羽目
敵愾心、ヘイトと呼ばれるシステムの話をしよう。
ヘイト値は、このゲームにおいて+10000から-100まで設定されている。一般的な戦闘においてヘイト値が+10000まで行くことはない。理由はいくつもあるが、まず最も大きい理由として、“そんなに貯まるまでに敵が死ぬ”というのがある。そして、+10000までヘイトが溜まっても死なないほどのエネミーは基本的にボスに該当する強敵であり、それらには全てヘイトリセットというシステムが実装されている。一定間隔や特殊行動ごとにヘイト値を初期までリセットすることで、常に緊張感のある戦いを強いられるシステムだ。
そのように、基本的にヘイト値の上限は迎えることはできない。しかし、“狙えば”上限まで上昇させることは可能となる。
ヘイトを管理する壁職、所謂タンクと呼ばれるビルド、プレイヤーは一般的にMPが少ないことが多く、ヘイト管理スキルを極端に連発することはできない。
それ故、壁職によるヘイト管理は“周りのプレイヤーより少しでも高いヘイト値を維持し続ける”ことが重要であり、それを行うために常にパーティメンバーの行動、攻撃を意識し、それら行動からパーティメンバーのヘイト値を把握し、僅かにそれらを上回るヘイト値を維持するプレイヤーが、最も優れたタンクプレイヤーと言えるだろう。
しかし、壁職ではないプレイヤーによるヘイト上昇値はスキル欄にも記載がなく、一般的に数値で測れるものではない。それらは皆が感覚で掴むものであり、火力プレイヤーは「なんとなくだけどこれ以上大攻撃したらターゲットが剥がれるな」などと意識し、回復プレイヤーは「ここで大回復したらターゲットこっちに来る気がするから、ちょっと控えて小回復に留めておこう」などと意識する。
スキルによるヘイト上昇値が数値で書いてある壁職だけが、「ヒーラーの大回復は大体15くらい」、「アタッカーの最大火力スキルは5くらい」といったように、自身の扱うヘイト管理スキルとの因果関係で、それを把握するものなのだ。
しかし、火力でもなく、回復でもなく、極論、対象に直接触れる必要すら絶対ではない呪術師によるヘイト変動だけは、全く別のヘイト変動を行うのだ。
呪術師の『感染呪術』によるヘイト上昇スキル『怨嗟』は、スキルレベルとINTを参照した数値として、スキル自体の説明に「対象の敵愾心を○○%上昇」と書かれている。元となる数値は対象が既に持っているヘイト値から計算するものであり、例えば敵愾心が30%上がる状態で『怨嗟』を、エネミーAに30、エネミーBに10のヘイト値を貯めているプレイヤーに使えば、Aに42%、Bに13%のヘイトへと上昇させることになる。
プレイヤーではなくエネミーに使った場合、プレイヤーAが30、Bが20、Cが10で合計60のヘイト値を持ったエネミーには合計値の30%、つまり18のヘイト上昇を、感染呪術を用いたプレイヤーが与えることとなる。
ヘイトを数値で認識するプレイヤーはあまり多くない。ヘイト値とは内部的な数値であり、ゲーム内で合計値を見ることはできず、数値が見えなくとも、壁職のプレイヤーは鍛えた“勘”だけで操作するものだからだ。
話を戻そう。ヘイト値+10000を可能とするのは、一般的には感染呪術のみである。HPが極端に多いボスモンスターの場合は頻繁にヘイトリセットが行われるし、ヘイトリセットがなかったとしても、1時間連続戦闘で貯められるヘイト値など3000かそこらだ。
しかし、感染呪術のみに許されたヘイト値の%上昇は、その数値を軽々と突破する。
そしてその、逆も然り。
「いやこれ、想像以上にダルいな……」
誰も居ない洞窟に、そんな言葉が反響する。勿論、自分の声だ。
独り言はPCでオンラインゲームをしていた頃からの癖ではあるが、自分の体を動かしてプレイするこのゲーム内においては、あまり出ることはなかった。周囲には常に誰かしらが居ることが多かったのもあるし、ゲームというよりは生活として認識してしまっているというのもある。
