第3話:『色欲』と『知欲』
【※読者の皆様へ】
あとがきに大切なお知らせがあるので、最後まで目を通していただけると嬉しいです!
超短いキャラ説明。
ソラグマ:『四災獣』天喰の真の姿。恐ろしい白熊を自称する、手のひらサイズの空飛ぶコグマ。
シュガー:ボイド専属の特殊諜報員。名前の由来は、砂糖菓子が好きだから。ソラグマの飼育係。
ラグナ:第三章の大ボス、召喚魔法が得意。スケルトン製造機として稼働中。ボロ雑巾の実績多数。
リゼ:色欲の魔女。二種類の固有魔法(雷&因果干渉)を持つチート。自認『ボイドの妻』。
エンティア:知欲の魔女。禁書庫からボイドタウンに引っ越してきた。ホロウの日本知識に釣られクマー。
さっきまで元気だったラグナが、ほんの少し目を離すと、金色のボロ雑巾になっていた。
何を言っているのかわからないと思うけど、自分でも何が起こったのかわからない。
(うちの大切な労働力に、誰がこんな酷いことを……っ)
ボクが言葉を失っていると、
「――あっ、ゼノだー!」
宙に浮かぶ白いヒグマが、ソラグマが飛んできた。
その後ろには、飼育係のシュガーもいる。
「もしかして……ソラグマ、またキミの仕業?」
「なんの話?」
「このボロ雑巾だよ」
「んー……誰?」
哀れラグナ。
名前も覚えられていないようだ。
「『スケルトン製造機』、ちょっと前に戦ったでしょ?」
「あー、そんなこともあったねーっ」
ソラグマは楽しそうにケタケタと笑う。
「キミがやったんじゃないの?」
「オノレは『弱い者イジメ』をしない!」
「ふむ……」
ソラグマに嘘をついている感じはない。
(つまり、真犯人は他にいるということか……)
ボクが思考を巡らせると、シュガーが口を開く。
「ボイド様、こちらのボロ雑巾について、ご報告したいことが」
「何か知っているの?」
「はい、実はつい先ほど――」
彼女はコクリと頷き、『金獅子殺人事件』の真相を語り始める。
家族会議が終わった後、シュガーはソラグマを散歩させていたらしい。
【ソラグマ、今日は新しくできた公園に行きま――】
【――シュガー、シュガー! オノレは、この『あいすくりーむ』というものが食べたい!】
【はいはい、ちょっと待ってくださいね】
【ん、んまー……! これ、すっごくおいしい!】
【ふふっ、落ち着いてください。ゆっくり食べないと、頭がキーンってなりますよ?】
【頭が……? ぉ、ぉおおおお……!?】
和やかな時間が流れる中、
【うっし、今日もいっちょやるか!】
修業場に向かう途中のラグナが、偶然リゼとばったり出食わし、
【……う、美しい……っ】
なんと一目惚れしたそうだ。
【おい、あんた】
【なに?】
【俺の女になれ】
【……はぁ?】
リゼは不快げに眉を顰め、
【私には運命の相手がいるの。あなたみたいな雑魚に興味ないわ】
【……ざ、こ……っ!?】
ラグナの地雷を正確に踏み抜いた。
そうして金獅子VS色欲の戦闘が勃発。
【俺のスケルトン部隊にひれ伏しな! <原初の巨釜・無限スケルトン>!】
虚空界で修業を積んだラグナは、確かにけっこう強くなったけど、
【……ちっさ。<黄金の雷撃>】
第三章の大ボスじゃ、第五章の大ボスには敵わない。
「魔女の雷を受け……一撃でこのザマです」
「なるほど」
金獅子殺害事件、これにて解決だ。
(今の話を聞く限り、ラグナが悪いかな)
戦闘・学問・恋愛、何事にも『段階』というモノがある。
(初対面の女性に対して、「俺の女になれ」と迫るのは、さすがに悪手だよ……)
ボクが呆れ返っていると、
「その、声……ボス……か……?」
瀕死のラグナが、息を吹き返した。
「あっ、悪い」
犯人探しに夢中で、すっかり治療するのを忘れていた。
すぐに回復魔法を使い、ボロボロの体を修繕してあげる。
無事に完全復活を果たしたラグナは、無言でドサリと胡坐を掻き、
