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モブ×ゲーム  作者: 衣太
そして選択へ
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生きること

 街を覆う全てのエネミーをトレインする。この発想に至ったのは、『領域拡張』以前に、『運び屋』スキルを愛用していたのが大きい。

 運び屋スキルは派生なしのステータス上昇スキルだが、ある一定条件を満たすことで特殊効果を発動させる。それは他のパッシブスキルを止めることなく発動するので、条件を満たせば、1つ多いパッシブスキルを発動させることができるのだ。



「運び屋スキルの効果は4つ。まず1つは常時発動のステータス上昇、主に耐久方面だね。2つ目は、人数制限のあるお使いクエストを優先的に受けられること。3つ目が、エネミーにターゲットにされている最中、スタミナ消費量が極端に減少すること。最後の4つ目は、3つ目の条件を満たしている間、ターゲットの距離及び数に制限がなくなること」



 食後の歓談タイム。今日は珍しく、生産者の家に住む全てのメンバーがここに揃っている。食後は即部屋に戻って作業するユーリまでもがこの場に居るのは、一月に一回もない。

 作り置きしてあったクッキーに合わせコーヒーを用意し話が始まったのは、3日前の災害のことだった。


 街の襲撃イベントから3日が経った。

 ダグザから引き剥がした10万を超えるエネミーを1日以上引っ張りまわし、ネヴァンの防衛が終わったトッププレイヤーが増援に来てそれらを狩り尽くすのは、イベントから48時間以上が経過した頃だった。その間、ずっと街を離れていた。街に居るメンバーと連絡を取り合ってはいたが大量のエネミーを連れている以上戻るにも戻れず、ダグザに残ったメンバーは大型の処理や復旧に大忙しだったと聞く。

 彼女らには本当に申し訳ないことをした。有事に不在のギルドマスター代理で指示を出してくれたミッコには、特に頭が上がらない。



「ま、普段使えるのは1つ目と3つ目くらいだね。4つ目は特殊条件に近くて、普段は発動しているのかも分からない。けど、10km離れようがターゲティングが続くってのは驚きだったよ」


「……それがあるから、あんなことをしたんですか?」



 アイが、上目遣いでこちらを見る。少し泣きそうな彼女の顔を正面から見ると、心配かけてごめんと、話を止めて言いたくなる。



「ま、それもあるね。『領域拡張』がなかったら、直接感染呪術でトレインするつもりだったけど、それでも『運び屋』前提なわけだし」


「キヌさんはその代償で、MPをなくしたわけですよね」


「マイナス2100万は流石に驚いたけど、まぁ……街から出ないなら、不便はないかな?」


「全回復まで、半年以上かかるって、聞きました」


「……うん、だからごめん、しばらく一緒に狩りに行くことはできない」


「それはいいんです!」



 アイが、珍しく大きな声を出す。

 普段は、例え戦闘中でもここまで大きな声を出すことはない。そんな彼女が、声を荒げるのだ。



「……ごめんね」


「謝らないで下さい。だって……その……」



 アイは下を向き、言葉を止める。



「キヌさん、半年以上街から出れないって、それでもいいんですか?」



 言葉が詰まったアイに変わり、ミキが続ける。アイはコクリと無言で頷き、意見の一致を知らせてくれる。



「……どうだろ、ただ、『感染呪術』『運び屋』『領域拡張』の3つを持ってるのはあの場では俺だけだったから、やるしかないかなって」


「ま、そんな組み合わせで持っとるのは、君くらいやろなぁ」



 2杯目のコーヒーを飲みきり、3杯目を注ぐミッコが、そう代弁してくれる。『領域拡張』には他の入手手段もあったかもしれないが、それでも、こんな組み合わせでスキルを所持していたのは、きっと自分だけだったのだろう。



