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一件落着?

 がしゃーん……


「あ……」

「ちぇ~……」

 お見舞いにきてくれたアリシャが、恐らくは差し入れであろうデザートを器ごと落としてしまう。

「な……ななななな……」

 真っ赤になって俺たちを見ている。

 その後ろには真っ青な表情をしたリオと、なぜか面白そうな表情のヴァルがいる。

 どうやら三人一緒にお見舞いにきてくれたようなのだが……何ともタイミングが悪すぎる。

 何もこのタイミングで入ってこなくてもいいではないか。

 ……いや、二回目が未遂で済んでいることを考えると、一回目に食われている最中に入ってこられるよりはマシだったかも?

「そ……その……私たち……お邪魔ですか……?」

 涙目の震え声で呟くリオ。

「いや、逆に助かったというか……」

 割と本気で。

「助かったとは失礼な」

 傍でむくれるローゼ。

 いいから今だけは黙っててくれよ……

「まさかフェリクスがロリコンだったとはな~」

「違うっ!」

 恐ろしい誤解をするなっ!

 それからローゼの言葉を借りれば俺たちだってまだまだロリショタらしいし。

 犯罪じみてなんかいないぞっ!

 って被害者の俺が何でこんな言い訳がましいこと考えているんだよっ!

「こほん! とりあえず紹介してもらいたいですわ。その子供は一体誰ですの?」

 落としたデザートを拾い上げて気を取り直したアリシャがわざとらしい咳払いをしつつ言う。

「ええと……」

 何と言おう。

 姉です……誰も信じねえよっ!

 妹です……さっきの光景がよけい犯罪じみてくるわっ!

 婚約者です……まあ、嘘じゃないけどやっぱり微妙だなぁ……

「初めまして~。フェリクスのお友達よね。あたしはローゼ。フェリクスのお姉ちゃんよ」

 俺が紹介に迷っていると、あっさりとローゼが招待をばらした。

「お、お姉さん……ですの? 妹ではなく……?」

 まあ、普通は戸惑うよな。

「これは魔法で若くしているからね~」

「ほ、本当はおいくつなんですか?」

「十八歳よ」

「な、なるほど。それなら確かにお姉さんですね……今は見えないっすけど……」

 三人の中にあっさりととけ込んでいるローゼ。

 相変わらず他人をペースに巻き込むのがうまい。

「……それはそうとして、いま弟さんにキスを迫っていませんでしたか?」

 不機嫌さを隠そうともしないアリシャだけがローゼを問いつめる。

「うん。しようとしたけど、何か問題ある?」

 にっこりと笑って答えるローゼ。

 うーん、無敵スマイルなんだよな、これ。

「も、問題あるに決まっているでしょうっ! 弟さんなんでしょう!?」

「あはは。確かにフェリクスはあたしの弟だけど、同時に婚約者でもあるからね~」

「なっ!」

「ええっ!」

「前に言っていたのはお姉さんのことだったのかっ!?」

 三者三様の驚きである。

「知っていたんですのっ!?」

「ぎゃあっ! 苦しいってばっ! 前にフェリクスがちらっと言っていたんだよっ!」

 怒りの矛先がなぜかヴァルに向いて、アリシャが胸倉を締め上げている。

「誤解のないように言っておくけど、フェリクスは養子だからあたしたちに血の繋がりはないよ。もともと父親があたしと結婚させるために養子縁組みをしたようなものだしね。だからキスするのはあたしにとっては正当な権利ってこと」

 ふふん、と小さな胸を張る幼女。

 いや、そんな権利はないと思う。

 主に俺の意志とかも考慮されるべきだと思う。

「むむ……」

「あう~……」

 何故か不満そうな女子二人。

 何でこの二人が怒っているんだ?