「何がアクティブ値6だよ。普通に10以上あるじゃねえか……」
何度目かも分からないそんな言葉も少し反響すると、また静寂。
ダンジョンに入る前に聞いていた情報と、明らかに違っていたのだ。リクの送った偵察は計測を失敗したからなのか、計算を誤っていたのかは分からない。6以下という前提でスキルを使っていたから、入って早々死に戻りしかけて焦ったのはいまから40時間ほど前のこと。
もう、40時間も経過している。
マップの広さの割に分岐が皆無なのはありがたいが、分岐がないということはひたすら単純作業の繰り返しをすることになり、一言でいうと眠くなる。戦うことなく、『偵察』スキルによるパッシブ効果にエネミー反応があるたび自身のヘイトを減少させ、じっと息を殺して、エネミーが通り過ぎるのを待つ。
通路を塞ぐようにエネミーが立っている場合は、石を遠くに投げて音で引き寄せたり、手持ちの食料で釣ったりと様々な手法で、数多くのエネミーを回避してきた。
エネミーに遭遇すること幾百回、ようやくマップに終わりが見えてきたところだが、もう流石に眠気は限界だ。
小刻みに休憩を挟んでは居るものの、パッシブスキルで下げられるヘイト値には限度があるので睡眠を取れるほどでもないし、不規則に動いているエネミーの哨戒コースやターゲット範囲を全て把握するには試行回数が少なすぎる。
結果、ほぼ無休でここまで40時間籠りっぱなしなのだ。
ミキに調合してもらった特製の強壮薬を飲んだり、それでも眠気が来る時は誰かとプライベートチャットを行うなどして対応しているが、もう間もなく限界を迎えようとしている。
ギリギリで寝ずに堪えられているのが、マップの終点が近いから、という一点だけだ。
これで複数階層によって形成されているダンジョンだったらもう諦めて死に戻りしてもいいのではとも思えるが、それを確認するまでは戻れない。ここまで来たなら確認だけでもしなければとの一心で、なんとか耐えてきた。
「これたぶん、無休ソロの限界ギリギリとか、そういう設計なんだろうなぁ」
人間、多少無理でも出口が見えれば頑張れるものなのだ。故に、そこから導き出した結論。
40時間程度なら、なんとか動ける。特に不眠不休で動くようなネトゲーマーなら更に、だ。PC前から1週間以上動かないようなプレイヤーに会ったこともあるが、そういうのは基本的に生活に必要な“何か”を切り捨てているものだけ。具体的に言うと食事とか排泄とか。
ここはゲーム内であり、排泄の必要はない。空腹値は減るが、インベントリには無数のアイテムが存在する為、買いに戻る必要もない。そんな条件でギリギリ集中力を保ってられるのが、きっとこの40時間というラインなのだろう。
今後のことや無駄なこと、ビルドのことや、料理のこと。スキルのことや、職業のこと。そんなことを考えながら一人で歩いていたが、ついに出口に辿り着いた時には、ダンジョンの入場から42時間が経過した頃だった。
「出てきたよ、扉」
終点。マップを隅から隅まで何度見ても分岐を見逃したようには思えないし、エネミーが彷徨いている以外は特にギミックらしいギミックもなかった。だから、ここが終点のはずだ。
人ひとりが通れるくらいの小さな扉。それは洞窟のようなこの場所には明らかに不釣り合いな金の装飾がなされており、42時間ぶりに見た人工的な扉だ。
いや、この世界にはそぐわない、近代的な扉のようにも思える。いや、このくらいなら、街のビルにもあったろうか。
判断力が足らない。眠気と疲れで集中力は途切れかけ、扉の前で立ち止まることしかできない。達成感も何も、あったものではない。
「この扉明けたら地下への階段とかあったら、流石に帰る」
