第七話 メイド その魔術
「テレ.....ポート.....?」
突然の視界に映る景色の移り変わりに一瞬動揺する。状況的に今ここで魔術が発動されたのだろう。
そして、その発動者はこれまた状況的に目の前のメイドだと考えられる。
『転送魔術』。今最も研究されている魔術のうちの一つだ。
この魔術の実用が容易に可能になれば、日常的な場所の行き来はもちろん。他の街や他国との貿易にも大きな改革が起きる。
この短い期間でアラタは二回の『転送魔術』を経験した。本来それは魔術を扱える者でも人生で一度体験するかしないかのものだ。
二、三秒の思考の後、とりあえず自分の予想が現実であるかの確認から始めた。
「なあ...今の『転送魔術』、えぇと.....エミアがやったのか?」
「はい。わたくしの魔術です。急な出来事に驚いてしまいましたか?魔術学園の生徒の方と聞きましたので、この様な体験には耐性があるものだと思っていました。」
『転送魔術』に慣れている奴なんてそうそういない。
今アラタの知り合いでそう言った体験を常日頃から経験している人物といえば、せいぜいライ=ディグロスの化物ぐらいだろう。
とある貴族のメイド。こういった意外な場所に、優れた逸材は描かれているのだろうか。
屋敷に入れられ、扉を閉めたエミアは、またこっちに振り向きさっきと同じ様に手を差し出してきた。
「では、もう一度。今度はルナ様がお待ちのお部屋の前に飛びます。」
「あれ?そういえばなんで部屋まで一気に飛ばず屋敷の前に飛んだんだ?飛べる距離に制限があるのか?」
「いえ。私の術式、『従者の空間』はこの屋敷とその周辺でのみ使用できます。そして、この屋敷には外から内に対しての魔術効果を阻害する結界が張られております。なのでルナ様のお部屋まで行く際は、一度こうやって自分の足で屋敷内に入る必要があるのです。」
「へぇ.....。」
自分で聞いといてなんだが、自分の術式をこんなに簡単に喋っていいのだろうか。アラタは一瞬そんな考えが過ぎった。
しかし、彼女は魔術師ではあるが、その術式は戦いを目的にしたものではない。
同じ術師や知能の高いモンスターと戦う際に、自らの手の内を明かすことは大きなリスクを伴う。だが、彼女はこの屋敷に使える以上、少なくともモンスターと戦う場面はそうないだろう。
よって、彼女は魔術的な意味で相手を警戒することはない。アラタはそう解釈した。
考えを終えると、アラタはさっきからずっと自分に差し出されている小さな手に目をやった。
さっきは急なことで余り気にしていなかったが、女子に手に触れろと言われると、彼も少し緊張する。が、ここであからさまに照れるのも格好がつかないので、彼は先程より若干ぎこちなくエミアの手のひらに自分の手を置いた。
「おわっ!!」
瞬間また周りの景色が一変する。今度は当たり前だが室内。屋敷の廊下に出た。
今までは不意に何処かに飛ばされていたが、しっかりと意識してテレポートするのはまた違った感覚がある。気がした。
「ここがルナ様がお待ちしているお部屋です。」
彼女は一番近くの扉に向かい、二回のノックの後、その扉を開けた。