「幼女と結婚かぁ。フェリクスも大変だなぁ」

「……そういう問題じゃない」

 大変なのは確かだけど、別にローゼは幼女じゃないし。

 あくまで今だけだ。

「本人の意思を無視しての結婚なんてするべきではないと思いますけど?」

 ここでアリシャが食い下がる。

 まあ無視されていることは確かだけど、まさかアリシャがそこで口出しをしてくるとは思わなかった。

 本人の意思を無視した貴族の結婚にはある程度納得していると思っていたのに。

 その隣では何故かリオまでもこくこくと頷いている。

「生憎と、これはうちの問題だから口出しはしないで欲しいな。アリシャ・フォンカーベルさん」

「む……」

「それともアリシャさんもフェリクスのことが好きだったりする? 取られたくないとか思ったりしてる?」

「はあっ!? な、なななな何を言ってますのっ! そんなことあるわけありませんわっ!!」

「………………」

 ……その通りだろうけど、そこまで全力全開で否定しなくてもいいじゃないか。

 ちょっと傷つくぞ。

 せめてやんわりとした態度で否定して欲しかったなぁ。

「分っかりやすー……」

「何か言いましてっ!?」

 クスクスと笑うローゼ。

 幼女モードのくせに悪女全開だ。

 目とか口元がすげー意地悪そう。

「でもあげないよ。今のところはまだあたしのものだからね~」

 へへーん、と俺に抱きつくフェリクス。

 絶対にからかってるよなぁ。

 公爵令嬢をここまで手玉に取るとは、恐るべしローゼ。

 まあ正体を知らないとは言え、銀閃の騎士相手にここまで正面切って食ってかかるアリシャもかなりすごいけどさ。

「あ、あのっ! 今はまだって言いました!?」

 今度はリオがびくびくしながらローゼに話しかける。

 幼女が相手でも何となくローゼの恐ろしさを感じ取っているのかもしれない。

 さすがだリオ。

「うん。言ったよ~。今はまだあたしのだよ。一応婚約破棄には条件をつけてあるから、それをフェリクスがクリアできれば晴れて自由の身ってわけ」

「そ、その条件は!?」

 何故そこまで食い気味なんだ、リオ。

「フェリクスがあたしに勝つこと」

「お姉さんに、ですか……?」

「そう。このあたしに♪」

「……それだけ、ですか?」

「うん。それだけだよ」

 それだけが世界で一番難しいんだけどなぁ。

「お姉さん、強いんですか?」

「んっふっふ。結構強いつもり」

 アリシャをからかうときとはまた違った、小動物をちょっといじめて楽しんでいるような態度だった。

「ど、どれぐらい強いんですか?」

「さあね~」

 意地悪だなぁ。

「ちなみに期限はフェリクスが十八歳になるまで」

「………………」

 ちらりと俺を見るリオ。

 それまでに勝てるようになるのか、という問いを含んだ眼差しだった。

「まあ出来る限り頑張るつもりだけど……」

 としか言えない。

 確実に勝てる保証なんてどこにもないし。

「そういえばお姉さんってフェリクスの師匠なんですよね」

「まあ剣と回復魔法に限ってはね」

 今度はヴァルが質問をする。

 みんな何故かローゼに興味津々だ。

「ちょっと俺と手合わせして欲しいんですけど、駄目っすか?」

「手合わせ、ねえ。この身体のままじゃちょっときついかな……」

 当たり前だ。

 幼女の姿でヴァルを圧倒したらそれこそ異常すぎる。

 ……まあ、ローゼなら出来そうだけど。

「もちろん元の姿に戻ってからで」

「ちょ、ちょっと待て!」

 さすがにそれは止めなければならない。

 ここでローゼが戻るということは、ローゼの正体がばれるということだ。

 せっかく変身してまで正体を隠しているのに、これじゃあ意味がなくなってしまう。

「んー、まあいいんじゃない? この子たち、フェリクスの友達なんでしょ?」

「そうかもしれないけど、大騒ぎになるぞ……」

「外に出なければ問題ないでしょ。ねえヴァルくん。手合わせしたいならこの病室限定、そして素手ってことになるけど、それでもいい?」

「ここで、ですか?」

「ちょっと元の姿では出歩きたくなくてねー。あたしも結構有名人だからさ」

「………………」

 結構どころではないけどな。

 超絶有名人なのだ。

「この部屋は結構広いし、空間限定での格闘勝負ぐらいならできると思うけど。君も前衛戦士なら剣術だけじゃなくて体術も結構使えるんでしょ?」

「確かに使えますけど」

「じゃあそうしよう」

 早速ローゼは年齢を元に戻す飴を二粒口に入れる。

「あー……」

 大騒ぎになるんだろうなぁ……と思いながらも既に諦めてしまう。

 ローゼが決めた以上、俺に止める権利なんてないし。

 ぼふん、とローゼの身体が煙に包まれて、幼女から美少女へと成長する。

 銀色の髪に青色の瞳。

 一気に成長したローゼは圧倒的な存在感を誇っていた。

「じゃあ改めて自己紹介するね。あたしはローゼリッタ・シルヴィス。シルヴィス伯爵家現当主。あとはいろいろ名前があったりするけど、これ以上の自己紹介は必要ないよね?」

