依頼
前話から少しだけ前のお話
「キヌさんキヌさん! ちょっと依頼がありまして!」
ゲーム開始当初から部屋を借りている生産者宅の扉を騒々しく叩くのは、ゲームを始める前からの友人であり、ゲーム内では金髪の美少年キャラをロールプレイしている成人男性、リクだ。
年齢ネタを振ると本気で怒るので避けてはいるが、実年齢は自分と変わらない。10年以上も交流のあるネトゲーマーはあまり多くなく、その中でも今このゲームをプレイし、ゲーム内でも交流があるプレイヤーまで絞ると、もうリクくらいしかいない。
そんな男だ。
「……や、チャットで流せよ」
「話が長くなるので直接説明しようかと! あ、上がっていいですか! ありがとうございますミキさん!!」
「リクさんお疲れ様です! 鎮静ポーションとか飲みますか?」
騒々しい美少年をリビングに通し、どこからともなく黄土色のいかにも不味そうなポーションを取り出したのは、この家に住む調合師のミキ。彼女との付き合いも、ゲーム内で1年以上になる。
……そう、もうサービス開始から1年を過ぎたのだ。いくつもイベントを迎え、ギルド《ホワイトフォレスト》のメンバーは200人を越す大所帯となっているが、生産者達の住むこの家を増築したわけではないので、住んでいるプレイヤーは当初と変わっていない。
ギルドホールとなっている隣のビルには、昼夜問わず大勢のNPCが集まっている。200人を超えるギルドメンバーのほぼ全てがNPC、所属しているプレイヤーは皆家に生産設備がありあまり外出はせず、ギルドホールを訪れることはないので当然といえば当然だが、ダグザで最もNPCの集まっている場所と言われたら、ギルド《ホワイトフォレスト》のギルドホールと答えられるだろう。
NPCが複数人所属しているギルドなど、乱立している大量のギルドを見ても、他に例がないだろうし。
「で、何? 生産の依頼なら個人に直接して。出張料理人なら俺がするけど、要件は?」
「ダンジョン攻略です!」
「…………や、無理だろ、レベル差いくつあると思ってんの」
攻略最前線を走るリクと生産職を選んで気分転換に狩りをするだけの自分とでは、あまりに戦闘能力に差がありすぎる。
適正狩場など全く違うし、今彼がどこで狩りをしているのかすら知らない。最前線に行く理由は、半年ほど前から始めた出張料理人サービスの時だけであり、その仕事でも、ダンジョンの手前までしか行かない。
リク達のパーティと同行するには、自分は弱すぎるのだ。半年程度では追いつけないほどの差が開いている以上、攻略に付き合うのは無謀としか言えない。ダンジョン手前で攻略プレイヤーに料理を振る舞うことでバフを与え、支援するので精一杯だ。
「や! えっと、そうではなくですね、キヌさん個人に攻略して欲しいダンジョンがあるんですよ!」
「……俺個人? それ、最近見つかったとこ?」
「です! 先週くらいに見つけて何度かトライしてたけどまったくもって無理なんで、試行錯誤してたところキヌさんに行き当たりまして! で、キヌさんのヘイトマイナスって今どのくらい維持できます?」
「維持? んー……」
咄嗟に分かるものではないので、メモを開いて計算する。
リクに聞かれた“ヘイトマイナス”と言われるのは、一般的には『隠蔽』など、ヘイト減少スキルに表示される数値のことだ。
ゲーム内で“ヘイト”と呼ばれるものは、ゲームテキスト上は“敵愾心”と書かれている。
敵愾心、ヘイト値は、このゲームでは+10000から-100まで設定されており、エネミーのターゲット圏内において、その値が最も高いプレイヤーがターゲットとなるという仕組みだ。
エネミーには“プレイヤーのヘイトがいくつからアクティブ化するか”が決定される固有アクティブ値というものが内部的に設定されており、それを下回る行動しかしていない場合、エネミーが自分から襲ってくることはない、ということだ。
