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71.香織の父

綾子がお茶の支度終えて、居間で太一郎を待っていると、洗った手を自分のシャツで拭きながら、太一郎が入ってきた。


「お父さん、手はタオルで拭いてちょうだい」


「いいじゃねえか、綺麗にすりゃあ、なんだって。お!美味そうだな!」


ニコニコしながら椅子に座ると、早速、大福を頬張った。


「そう言えば、綾子。お前、香世子ちゃんの墓参りしてきたんだってな。幸ちゃんと奥さんからお礼を言われたよ。とても喜んでたぞ!」


「・・・」


「正直、お前は覚えていないと思っていたんだけどなぁ。幸ちゃんのところに連れて行ったのは小さいころだし、それに数回程度だったから」


「・・・香世子ちゃんとは、暫くの間、手紙のやり取りもしていたのよ。それも、小学校までだけど・・・」


綾子は湯呑に目を落としながら、呟くように言った。


「ただね、私、あの頃、学校でお友達がいなかったでしょ?引越ししたばっかりで。だから香世子ちゃんが仲良くしてくれたことは、私にとって、とっても嬉しくて大きな出来事だったの・・・」


太一郎はそんな綾子をしんみりと見つめた。


「そうだったのか・・・。悪かったな。訃報の連絡をしなくて・・・。なんせ急な事故だったから」


そして、すまなそうに呟くと、ズズっとお茶をすすった。


「それに、あの頃のお前は本当に忙しそうだったから。陽一もまだ小さかったし・・・」


「・・・そうね。あの頃は私も自分のことで精一杯だったから」


「・・・」


「・・・」


しんみりとした空気の中、太一郎は二個目の大福に手を伸ばした。


「・・・香世子ちゃんって、お婿さんを貰っていたのね。ご両親の農家を継ぐ予定だったって聞いたわ」


綾子も気を取り直して、大福に手を伸ばした。


「そう、そうなんだよ!幸ちゃんは、農家を継がせる気はなかったらしいけどな。香世子ちゃんのことは嫁にやるつもりだったらしい。だけどな」


太一郎は大福をもぐもぐ食べながら、興奮気味に話し出した。


「その婿さんってやらの両親が、香世子ちゃんとの結婚を大反対してな。無理にでも結婚するなら、勘当だー!って言われて、あー、そうですか!それで結構ですってな形で、原田家に婿入りしたらしいぞ」


「・・・」


「どうやら、良いところのボンボンだったらしいんだよ。それが農家の娘と結婚なんてってことで、反対食らっちまったらしいんだよな」


「・・・」


「もともと農業に興味があった青年らしいけどな。それにしても、あっさり家を捨てて原田家に入るとは、よっぽど香世子ちゃんに惚れたんだろうねぇ」


綾子は言葉が出なかった。

自分も似た境遇だ。

一般家庭の自分と佐田家では家の格が違い過ぎると、大反対をされたのだ。

だが、流石に勘当とまでは言われなかった。


「でも、そのせいで、先方のご両親は香織ちゃんのことを孫とは認めてないようだ。ほとんど会ったことがないそうだよ、可哀相になぁ」


「・・・そう・・・」


香織への祖父母の溺愛ぶりは、先日の二人と話した会話からも容易に伺える。

孫だから、愛娘の忘れ形見だからと言うだけでは収まらない愛情を感じていた。

おそらく、亡き両親だけでなく、父方の祖父母の分の愛情も込めて育てたのだろう。


そう思うと、切ない気持ちになると同時に、責任感も沸いてくる。

そんな大切な子を貰おうとする陽一には、ますます身を引き締めてもらわねばならない。


(香世子ちゃんもあの子も同じ素質を持っているのかしらね)


二代続けての格差婚。

そして、その二人と同じ境遇の自分。

三人の共通点に不思議な縁を感じる。


それにしても、勘当とまで言い切り、本当に縁を切るなど、どれほどだろうか。

感情論から発し、引くに引けなくなったのか?

それともそれ相応の格式のある家なのか・・・?


「ねえ、お父さん。その香世子ちゃんの旦那さんのご実家ってどのようなお家なの?苗字は?」


「さあねえ?そこんとこは良く聞いてねえなぁ」


「絶縁するって相当よね?正幸さんですら絶縁されなかったのよ」


「そりゃ、そうだ!お前をやって絶縁するような家になんて、俺だってお断りだ!」


あ、言い方間違ったと綾子は思い、慌てて、


「まあ、一般論として、絶縁って相当よね?ってことよ。言いたいことは」


そう言い直すと、太一郎の湯呑にお茶を継ぎ足した。


「お、おう。まあ、そうだろうなぁ」


太一郎は綾子が入れたお茶を熱そうにすすりながら答えた。


(調べてみる価値はあるかしら・・・?)


綾子はそう思いながら、大福を口にした。


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