もしかしたらボス部屋に続いてるかもしれない。もしかしたら地下への入り口かもしれない。もしかしたら――そんな思考を退けて、「早く帰りたい」一心で扉に手を掛けてしまったのは、きっと集中力が切れてしまっていたからだろう。
普段なら、普段の自分なら、何も準備せず扉を開くことはきっとなかった。
きっと。
だって、扉の先にあったのは。
巨大な玉座と、そこに座るミノタウロス。
ミノタウロス、牛の頭を持った巨人には確か他の名前もあったな等と思考が巡る。集中力が戻ってきた証拠だろうか。
ミノタウロスは、こちらを見ているのか見ていないのかも分からない。目が合っているような気もするし、寝ているようにも見える。
どちらにせよ、動いていない。蛇に睨まれた蛙、いや、牛に睨まれた人か。よくわからない。
動いていいのか、動いてはいけないのか、何秒、何分経ったかも分からないが、ふと扉に手を掛けたままだったことを思い出す。
扉を閉めた。それはもう、扉が壊れるのではないかという勢いで。
◆
「ねえ、あれ何!? なんかでっかいミノタウロス居たんだけど!?? ここまで居たエネミー全部爬虫類とかだったのになんで最後牛!??」
扉を閉め一息を入れ、怒涛の叫びを浴びせる。
どうやらボス部屋手前のエリアにエネミーは寄ってこないようで、初めてちゃんとした休息が取れているとも言える。
『あ、やっぱ牛でしたかー』
「ってリクお前知ってたの!? ボス居るなら先に言えよ武器もほとんど持ってきてねえ戦えねえふざけんな!!」
『や、キヌさんならなんとかなるかなーと思いまして……無理でした?』
「無理に何もソッコーで扉閉めたから分かんねえ! ただデカすぎて戦える気がしねえ!!」
リクに思いの丈をぶちまけながら、先程見たものを思い出す。
身長は、10m以上あったろうか。座っていたので正確なところは言えないが、大体そのくらいに思える。
どう見ても、ボスだ。ソロで挑めるような相手ではないし、今ここで帰っても文句は言われないような気がする。
『レベル帯からしてHPは1億くらいだと思うんですけど……』
「俺のHP2000もねえんだが!? つーかそんなHP削れるわけねーだろ何考えてんだ俺ヘイトコントローラー! アタッカーじゃねえ!」
『なんかこう気合で! お願いします!』
「ハメ殺しでも出来ないと無理だっつーの!」
『え、ハメれたら倒せるんですか?』
うん? リクのトーンが突然変わった気がする。表情を見ないことには分からないが、これは悪巧みしてる時のトーンな、そんな気が、しないでもない。
「…………ちょっと待て、何させる気だ」
『ミノタウロス、扉開けたときには居たんですよね?』
「……居たけど」
『ってことはそれ、扱いはレイドボスじゃなくて“膨大なHPのある通常エネミー”ですね』
「……いや、知らんけど」
『できますよたぶん。ボス部屋ちょっと見た感じ、他の出入り口ありました?』
そう問われ、記憶を辿る。ミノタウロスのサイズに圧倒されあまり周囲を見渡してはいなかったが、階段のようなものや、ミノタウロスが通れるほどの扉などはなかったように思える。
「なかった……ような気がするけど、椅子の後ろとかは見えてないから分からん。座ってたし」
『わかりました。今一瞬だけダンジョンに舞夜さんを入れるので、パーティ申請お願いします。鶴舞の舞に、夜の二文字です』
「……舞夜って、誰」
『《オキュラス》の偵察担当です。たぶん1分も持たないので、準備してください』
「……オッケー」
パーティ画面を開く。勿論、現在は誰ともパーティを組んでいないので、表示されるのは《パーティを探す》《パーティを申し込む》の二つだけだ。
《パーティを申し込む》を選択。ポップされたウインドウにエアキーボードで“舞夜”と文字を打ち込み、彼に伝える。
「入力済んだよ、いつでもオッケー」
『じゃあ合図します、3、2、1、お願いします!』
パーティ申請、即座に受理される。
パーティ画面に舞夜という名が追加され、二人のパーティが作られる。