「な……銀閃の騎士様!?」

「そんな!」

「うそぉ……」

 やっぱり三人ともかなりびっくりしている。

 まあ当然か。

 世界的英雄様がいきなり目の前に現れたのだから。

 ……成長しただけでさっきからずっといたけどね。

「グリオザークの銀閃が……フェリクスの婚約者……?」

 アリシャが呆然としながら呟いている。

「か、勝てるわけないですぅ……」

 リオ。酷いこと言うなよ……

 俺は勝つつもりだぞ。

「うわあ……うわあ……すげえ、すげえよっ!」

 そしてヴァルは状況も忘れてはしゃいでいる。

 確かローゼに憧れていると言っていたし、無理もない。

「じゃ、さっそく手合わせしようか、ヴァルくん」

「うあっ!?」

 まさか銀閃の騎士を相手取るとは思っていなかったヴァルはあわてて構えるがもう遅い。

「ひえっ!」

「えい♪」

 一瞬で踏み込んできたローゼがちょん、とヴァルの額をつつく。

 それだけでヴァルは床に倒されてしまった。

「はい、勝負ありね~」

「………………」

 あっさりと勝負がついてしまう。

 二人の実力差を考えれば当然の結果だけどな。

 俺ならもう少し保たせられるけど、まだローゼの癖を知らないヴァルじゃあ瞬殺されても仕方がない。

「弱……」

「情けないですぅ」

「二人とも他に言うことないのかよっ!!」

 女子二人の軽蔑混じりの言葉に憤慨するヴァル。

 うん。情けないのは確かだけどヴァルが悪い訳じゃないと思うぞ。

「さてと。そろそろあたしは戻ろっかな。フェリクスの無事も確認できたし、面白いお友達も見物できたし」

「というか悪かったよ。姉ちゃんも今は忙しいんだろ?」

「というかこれも仕事のうち。陛下から事件の詳細を聞いてこいって命令されてね。当たり障りのない報告だけとりあえずしておく」

「うぅ……。お世話かけます……」

「ん。分かればよろしい。今度は氷龍アイシクルドラゴンちゃんも紹介しなさいよ」

「げ……」

 契約のことまでばれてるし。

 これに関しては三人に口止めしておいたから外部には漏れていない筈なんだけどなぁ。

「あまーい。見る者が見れば契約魔力を感じることができるし、隠し通せるとは思わない方がいいよ」

「あはは。覚悟しておく」

「これから大変だろうけど、ま、フェリクスなら大丈夫でしょ」

「だといいけどね」

「いざとなったら頼っていいよ。姉ちゃんはいつでも弟を守ってあげるからね」

「本当にピンチの時はそうさせてもらう」

「うん。遠慮なく頼って。それからこれは新しいお守り」

 新しく首にかけられたのは、家を出るときに渡された『リミットブレイカー』。

 首にかけていたそれはいつの間にか消えてしまっていた。

 おそらく、俺が炎精転化アストリア・フラクトを発現した時に消えてしまったのだろう。

 あのとき能力を発現できたのは『リミットブレイカー』のお陰でもある。

 俺に秘められた能力、アストリアの加護、そして仲間のピンチ、最後にそれを解放する鍵である『リミットブレイカー』。

 アストリアの意識に触れたあの時、俺は無意識のうちにあれを使っていたのだろう。

 カスミを破ったあの奇跡はこれらの要素が揃って初めて実現したものだ。

「じゃあ次の休みには帰っておいで。待ってるから」

 ローゼは再び飴を食べてから幼女に変身して、そのまま出て行ってしまう。