ヘイトマイナス、つまりプレイヤーがヘイト値-1以下の数値を出すと、その数値はエネミーの固有アクティブ値と相殺され、最終的に合計数値が0以上になった場合攻撃してくるが、-1以下まで下げることができたならば、アクティブエネミーすらも素通りすることが可能になる。全てのエネミーがアクティブに設定されているダンジョンのエネミーの持つ固有アクティブ値は一般的に1以上なことが多く、それらを-1以下にするのは、容易なことではない。どのプレイヤーも、エネミーの近くを歩くだけで5程度のヘイトを与えてしまうからだ。
「あれ、ヘイトマイナスって、維持できるもんなんですか?」
そんな声を上げたのは、席に座り、ティラミスを頬張っていたミキだ。彼女が勝手に冷蔵庫にあるデザートを取り出し、「3時のデザートタイムです!」と宣言するのはもう日常茶飯事であり、リクの来襲する2分ほど前に、その宣言がなされたところだった。ちなみに、2時のデザートタイムもあるし、4時のデザートタイムもある。まあ、それも普段のことだ。
「僕のギルドのスカウトでも、維持となるとCTの問題があって2分くらいで限界なんですよねー」
「ですよね! 私も採取の為に隠蔽ツリー取ってますけど、パッシブの割合減少はともかくアクティブの固定値減少も使わないと素通りまでもいかないですし、よっぽど低レベルダンジョンなら行けるかも? って程度です!」
「キヌさんは感染呪術で減らせるから、もうちょっと維持できたりするもんなんですか? っていう質問です! あ、計算終わりました?」
いつの間にかミキと話しながらティラミスをつついているリクを横目で見ながら計算式を書き続けていると、そう声がかかる。
うん、もうちょっと待ってね。計算そんな簡単じゃないから。
「まだ終わらんよ。アクティブ値はいくつ?」
「ギルメン曰く6以上はないっぽいとのことですが、正確な数値までもは分からないです!」
「自慢げに言うな。んー……」
アクティブ値6ともなると、“一人なら無視されるが、二人居たら攻撃される”ラインであり、その数値設定からなんとなくソロ向けダンジョンとの予想は立てられる。
パーティ向けダンジョンならアクティブ値はもっと高いからだ。ソロで来た時の難易度を下げる目的もあるが、ソロで来ないなら低く設定する必要がないので、という結果論的な理由でもある。
「ま、最高6までなら3時間くらいは持つかな? いや、MPは持たないからポーション使い続けることにはなるけど」
「さ、さんじかんですか!???」
リクがティラミスを掬っていたスプーンを落とすほど動揺したが、3時間が長いのかは分からない。スキルの組み合わせとクールタイムを“上昇”ではなく“減少”で計算することなど滅多にないからだ。
固有アクティブ値6以上のエネミーが居ない場合なら、計算上3時間は-1を維持できることは分かったが、それで何ができるというわけでもない。エネミーに無視されるだけであり、触れるだけで襲われるし、攻撃どころか攻撃前の予備動作の時点でアクティブ化してしまう。できて、素通りすることくらいのものだ。
結局、ヘイトマイナスを3時間維持できたからといって、できるのはエネミーから離れたところで採取するくらいだ。自主的な採取を全く行わないスタイルの自分は採取系のスキルを取得しておらず、ロクな素材を獲得できないだろうが。
「……ちなみにそれ、どのくらい隙間開ければもう3時間持ちます?」
「どのくらいって……CTの切れ目なだけだから、2分待てば大丈夫だけど」
「2分でいいんですか!?」
「2分で良いけど……いや、何もできんでしょ」
彼には驚かれているようだが、こちとら生産職且つデバッファーだ。生存力は無ければ、単体の戦闘力などカスと言っても過言ではない。
最近はINTを生かして毒魔法を使うようにもなったが、全開で使ったところで“敵を倒す速度が3%弱早くなる”とかそんな程度でしかない。これだけで倒せるほど育ったスキルではないし、そもそも毒魔法は育ちきったところでダメージ補助にしかならない。数時間戦い続けるほど膨大なHPを持っているレイドボスに対して有効な程度で、シングルパーティで使うには不向きと言わざるを得ない。
それでも使い続けるのは、単純に“ヒット判定があり”、尚且つ“魔法自体にダメージ判定がない”という特徴故だ。感染呪術を当てたいが、攻撃を当てて自身のヘイトを変動させたくない、そんな時に有効だから、最近愛用しているに過ぎない。