パーティを申請する以外に特に指示はされていないのでしばらく舞夜の文字を見ていると、彼(彼女?)の名前の横にある、MPバーが1割ほど減少、そして数秒後、HPバーが全損。
舞夜の名は灰色になり、ダンジョンから出たことが分かった。完全に、状況から見て、死に戻りしたとみて間違いないだろう。
…………何をしたかったのか、さっぱり分からない。
「で、何がしたかったの?」
『ちょっと待ってください。えーと、はい、そうです、そこで転移で、はい』
リクは誰かと会話しているようだ。そちらの会話もプライベートチャットに拾われるが、何をしているのかはさっぱり分からない。
しばらく待っていると天井に、紫色のモヤが浮かぶ。それは徐々に形作り、小さな蝙蝠へと変わった。
一瞬身構えてしまったが、エネミーではないと、青色のHPバーが教えてくれる。召喚獣かペットのどちらかだろうか。
蝙蝠は、天井にぶら下がったままこちらをじっと見つめてくる。
「……なんか蝙蝠出てきたけど」
『あ、居ますか? ならそれ掴んで、部屋に放り投げて下さい。キヌさんは入らないで良いので』
「え、ええー……」
動物虐待宣言をされる。流石に引いた。いや、動物型のエネミーを狩ることなど珍しくもないし、今更動物愛護を語るつもりはないが、流石に引いた。
この蝙蝠は、舞夜というプレイヤーの生み出した召喚獣か何かだ。召喚系のスキルには任意のパーティメンバーの元へ転移させるスキルもあり、それを用いて、ダンジョン最奥に居る自分の元へこの蝙蝠を送り込んだのだと検討はつく。
しかし、放り投げる、放り投げるか。
とりあえず蝙蝠に手を伸ばすと、天井から離れ、ぱたぱたと舞い、手のひらに降り立った。近距離でよく見ると豚鼻であまり可愛いとは言えないが、よく考えたら蝙蝠は可愛い動物ではない、はずだ。
うん、たぶん、そのはず。
手のひらに乗った蝙蝠は何をするでもなくこちらを見つめ、時折首を傾ける。うん、うん……
「ごめんね……」
扉を開けたが、放り投げることだけは避けたかったので、小さなスナップで飛び立たせる。
そしてすぐに扉を閉めた。ごめんよ、蝙蝠…………。
「で、どうするの、これから」
『はい、部屋の確認終わりました』
「……あー、それ見てたのね」
召喚獣のスキルには、召喚者とエネミーの視界を共有するスキルもあった。それを用いて、ボス部屋を確認していたのだろう。
プレイヤーがダンジョンから街へ死に戻りをし、全く違うエリアに居ても視界共有が使えるとは驚きだが、スキルが成長したらできるようになるのだろうか。
『観測したところ、部屋には他のエネミーの姿はなく、扉もそこ一箇所だけです。なので、出てくる心配はありません』
「あー…………それなら」
『ですです、全然ハメ殺しできますよ』
「できるなあ…………」
うん、できる。これだけの条件が揃っていれば、簡単にハメ殺せる。
そのやり方が正しい攻略法なのかは分からない。ミノタウロスがどれだけ強いのかも分からない以上、正攻法で倒せるほど弱かったとしても、今の自分にそれはできない。
パーティで挑んだら普通に倒せるかもしれない。しかし、火力担当ではない自分にできる攻撃など、この場では一つしかない。
「終わったら報告する」
『いい報告、期待してますね! 頑張ってください!』
チャットを切り、準備を整える。休んでも良いが、今のテンションならたぶんこのまま戦える。
むしろ、ダンジョンに入ってから今が一番集中できてると感じるほどだ。人は終わりが見えると頑張れると言うが、こうも集中力に差が出るとは、驚きだ。
「まずは散弾から、かな」
ボス部屋に続く扉を開け、入らずにミノタウロスがギリギリ見える角度を探す。扉の位置ではしゃがまないと頭までは見えなかったので、床に伏せ、インベントリから取り出した散弾銃を構え、銃士のプレイヤーがよくする“狙撃姿勢”をとる。見よう見真似、特に意味はない。ただ単に低い姿勢を取ったら、その姿勢に近づいただけとも言う。