「幸い料理にはMP使わないし、0以下でも生活に問題はない……かなぁ」


「偽善者って言いたいところだけど……ま、キヌさんはそんな人じゃないんだよね。もっとこう打算的というか、馬鹿というか」



 そう言うのは、家主の八重だ。

 彼女はこの街では有名な生産者の一人であり、ギルドメンバーの知名度においては、弓特化生産者であるユーリの次の知名度を誇る。トッププレイヤーの顧客も多く、同業生産者の支援も行っている、この街だけではなく、外にも有名なプレイヤーだ。

 そんな彼女にも、馬鹿と言われてしまう。トレインしてから様々な人に馬鹿と言われて慣れてきたような気がするが、やっぱりちょっと傷つく。



「あれ、また馬鹿って言われた気がする」


「いやぁ、いくらなんでも、他に何かあったでしょ。私は浮かばないけど」


「……あったのかなぁ」


「運営も、流石に一人がトレインして時間稼ぎするなんて考えないでしょ。結局10万以上居たんだって?」


「リクが言うに、12万ちょっとは居たっぽい? 6時間で狩り尽くされたからそんな多く居た気はしないんだけど……」


「ネヴァン連中、ほんと化けもんだね」


「それは否定できないですよ。なんか本当に、時間が悪かったんですよね」


「時間、そうねえ。夜とはいわないけど、夕方ならもう少し戦闘職の人が居たはずなのに……」



 時間が悪かった。それは、ダグザに住む全ての住人が一致した意見だった。

 この街、ダグザは、昼間は生産者とNPCしか街に残っていない。戦闘職のプレイヤーは、皆最前線であるネヴァンを拠点として活動しているからだ。

 夕方や夜なら、狩りを終えたネヴァンのプレイヤー達も大勢ダグザにやってくるし、その時に襲撃があったならば、自分がトレインなどしなくとも、襲撃してきたエネミー全てを打ち倒せたかもしれない。

 かも、しれない。


 だが結果として、この街に戦闘職のプレイヤーがほとんど居ない昼間に、襲撃があった。

 ポータルが使えなくなったのは午前中。偶然その時間ダグザに残っていたトッププレイヤーは少なく、ただでさえ少ない彼らも、走ってネヴァンに向かう有様。

 結果、明らかに防衛に足りない人数で、この街が襲われてしまった。最後に戦闘したのは1年前とか半年前の生産職プレイヤーが束になっても連携は取れないし、個々の戦闘力も低い。そんな状況で防衛が行えるとは思えなかったし、現に北門は崩壊してしまった。


 NPCへの被害は奇跡的に少なく、避難時の混乱で怪我人が出た程度のようで死者は一人も居ないと聞かされた。それでも、プレイヤーの多くは複数回のデスペナルティを受けたことだろう。

 もう二度と、あんな思いはしたくない。それは、この街に住む全てのプレイヤー、NPCの気持ちだ。



「自分が踏んじゃったイベントフラグだから、自分でケリを付けたかった……そんな気持ちが、あったんだと思います」



 そう告白する。

 イベントフラグについては、簡単ながら説明はしていた。リクからの依頼を完遂したことが今回街が襲撃されることに繋がったこと、被害なしでの攻略はほぼ不可能に思えるほどの難易度だったのは、自分が“穴”をついて攻略してしまったこと。

 そう考えれば、全ての原因は自分だ。



「いやそれ、キヌさんがやらなくても、いつかは誰かがやったんですよね?」


「うーん、まぁ、そうだと思うけど……」


「じゃあ変わらないですよ。だからそれはキヌさんが悪いんじゃなくて、イベントフラグをこんなとこに設定した運営が悪いんです。デバッグ足りてないんですよ。キヌさんがクリアできなかったらこんなことにはならなかったわけですし」



 そう優しい言葉をくれたのは陽。文学少女のような大人しい見た目とは裏腹にかなりのリアリストである彼女の言葉は、今この場においては、身に染みる言葉だった。

 ……失敗すればよかったが優しい言葉に感じるほどに、気が落ちていたというのはあるが。



「……そうだと、良いんだけどなぁ」


「キヌさんは、充分すぎるほどに責任を果たしました。責める人なんて、ここには居ませんから」


「そうね。結局街への被害は最小限に抑えられたみたいだし、キヌさんより早くに同じ行動ができた人は居なかったんだから。ヨっちゃんの言う通りだよ。キヌさんが気に病むことはないと、私は思うけどな」