「キヌさんへの依頼は、ダンジョンの探索なんです」
「探索? それ、脳筋ゴリ押しじゃ無理なの?」
ふと疑問。攻略最前線を走っているプレイヤーのうち、リクのギルドメンバーやその周りのプレイヤーは一般的に“物理馬鹿の脳筋”と言われるほど魔法軽視の構成であり、全員の圧倒的火力でねじ伏せるタイプの馬鹿共。
彼らほど火力偏重なパーティは他に多くはないだろうから、適正レベルで火力が足りないなんてことはありえないはずだ。もっとも物理無効な敵が出てきたら攻略どころではないだろうが、今のところそんなエネミーの情報は上がってこない。
「無理なんですよそれが!! 偶然見つけちゃった隠しダンジョンですが、敵のレベルが元ダンジョンより20くらいは高いので戦いながら進むのはまず不可能なんです!」
「……20て」
「僕らしか見つけてないみたいなので誰もクリアしてないですし、お宝とかあるかも? ってとこです!」
「あー……なるほどね」
つまりリクは、隠しダンジョンを誰よりも先に攻略しようとしたが自分達では行えないので、敵を倒して手に入る新しいドロップアイテムを無視してでも、“道中にあるかもしれないレアアイテム”を狙っているのだ。
簡単には見つからない隠しダンジョンにおいては、最初に見つけた特典としてそのようなレアアイテムがダンジョン内に設置されていることも多く、クリアよりも死に戻り前提のトレジャーハントを主目的としたパーティが組まれるのは一般的ではある。
「まぁ別にやれるとこまでやってもいいけど……」
「ほんとですか!? とりあえずMPPOTは山ほど押し付けるので! なんか滅茶苦茶広そうなので数日がかりになるかも?」
「……それ先に言えよ!!!」
数日て。思わず声を荒げてしまう。
一つのダンジョンに数日篭もるとか、流石に未経験だ。いや、PCでプレイするオンラインゲーム時代では何度も経験があるが、ここはいつでも休憩ができるPCゲームの世界ではない。
自分の体を動かし、歩き、休まないといけないゲームだ。
数日がかりのダンジョン攻略ともなると、流石に生活物資や装備の新調も意識しないといけないし、数日篭った結果成果0とか流石に落ち込むからなるべく避けたい。数時間で済むならなんとか、程度に思っていたが……。
「……数日って、何で分かんの?」
「構造次第ではもっと短いかもしれないんですが、マップの縮尺が明らかにおかしくて……戦闘0でも数日かかりそうな広さになりそうなんですよね……」
「……いや、まあ、良いけどさあ……」
うーん、いや、まあ、良いか。
リクの話を統合するにソロ攻略を前提としたダンジョンか、もしくはただ単純に今見つけるのが早すぎた高難易度ダンジョンのどちらかだ。どちらにせよ、ヘイトマイナスさえ維持できれば問題はないし、ヘイトマイナスを一度でも失敗したらその場で死に戻りが確定する。
そう考えればわかりやすいものだ。ヘイトコントローラーを実用性無しと侮っていたプレイヤー(リク含め)に攻略できなかったダンジョンに挑戦できるわけだし、必要な消耗品に関しては依頼主のリクにでも払わせれば良いだろう。
うん、やろう。家の皆には数日間は作り置きで我慢して貰うことになるが、たまには一人で遠出するのも悪くない。PCでオンラインゲームをしていた時代はここまで人と接することなどなかったのだから、自分にとってはここ1年が特殊すぎただけだ。
ソロで、または野良パーティでプレイするのがほとんどで、その情報を攻略サイトに上げることを楽しみにしていたあの頃を少し思い出す、そんな依頼。
受けない理由が、ないだろう。しかし、一つだけ問題が。
「え、あの、ちょっといいですか?」
「うん? ミキさん、何かあった? もうティラミスは残ってないけど」
「ティラミスじゃないです! えっとそれ、リクさんからキヌさんへの依頼……なんですよね?」
「え? あ、はい! そうです! キヌさん個人への依頼です!」
リクの元気のいい返事に、質問したミキはうんうん唸りながらも言葉を返す。
「……トレジャーハントが目的なら、キヌさん一人が行って仮に攻略なりレアアイテム入手なりできちゃった場合……アイテム分配とか、できなくないですか?」