全身を地に投げ出し、銃口をミノタウロスに向け、ゆっくりと息を吸い、止める。
撃つ。一発、二発、三発。三発目で、ヒットマーカーが見えた。一粒弾では命中率はそれほどよくないし、銃士と違って命中補助のある攻撃スキルが使えるわけでもない。だからただひたすら撃って、撃って、撃ち続ける。
ミノタウロスが立ち上がり、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。右手に巨大な斧を持っており、その刃だけで自分より明らかに大きい。一発でも喰らえば、余裕でHPは全損だ。
しかし、逃げない。地に伏せ、銃を撃ち続ける。時折マガジンを交換し、撃ち続ける。
ミノタウロスが、凡そ5mほどの距離まで近づいてきた。ここまで近づけば、毒魔法の射程だ。
『ヘッジホッグ』を一発、毒判定は貰えない。なので、二発、三発、四発、五発。
クールタイムを確認しながら、ひたすら毒魔法を撃ち続ける。毒状態にするだけだ。それだけでいい。二十発も撃ち込んだ頃、ようやくミノタウロスのHPバーの隣に毒状態を示すアイコンが浮かぶ。
成功だ。耐性の高いエネミーを毒状態にするのは、ひたすら数を繰り返して判定を続ける以外に方法がなく、Lv1の毒状態では、折角当てたところで数分で効果が切れるのは分かっている。しかも、割合ダメージを与えられるわけではない。あくまで5秒に1回、数百の固定ダメージを与えるだけだ。
しかし、この場、この状況においては、これが最も高いダメージソースと成り得る。ステータス補正がなく、スキルによる補正もない散弾銃で与えられるダメージなど、雀の涙に等しいからだ。
ミノタウロスは、5mほどの距離まで近づいてきても、それ以上は進まない。
いや、進めないのだ。
プレイヤー1人が通るのでやっとの扉を、10mを越す巨体のミノタウロスは通ることができない。だからミノタウロスは扉から少し離れたところで棒立ちし、こちらを見てくるに過ぎない。どれだけ魔法を当てられようと、どれだけ銃弾を喰らおうと、それ以上の行動ができない。
プログラムされて作られたエネミーであるミノタウロスは、ボス部屋の扉や壁を壊して攻撃してくることはない。扉などの非破壊部位はマップを構成しているプログラムであり、それを壊すことなど、このミノタウロスにはできないのだ。無論、プレイヤーにもできない。その権限がないからだ。しかし、それを悪用することはできる。
それがこの、ハメ殺しだ。
単純明快なハメ技。エネミーが破壊することのできない扉で境界線を作り、一方的に攻撃する。
このような単純なハメ技は、基本的にはデバッグなどの段階で消去され、プレイヤーが悪用することはあまりない。もしくは、プレイヤーが見つけ悪用が広まると、それを見た運営が対処し、同じ方法は使えなくなるのが常だ。
しかし、ここは違う。ここはβテスト時代には実装されていないダンジョンであり、ここまで来たプレイヤーが自分一人となると、話は違うのだ。
ピンポイントに監視でもしていない限り、この扉を用いたハメ技に運営が気付くのは、ミノタウロスを倒してからだ。だから今は許されている。単純な穴を突いた、単純なハメ技。しかし、こういうことを見つけ、乱用するのも、またプレイヤーなのだ。
「運営には悪いけど、倒させて貰うよ」
小さくそう呟き、銃を撃ち続ける。マガジン式の散弾銃に、拳銃が二挺。長期戦の準備はしていなかったので弾数もあまり多くはないが、それがなくなったところで、リクから渡された無尽蔵とも言えるMPポーションがある。全ての弾を使い切ったならば、毒魔法を使い続けるだけだ。
それもなくなったら、――――その時に考えよう。
弾丸も魔法も、ダメージは極僅か。いつ終わるかも分からない戦闘を、始めるのだ。
今は、出来ることを続ける。運営が気付く前に、終わらせるために。




