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25.沈静化

観光の間、昌子と香織は興奮しきりだった。

陽一が連れて行くポイントポイントがすべて美しい。

その上、八丈島が好きだと言っていた、太一郎が分かりやすくガイドをしてくれる。


映えスポットに来るたび、軽く悲鳴をあげながら、香織はスマホでバシャバシャ写真を撮りまくった。

その度に、昌子もはしゃいで、綾子を引き連れ、香織のスマホに収まろうとポーズを取る。


綾子は閉口したが、成されるがままにされているうち、いい加減慣れてきた。

自ら絶景ポイントを教え、はしゃぐ昌子と香織を写真に収めたりし始めた。


それに、そうして三人で仲良く固まっていれば、陽一は手が出せない。

綾子は密かに陽一を観察していると、諦めたのか、香織の傍に寄ってくる気配はない。

綾子は少しだけ胸を撫でおろした。

この調子で今日は乗り切らないと!


(あのオオカミからこの子を守らないと・・・)


・・・ん? あら・・・?


綾子は自分の思いに疑問を感じ、慌てて首を振った。


(違う!違う!この子がうちの息子と釣り合わないの!この子を息子から遠ざけるのよ!)


昌子と香織のせいで、自分の思考回路が混乱しつつある。

確かに、自分は今、香織の味方だ。でもそれは、そもそも自分の息子のため・・・。

なのに、自分の息子だけ敵視しているのはなぜだ??


(誰のせいでこんなに苦労していると思っているの!)


自分の苦悩などお構いなしに、はしゃいでいる二人を軽く睨んだ。


(もともと能天気な子と思っていたけど・・・)


綾子は眉間に手を当てると、小さくため息を付いた、



                  ☆



陽一は、観光中も食事の時も、一切香織に近づこうとしなかった。

もちろん、香織自身も陽一に近づかないようにしていた。

だが、陽一の方は、隙あらば自分に近寄ってくるだろうと思い、香織は用心していたのだ。

しかし、陽一はそんな素振りを一切見せなかった。


『そうですね。やはり考え直した方がいいですかね』


昨日そう言った後の陽一の顔は、明らかに香織を煽っていた。

諦める気など全くなさそうに、勝ち誇った笑いをしていたのに・・・。


(案外、本気で言ってたのかも・・・)


香織はちょっと胸の辺りをキュッと締め付けられる思いがした。

自分ができるだけ綾子から離れないように注意しておきながら、陽一からの接触が無いことに寂しさを感じるなんて、全くもって矛盾している。


(寂しいなんて思っちゃだめだ!落ちちゃいけないんだから。昨日の言葉が本当の方がいいんだから・・・)


陽一に惹かれつつある気持ちを早く断ち切らないと、ここまでしてくれる綾子にも申し訳ない。


(しっかりしろ!私!)


香織は自分に活を入れ直し、帰りまでの残り僅かな時間、できるだけ陽一を自分の視野に入れないように努力した。



                  ☆



羽田までの帰りの飛行機の座席も、しっかり綾子が牛耳り、陽一と香織の席はかなり離された。

それに対し、陽一は一切文句を言わない。


「・・・」


香織は陽一を盗み見るも、陽一はもう香織の事など、気にもかけていない様子だった。


「・・・噴火、無事に沈静化したみたいですね・・・」


香織は呟くように綾子に言った。


「何言っているの。まだ油断ならないわ」


綾子は軽く陽一を睨みながら、小声で答えた。


「これからも気を抜いてはダメよ」


「・・・」


いやいや、もうあの顔は完全に自分に興味を失せた顔だ。香織は首を竦めた。

ほらね、やっぱりこうなるんだ・・・。王子様のご乱心だったんだ・・・。

正気に戻れば、こうやってさっさと捨てられるんだ。


飛行機に乗り込むと、香織は空の景色を見ながら、昨日の出来事を思い返した。


(いい思い出にすることにしよう・・・)


陽一との昨日のこと・・・。

あんな沖まで自分を連れて行ってくれたこと。

その時にキスをねだった悪戯っぽい笑み。

コテージで抱きしめられた後に、自分を見つめた熱い瞳。


これは自分の黒歴史には入れずに、大切に持っていよう。

ちゃんと思いを伝えられたことは無いし、意地で自分に執着していただけだったとしても、あの一瞬だけは、確かに自分に好意を寄せていたと思いたい。


香織は窓の外に広がる海をずっと見つめていた。

いつの間にか、その景色は自分の涙で霞んだが、それでもずっと外を見ていた。


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