続けられた言葉は、少しだけ意識していた内容。
そう、この依頼は、依頼としては欠陥まみれだ。
「うん、実はちょっと思ってた。配分しなかったらリク側の取り分ないわけだし、損しかないような気がするんだけど」
彼ほどのトッププレイヤーが挑んで攻略できなかったダンジョンを普通に攻略できるとは思っていないが、それでも、この依頼はおかしいのだ。
手に入れたアイテム全てを分配するのなら、それは完全に自主的な申告になってしまう。レアアイテムを手に入れていたとしてもそれを自分が申告しなかった場合、ダンジョンに入っていないリク達にはそのレアアイテムの存在を知ることはできない。
分配しない場合も、それはそれでおかしい。何故ならば、攻略することによってリク達が得られる報酬が存在しないからだ。
ギルド外の部外者に話を持ってきている以上、どうしてもこのダンジョンを自分たちで攻略しないといけない理由があるとも思えない。それに言い分からすると攻略よりもトレジャーハントの方に主軸を置いているように思えるし、ならばやはり、アイテムの分配の話をしないのは違和感しかないのだ。
自分に得のない依頼を、一体誰がするというのか、という話。
「あー、ですよね、やっぱ聞いちゃいますよね」
「ま、聞くよね、そりゃ。裏があるとしか思えないし。話す気ないならそれはそれでいいけど……持ち逃げしても文句言うなよ」
これに関しては長年の友情どうこういう問題ではない。依頼する以上リクがこのことに気付いていないわけはないし、依頼という形にするならば、依頼者側に利益がないはずがない。
彼は、このダンジョンにおける利益の存在、それを口にしていない。その状態で信じることなど誰ができるというのか。
「や、実は、神谷さん達とも話してたんですけど、キヌさんに話持ってくことが決まった時点で、僕らでの攻略は諦めちゃってるんですよね、ここ」
「……珍しいね、神谷まで」
「ええ。最初に見つけたのもあの人ですし、最後まで諦めなかったのもあの人です。かなり頑固な人ですから、僕ら的な結論としては、“今見つけるべきじゃないダンジョン”です」
神谷はこのゲーム内において、βテスト時代から異様なビルドによって有名なプレイヤーだ。
対人も対エネミーも全てにおいて最強と言われるほどに強く、固く、そして暑苦しい男だった。掲示板で存在を語られていた時から、この世界で初めて話した時、そして、今の時点でも彼への印象は変わらない。
強く、固く、暑苦しい男だ。
「んー、そこまでは分かる。で? それを依頼してまで探索する理由は?」
「……そうですよね、説明、しないといけないですよね。キヌさんとミキさん、えーと……他に聞いてる人は居ないですね。一応、他言無用でお願いします」
急にトーンが落ち着いたリクに困惑しながらも「はーい」と返す。まあ、語らせておけば良いだろう、こういうのは。
多分これもロールの一種だ。全力ロールプレイが信条な彼のキャラが説明程度で崩れるとは思えないから、これは、そういう、良くない話をするときのトーンなんだ、たぶん。
「ダンジョン名、ミザイクの祠っていうんですが、計算が正しければ、β自体の解析にあったB113がここのはずなんです」
「……すまんストップ。B113って何だ」「私も知りません!」
いきなり中断。語らせるつもりだったのに悪いが、知らないワードの登場で、全く話に入れない。
解析情報を攻略サイトに載せること自体は別にタブーでもなかったが、直接攻略に関係のない、特に未実装部分に関しての解析はスルーの対象でしかなかった自分にとって、そういう記号を言われても全く分からない。
「えっと……B113ってのはβ時代未実装ダンジョンの一つです。Aは86まで、Bは130まで解析に上がってたのを最近思いだして既存マップ全部と照合してった結果、B113は並び的にミザイクの祠しかなかったんです」
「……オッケーわからん。続けてくれ」「私もさっぱりです!」
うん、言わせてみたが全くわからん。何言ってんだこの金髪美少年は。
いやちょっと待て、AとかBとか、もしかして全部覚えてる人間が居たのか? もう1年もインターネットに触れられていない、この世界で?