 後に残されたのは俺とアリシャとリオと倒れたヴァル。

「ええと……人騒がせな姉ちゃんで悪いな……」

 などと言ってみるのだが……

「勝ちますわよっ!」

「へっ!?」

 いきなりアリシャが怒鳴りつけてくる。

「そうですっ! 勝ちましょうっ!!」

「はひ!?」

 リオまで真剣な表情でずいっと迫ってくる。

 何なんだ一体……

「フェリクスは婚約破棄を目指しているのでしょう?」

「あ、うん。一応……。やっぱりローゼには自由な結婚をしてもらいたいし」

「フェリクスさんだって好きな女の子と結婚したいですよねっ!!」

「あー、うん……まあ、一応……」

 怖いよう……

 なんでアリシャとリオはこんなに怒ってるんだよぅ……

 リオがヤンデレモードでないことだけが救いと言えば救いだけど……

「だったら強くなればいいんですのよっ! わたくしたちが協力しますわっ! 十八歳までにあの人を倒しますわよっ!」

「いや、倒したら駄目だろ……負かしたいだけなんだが……」

「こほん。言葉が悪かったのは認めましょう。勝ちますわよっ!」

「な、何でそんなに必死なんだ?」

「べ、別に対した理由はありませんわっ! お姉さんに自由な結婚をして欲しいというフェリクスの願いに友人として協力したいだけですわっ!」

「そ、そうなのか?」

「そうですわっ!」

「ですっ!」

 隣でリオもこくこくと頷いている。

 うーん、そういうものか。

 友情って予想以上にすごいな……

「ほ、惚れたぜ……」

 そしてもう一人、倒れたままのヴァルが呟く。

「は?」

「ローゼさんすげーっ! 強い! 美人っ! 最高っ! 完全に惚れたぜっ!」

 起きあがってからぶんぶんと首を振っている。

 否定ではなく興奮しすぎてじっとしていられないらしい。

 拳はぎゅっと握られている。

「フェリクス! オレも協力するぜっ! ローゼさんに勝って自由の身になったら、オレが結婚を申し込むんだっ!」

「マジか……」

 なんて命知らずな奴……

 っていうかちょっとムカつく。

「自由になってもローゼは自分より弱い男と結婚するつもりはないみたいだぞ」

 と、一応釘を刺してみるのだが、

「おっけーっ! オレも一緒に強くなれば問題ナッシング!!」

「………………」

 問題大ありだ。

 こいつをお義兄さんとか呼ぶ羽目になるのは絶対に嫌だ。

「今日から義弟と呼ばせてくれっ!」

「断るっ!」

 不愉快だっ!

「やれやれ。指一本で倒された癖に、懲りませんわね。動機も不純ですわ」

「そうですね。不純です」

 女の子二人から向けられる軽蔑の視線再び。

 しかしヴァルはめげない、。

「なんだよ! 二人だって似たようなものじゃんかよーっ!」

「そ、それ以上言ったら最強魔法を食らわせますわよっ!」

「同じくそれ以上言ったらこの毒を投げつけますからねっ!」

「ぎゃーっ! やめろーっ! 死ぬ死ぬマジで死ぬー! ローゼさんにプロポーズするまで死にたくないーーっ!!」

「……はあ」

 賑やかすぎる病室は、なんだか物騒なことになっていた。

 早く嵐が通り過ぎてくれるといいのだけれど。

 俺に出来るのは病室を壊されませんように、と祈ることぐらいだ。

 ひとまずこれで一件落着、かな。

ひとまず完結。

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