55.出来るオオカミ
香織が自ら自分の胸にそっと顔を埋めた時、陽一は一瞬だけ頭が真っ白になった。
あれだけ自分から挑発しておいて、いざ、香織から身を任せられると、一気に気持ちが上昇した。
それと同時に、やっと振り向いてもらえた安堵感も広がり、ホッと溜息を付いた。
優しく香織の髪を撫でると、そっと抱きしめた。
香織の両手もおずおずと自分の背中に回される。
その行為が嬉しくて、香織を抱きしめる腕に力を込めた。
暫く抱きしめた後、ゆっくり体を離すと、香織の顎をすくい上げた。
香織は熱を帯びて目で自分を見ている。でも、すぐに目を閉じた。
陽一はすぐには口づけを落とさずに、その顔に見入った。
優しく親指で香織の唇を撫でる。
香織が不思議そうに眼を開けた時、陽一はやっと香織にキスを落とした。
何度も角度を変えて唇を重ねる。
最初は触れるだけだった優しい口づけも少しずつ深くなっていく。
ゆっくりと入ってくる舌は以前と違って、優しく香織の舌を絡めとった。
そして、お互いの存在を確かめ合うように深く深く合わさっていく。
口から洩れる香織の吐息と可愛らしい喘ぎ声が、ますます陽一を掻き立てる。
止めることができずに、口づけに夢中になった。
香織が立っていられないとばかりに、陽一の腕を握りしめた時、やっと香織を解放した。
とろけるような瞳で自分を見つめている香織の耳元に、
「家に行くぞ」
と囁いた。
香織は黙ってコクンと頷いた。
その可愛らしい態度に、堪らずもう一度口づけすると、香織の手を引いて、駐車場を後にした。
☆
香織が目を覚ましたのは、10時をとうに過ぎていた。
顔を上げて隣を見ると、陽一の姿はない。もう起きているようだ。
(い、生きてる・・・)
香織は目の前に両手を広げてまじまじと見た。
そして昨日の夜の事を思い出して、カーっと熱くなり、枕に顔を埋めた。
(食べつくされるかと思った・・・)
駐車場での優しい口づけから一転、部屋に戻った陽一は獣に豹変した。
香織を乱暴にベッドに押し倒すと、
「悪いけど、優しくはできないから。限界を超えてるんで」
そう言って、オオカミのように香織を襲ってきた。
まるで骨の髄までしゃぶるように全身を隈なく愛され、ドロドロに溶かされてしまった。
最後の方は昇天してしまったようで、記憶がない。
確かに、今までじらしたのは自分だ。
だが、その反動とは言え、
「ここまですごいとは・・・」
香織はヨロヨロとベッドから起きると、ブランケットで全身を包んで、ノソノソと廊下に出た。
そっとリビングを覗き込むと、陽一はどこかに電話している最中だった。
だが、香織に気が付くと中断して、呆れたような目線を向けると、
「やっと起きたのか。いつまで寝てるのかと思ったよ」
と、どこかで聞いたことのあるフレーズを口にした。
(さすが親子・・・)
「シャワールーム、勝手に使っていいぞ」
と香織が聞こうとしたことを先に言って、また電話に戻った。
邪魔しては悪いと、香織はそっとリビングの扉を閉め、シャワールームへ向かった。
シャワーから上がると、香織はおずおずとリビングに入って来た。
陽一はもう電話を終えていて、ソファに座って新聞を読んでいた。
「・・・シャワーありがとうございました・・・」
「ああ」
「・・・」
香織は昨日の夜の事を思い出して、まともに陽一の顔が見れない。
澄ました顔して新聞を読む陽一の顔が眩しく見えて、ますます目のやり場に困った。
どうしていいか分からず、もじもじと立ち尽くしている香織に、
「??何してるんだよ?こっちに座れば?」
陽一は、最初は不思議そうに見てたが、香織の顔がほのかに赤いのに気が付くと、新聞を置いて、香織に近づいてきた。
そして、香織の顔を覗き込むと、
「あれ?もしかして照れてる?」
と意地悪そうに笑って聞いてきた。
香織はボンッと真っ赤な顔になると、慌ててそっぽを向いた。
そんな香織の頭を撫でると、
「もう、朝食っていうよりブランチだな。さっきデリバリー頼んだからもう来るだろ。今、コーヒー淹れてやる」
そう言い、キッチンに向かった。
(で、出来過ぎる・・・。ホントにこんな人と釣り合うの?私・・・)
いきなり陽一の艶気に当てられ、クラクラしながらソファに座り込んだ。




