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第21話 五人目の部員

 翌朝。

 修二は、いつも通り学校へ向かっていた。

 昨日の夜から、どうにも胸騒ぎがする。

 理由は分かっている。

 ルルミアだ。

 あいつが静かな時ほど、ろくなことを考えていない。

「……嫌な予感しかしない」

 小さく呟きながら教室へ入る。

 玲奈は既に席についていた。

「おはよう」

「おう」

 玲奈は修二の顔を見るなり苦笑した。

「まだ心配してるの?」

「そりゃあな」

「ルルミア?」

「他に誰がおる」

 その時だった。

 教室の後ろの扉が開く。

 ルルミアが、いつものように笑顔で入ってきた。

「おはようですぅ」

 その顔を見た瞬間。

 修二は確信した。

「お前、何かやったやろ」

「失礼ですぅ」

「やった顔しとる」

「気のせいですぅ」

 玲奈はくすりと笑った。

「仲いいね」

「どこがや」

「どこがですぅ」

 二人の声が重なった。

         ◇

 昼休み。

 修二たちは、いつものように部室へ集まっていた。

 玲奈はオカルト雑誌を読んでいる。

 セラフィナは静かに紅茶を飲んでいた。

 修二は部員名簿をぼんやり眺めている。

 あと一人。

 その数字だけが、頭から離れなかった。

 すると。

 部室の扉が勢いよく開いた。

「やりましたぁ!」

 ルルミアだった。

 満面の笑みである。

 修二は頭を抱えた。

「何や」

「契約取れましたぁ!」

「……は?」

「妹さんですぅ!」

 修二は立ち上がった。

「美羽?」

「はいですぅ!」

「……」

「……」

「お前、何した」

「お願いを叶えただけですぅ」

「何を叶えた」

「お兄さんと同じ学校へ行きたい」

 修二は天井を見上げた。

 嫌な予感しかしない。

「まさか……」

「一年生に転入ですぅ!」

 修二は少し安心した。

「……そらそうやろ」

 玲奈もほっと胸を撫で下ろす。

「びっくりした」

「私、一瞬同じクラスになるのかと思った」

「そんな無茶はしませんですぅ」

 セラフィナが静かに言う。

「十分無茶です」

「失礼ですぅ」

         ◇

 その日の放課後。

 ルルミアは、一人の少女を連れて部室へ戻ってきた。

 部室の扉が開く。

 修二は、その姿を見て固まった。

「……美羽」

 少女も修二を見た。

「あ」

 しばらく沈黙が続く。

 そして。

「お前、何しとんねん」

「私が聞きたい」

「え?」

「朝起きたら、女子高辞めて風丘高校一年生になってた」

 修二は、ゆっくりルルミアを見る。

「……お前の仕業か」

「仕業ですぅ」

 堂々と言い切った。

「何してくれとんねん!」

「契約通りですぅ」

「契約!?」

 玲奈は目を丸くした。

「本当に悪魔なんだ……」

 美羽は小さくため息をつく。

「私も、まだ信じてない」

「でも」

 ちらりとルルミアを見る。

「本当にやっちゃうんだもん」

         ◇

 玲奈が立ち上がった。

「改めまして」

「私は白峰玲奈」

「オカルト研究部の元部長」

 少し照れくさそうに笑う。

 美羽も頭を下げた。

「黒崎美羽です」

「よろしくお願いします」

「かわいいね」

「ありがとうございます」

 修二が驚いた。

「俺にはそんな素直ちゃうやん」

「お兄は別」

「なんでや」

 部室に小さな笑いが広がる。

 その横で。

 ルルミアが勢いよく立ち上がった。

「これで五人ですぅ!」

 全員の視線が、机の上の部員名簿へ向く。

 修二。

 玲奈。

 ルルミア。

 セラフィナ。

 美羽。

 五人。

 確かに。

 五人だった。

 修二は、静かに名簿を閉じた。

「……顧問のとこ行くぞ」

         ◇

 職員室。

 顧問教師は、提出された名簿をじっと見つめていた。

「本当に集めたのか」

「はい」

 教師は一人ずつ指で数える。

 一人。

 二人。

 三人。

 四人。

 そして。

 五人。

 やがて、小さく頷いた。

「分かった」

「これで、オカルト研究部は来年度も活動を認める」

 修二は、静かに息を吐いた。

 その横で。

「やりましたぁ!」

 ルルミアが飛び跳ねて喜んでいる。

 玲奈は窓の外を見ていた。

「守れたね」

「何がですか」

「オカ研」

 修二も窓の外を見る。

 夕日が校庭を赤く染めていた。

「先輩のおかげです」

 玲奈は、ゆっくり首を横に振る。

「違うよ」

「みんなのおかげ」

         ◇

 帰り道。

 五人で並んで歩いていた。

 美羽が、小さく手を挙げる。

「あの」

「私、何したらいいの?」

 ルルミアが待ってましたと言わんばかりに胸を張った。

「目標がありますぅ!」

 全員がルルミアを見る。

「オカルト研究部全盛期!」

「部員十五人ですぅ!」

 美羽は目を丸くした。

「十五人?」

 玲奈は少し懐かしそうに笑う。

「昔、それくらいいたね」

 セラフィナも静かに頷く。

「頑張りましょう」

 修二だけが空を見上げていた。

「……無理やろ」

 すると。

 ルルミアが、いつものように胸を張る。

「なんとかしますぅ!」

 冬の澄んだ空へ、その声が吸い込まれていく。

 修二は思った。

 嫌な予感しかしない。

 だが。

 少しくらいなら。

 その予感に付き合ってみるのも悪くないのかもしれない。

              ――第一部 完――


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