……正気とは思えない。人間の記憶力は、そこまで良かったか?
「Bシリーズは初回クリア報酬の設定されたダンジョン、逆にAシリーズは初回クリア報酬の設定されてないダンジョンです。初回報酬が何になるか考えてたんですが、ここはCSCC#2788が適当かという結論に至りまして……」
「日本語で頼むよ、なあ」「お絵かきソフトみたいですね!」
カラーコードみたいだなという印象を感じたが、まぁミキの反応も似たようなものだ。明日どころか、2分後には忘れてそうな英数字の羅列をこれまで覚えていたことは、驚愕を通り越して呆れ返る。
「CSCC#2788ってのは、ハルピュイアシリーズの装備を解禁するためのアイテムです。ちなみに、解析時点では名前までは決まってなかったので、今でも型番で呼ばれてます」
「……お前らそのCSなんとかっての全部覚えてんの?」
攻略サイトの情報が全く見れないから、忘れる前にと記憶を頼りに攻略情報をまとめたノートを量産した自分とは大違いだな、こいつ。
まるで“攻略サイトを見ながら”話しているかのように、彼は言葉を続ける。
「ハルピュイアシリーズはレビテーションスキルを解禁するのに必要な装備なので、なるべく早いとこ手に入れておきたかった……までが顛末です」
「……えーと、つまり」
思考を整理。レビテーションというのは浮遊のことだろうか。名前だけ聞けば、空中浮遊系のスキルだ。
少なくともβ時代にそんなスキルは存在しなかった。いや、ひょっとしたら未実装スキルとしては存在していたのかもしれないが、実装されていたという話は聞いたことはない。そんなものを知っていたら、ビルダーの自分が触れていないはずがないからだ。
正式サービスから1年経過しているにも関わらず、β時代の未実装情報を覚えているリク達もどうかしているとは思うが、その断片的な情報を継ぎ接ぎして結論に至ったのは、素直に驚愕だ。
装備やスキルの独占、情報の統制など、ゲーム内においては当然のように行われていることでしかない。故に、ここまでの話を聞いても、彼の依頼を断る理由には全くならない。
「俺にそのダンジョン攻略させて、報酬だけ欲しい、ってとこ?」
「……つまりそういうことです。スキル解禁に所持が必要なだけで消費はしないので、仲間内で回したらちゃんと返します。それで……どうでしょうか」
「いや、どうって言われても……」
想定外の返答に、少しだけ戸惑う。
返すということは、その装備品、ハルピュイアシリーズ? レビテーションスキル? が仮に解析通りの事実だとして、それを隠し通すことを選ばない、ということになる。
リクらがどれだけ情報を隠そうが、手に入れた自分がそれをバラ撒いてしまったら全くの無駄になるからだ。
それにどうやら、スキルを手に入れるだけならその装備品は一時的に所持しているだけでも良いようだし、明らかに、リクら最前線のプレイヤーからしたら、苦渋の決断のはずだ。
10年以上も付き合いのある友人が、ここまで下手に出てまで手に入れたいものがあるというのだ。それの手助けをしないで、何が友人か。
「うん、別に良い。依頼、受けるよ。俺は報酬より、ヘイトコントローラー一人でどこまで行けるのかが純粋に気になるってだけだし、報酬の独占する気もない。使わんもんとそっちで必要なもんは流すから、終わったら交渉な。つーか高値で売り払えるなら、それはそれでいいし」
「……ありがとうございます! 流石キヌさん! だいすき!」
リクが大きな声を上げて飛びかかってきた瞬間、どこかの部屋で大きな音が鳴った気がする。なんか、ユーリという名の腐女子の部屋からな気もするが、まあ気のせいだろう。
部屋が閉じられている限り外に音が漏れることはないはずだし。うん、だからやっぱりあの物音は気のせいだ。うん。
リクを引き剥がしながら、ぼんやりと予定を考える。数日分の食事の作り置きは、この家の住人の分と自分の分で二種類が必要。それと、必要な装備に消耗品。うん、考えることは山積みだ。