「私もそう思います!」



 八重とミキは、そう励ましてくれる。

 一年間一緒に暮らしてきた彼女らにそう言われると、罪悪感も薄れてくるというものだ。



「で、これからどうするの?」



 八重のその言葉に皆が賛同したのか、無言で頷き、こちらを見る。

 どう答えれば正解だろうか。少しだけそう考え、正解などないのだと知る。

 正しい答えなどではなく、自分の意見を聞かれているのだ。これからしたいこと、やりたいこと。それを、聞かれている。



「店を開こうかなって、ちょっと考えてるんだよね」



 MPが半年以上回復しないこと。丸一日それを考え、できること、やりたいことを考えた結果、上がった選択肢。

 店を出すこと。リアルでも、飲食店で働いていた時代があった。専門学校に通っていた頃、飲食店で働き始めたばかりの頃は、「いつか店を開ければ」くらいには思っていたのだ。

 いつしかそんな夢もなくなったが、その夢をここで叶えようと思ったのは、今回の件が大きいだろう。


 ゲーム内で、飲食店を開く。

 このゲームにおいては、武具なり装飾品を売る店を開くプレイヤーは多いが、飲食店はまだNPCが主体だ。ネヴァンが解禁されて誰もが料理スキルを獲得できるようになったとはいえ、料理人口はあまり増えていない。

 生産職として見ても、まだ大分“趣味職業”と言わざるをえない、料理人だ。



「あ、レストランですか!? 良いですね通います!」



 真っ先に賛同してくれたミキは、なんだろう、あまり何も考えてないように思える。今の話題でも、ほとんど口を挟まなかったし。

 ただ、彼女は普段からそんなノリだ。若いからだろうか。ゲーマーの苦悩とか、めんどくさい人間関係とか、そういうのを投げ捨てて体当たりでコミュニケーションを図る姿は、羨ましいとも思える。



「ならアタシ達も、食べに行くことになるかな? なるべく近くだとありがたいなぁ」


「そうねぇ」



 陽と八重の二人にも同意される。料理人としてこの家に住みだしたのは、この二人と出会ったからだ。

 見た目バンギャの借金王と文学少女。どう見ても相性がよくなそうな二人はリアルからの仲らしく、二人にしか分からない昔話を、よくしていた。

 八重は忙しくあまり部屋から出ることはないし、陽も普段は店先に立つので、二人が交流しているところを見ることはあまりない。それでも、二人の関係だけはこの1年ではっきりと分かったのだ。誰もが邪魔できない、二人だけの関係を。



「……私、家から出たくないからメシの宅配よろ」



 同意したわけでもないが、否定したわけでもない、そんなことを口にしたのは、ユーリ。

 誰よりも家から出ないのに、ギルドの誰よりも有名な腐女子。弓専門の生産者という特異な立場で、現在このゲーム上、最も高レベルの弓を作れる生産プレイヤーだ。

 多少扱いに面倒なフシはあるが、根が悪人ではないということを知っている。

 宅配を頼まれたが、別に家を住み替えるわけではない。宅配などしなくとも、店を開いてからもこの家で料理をすることになるだろう。自分のご飯くらい落ち着いて家で食べたいし。



「わたしも賛成よぉ。やることないより、あるほうが楽しめるからね? 栄子は……どっちでもよさそうねぇ……」


「うん」



 リアル母子である、ミッコと栄子も同意してくれる。

 栄子は鍛冶師ではあるが、ユーリや八重ほどに有名ではない。トッププレイヤーではなく、ミドル層への供給を目的としているのもあるが、本人にはあまり上昇志向がないようだ。

