうねえ、当分の間、役員フロアには行かない方がいいと思う。まあ、部長も野暮じゃないから、もう原田さんに書類のお使いは頼まないと思うけど。もし今度頼まれたら私が代わってあげるね」
中川はにっこり笑った。田中も「私も、私も」と頷いてくれる。
二人の優しさに香織は涙が出そうになった。
「ね、ね、それよりも、副社長とどうやって知り合ったの?」
少し話が落ち着くと、本題とばかりに中川が身を乗り出すように聞いてきた。
「そう!それ気になる!どうやって付き合うことになったの?あんな王子様を落としたテクニック伝授してほしい!今、攻略中の人に使いたい!どうしても落としたいの!」
田中も目をキラキラさせている。
「え・・・、えっと・・・。知り合ったのは祖父同士が知合いで、その・・・、お見合いみたいなものです・・・」
「え!お見合い?」
二人は驚いたように目を丸めた。
「え?お見合いなら、なんで会長が反対なの?」
「あ、副社長のお母さま方のおじいさんの紹介なので、会長はご存じなかったというか・・・。まあ、反対ですよね。普通に良いところのご令嬢がいいに決まってますから」
「・・・それにしても、お見合いって・・・」
中川は納得していないようだ。
だが、香織も詳細に語る勇気はない。
「まあまあ、友達同士の紹介だってお見合いみたいなもんじゃないですか。お付き合いに至るまでの過程を聞きたい!私も友達の紹介なんですよ!」
田中は自分のこれからの戦略を練るためか、メモにでも書き留めるくらいの勢いで食らい付く。
(う・・・、酔いつぶれて、気付けばホテルでしたなんて、口が裂けても言えない・・・)
自分の身持ちの悪さも疑われるだけでなく、陽一のイメージも崩すことになる。
その上、「体で落としました!」って胸を張って言えるほどの魅惑的なボディでもない・・・。
(あれ?何で陽一さんは私に執着したんだろう?)
やっぱり、最初はプライドが傷ついたからだけなのか?
それで執着しているうちに、気に入ってくれたのか?
逃げている時から疑問に思っていたことだが、人に説明するとなると、改めて疑問に思った。
香織は二人の熱い目線で我に返った。
先を促すように香織を見るが、陽一に気に入られて、自分が逃げていたなどとは、身の程知らずのようでとても言えない。
自然と意気投合したのだと、無難な回答をしておいた。
その間も疑問が消えなかった。
(はて?あの人、一体、私のどこを好きになったんだ???)