 ミッコには、普段から世話になっている。それに今回、街の北側に集まるボスクラスのエネミー全てを一人で押し留め、被害を最小限にしたのは、彼女の実力に頼ったところが大きい。

 ミッコが居なければ、被害はもっと広がったことだろう。生産者でありながら、ときに戦闘職のプレイヤーよりも強い彼女には、いつも助けられている。



「……っ、私は……」


「アイちゃんは、どう思う?」


「…………一緒に遊べないのは、寂しいです」



 そんな小さな声で告白してくれたのは、この家で最後に入居した、アイ。

 恥ずかしいのだろう。頬を少し赤く染め、下を向いたまま、彼女はそう口にする。



「そんなら、料理教えてもらうとか、どうやろ?」


「……え?」


「ほら、キヌさん店出すなら、お手伝い必要やない? そこでついでに教えてもらうーとか、悪くないと思うけどなぁ」



 主婦経験のある(リアルでも主婦のはずだが)ミッコは、そんなアドバイスをくれる。

 そういえば、アイは以前より料理をしたがっている様子があった。スキルがないので教えようもなかったが、ネヴァンが解禁された今、料理人には誰もがなれるし、誰もが持てるスキルとなっている。



「手伝って貰えたら、大分助かるなぁ」


「本当ですか!?」


「ほんとほんと、流石に一人だけだと店も相当小さくすることになるし、手伝ってくれる人が居るならそれ前提で店も開けるしね。もし手伝ってくれるなら、基礎を1から教えることもできるよ。一応、リアルでは専門学校出てるわけだし」


「……お願いします!」


「お願いされます。こちらからも、お願いね」


「はい!」



 アイからの協力も取り付けた。彼女の言う「遊び」には、狩りだけでなく、料理も含まれるのだろうか。

 光に照らされ、きらきらと輝く髪を持つ少女は笑う。これまでに見たことのないほど、良い笑顔で。







 この瞬間、明確にプレイヤーであることを辞めたのだと思う。

 一人の住人、一人の人間としてこの街で生きることを選んだのだ。


 そしていつか。


 逃げてしまった現実世界でも、ここと同じように人と関り合い、店を開くことができたなら。

 それを、願うばかり。





最後まで読んで頂けた方へ、感謝の言葉を申し上げます。

最終話を一番最初に書くという試みも、毎度ながら「終着点をあらかじめ設定しておくため」です。そうでもしないと、延々と似たような内容が続いちゃうんですよね。

今では使い古されたVRMMOジャンルで書きたかったのも、最初から最終話が決まっていたからです。

ブームの時に最終話を考えたものの、どうやってあの終わり方にしようか数年間決まらず、ようやく手を付けた次第です。

結局、自分でも「どうしてこうなったのか」は分かりません。所々プロットは作られてましたが、あまり参考になることもなく。

ジャンル柄イベントを増やせばもっと長く続けることもできたと思いますが、最終章「そして選択へ」の内容が大体決まった時点で、ここで終わらせようと決めました。結果、色々と中途半端なところはありますが、なんとか納得いく形で終わらせることができました。


VRMMO、料理人、銃、キヌ、リク、このあたりの設定は、なろうにVRMMOブームが来た頃からずっと使いたかったものですが、時代の移り変わりや自分の趣味嗜好の変化によってキャラクターも変化し、結果こうして出力されました。

なんでしょう、自己犠牲の精神なんて自分にはないと思ってますし、無形の主人公であるキヌは自分に似た行動をするはずなのに、結果、自分には理解のできない行動をしてしまいました。

そもそもペンネームの由来も数年前に作られたこの主人公なんですよね。当時のキヌはニートでもなければ家族も居たしコミュ力高かったし廃ゲーマーでもなければ可愛いキャラだったんですよ、原型は全く留めていません。どうしてこうなった。


主人公を主人公たらしめるのは何か、それをずっと悩みながらも、この小説をここで終わらせていただきます。

ありがとうございました。

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