「俺は……弱い……っ」
ボロボロと大粒の涙を流す。
なんということだ。
『獣災ラグナ』が、『メンヘラグナ』に進化してしまった。
(まぁ、無理もないか)
彼の直近一か月の戦績は、まさに『悲惨』の一言。
ボクに負け、ダイヤにボコられ、ソラグマに一蹴され、リゼに焼き焦がされ……怒涛の四連敗。
この落ち込みようも、宜なるかなって感じだ。
(さて、どうするか……)
臣下のメンタルケアについて、頭を悩ませていると、ラグナが重たい口を開く。
「……ボスはよぉ、あの雷女にも勝ったんだよな?」
「うん」
「楽勝だったか?」
「うん」
「そう、か……やっぱ強ぇな……」
彼はそう言って、大きく肩を落とす。
2メートルを超す巨体が、なんだかとても小さく見えた。
(スケルトン製造機は、無限の労働力を生み出す、あらゆる事業の要だ)
手間暇かけて拉致してきたのに、こんなところで壊れてもらっちゃ困る。
虚の統治者として、迷える金獅子を導くとしよう。
「ラグナはどうしたいの? 今よりもっと強くなりたい? 静かにゆっくり暮らしたい?」
「俺は……強くなりてぇ……っ」
「『絶対に強くなれる夢のような方法』があるけど、聞く?」
「……教えてくれ」
ボクは人差し指をピンと立て、最高の回答を伝授する。
「それはね、『謙虚堅実な努力』を続けることだ」
「はっ。そんなもん、この一か月やってきたよ。血の滲むほどキツイやつをな」
ラグナは小さく肩を揺らし、乾いた笑みを浮かべた。
「それはまた、怠惰傲慢な姿勢だね」
「……どういう意味だ?」
「一か月しか修業をしないのは怠惰だし、一か月で強くなれると思うのは傲慢だってこと」
真面目なトーンで、自分の経験を語る。
「ボクはこの七年間毎日、ひたすら努力を続けてきた。素振り・筋トレ・魔力制御、地道な修業を一日として欠かしたことはない。もちろん、血の滲むようなキツイやつをね」
「七年間、毎日……?」
「そっ。その果てにあるのが――これだ」
少しだけ『魔力の蛇口』を緩めると、汚泥のような闇が吹き荒れた。
「……っ(す、凄ぇ……ッ)」
ラグナは目を丸め、ゴクリと唾を呑む。
「小さな利をコツコツと積み上げ、少しずつちょっとずつ果実を手にする。月並みな言葉だけど、『継続は力なり』だよ」
「……地道に修業を続ければ、俺も化物側に立てるか?」
「それはキミ次第かな」
『努力すれば絶対に成功する』、そんな無責任なことは言えない。
人生、『運』とか『才能』とか『死亡フラグ』とか、理不尽なランダム要素がたくさんあるからね。
でも、
「死ぬ気で頑張った後に見る景色は、今よりもずっとイイものだと思うよ?」
その瞬間、
「……!」
ラグナの瞳に希望の火が灯った。
「……そう、か。そうだよなっ!」
彼は勢いよくバッと立ち上がり、
「ぃよっしゃ! やってやるぜ! ボスの言う『謙虚堅実な努力』ってやつをよぉ!」
獅子の如き雄たけびをあげる。
この立ち直りの早さは、ラグナのいいところだね。
「いいぞ、その意気だ! 『獣災』ラグナ・ラインなら、きっと『世界最強の召喚士』になれるよ!」
「おうとも! このボイドタウンをスケルトンで埋め尽くしてやらぁ!」
会心の笑みを浮かべたラグナは、「ボスありがとな!」と右腕をあげ、いつもの修業場へ駆け出した。
(よしよし、これでまたボイドタウンの生産性が上がるぞ!)
今のラグナはまだ、『スケルトン製造機』だけど……。
このまま順調にレベリングが進めば、オーガ製造機→ワイバーン製造機→アークデーモン製造機と、少しずつバージョンアップしていく。
いずれは『亜龍』や『不死王』など、最上位の魔獣たちを大量に召喚してもらう予定だ。
(ラグナが完成した暁には、召喚獣で不死の軍隊を作ったり、召喚獣の貸付事業で荒稼ぎしたり……ふふっ、夢が広がるね!)
(あぁボイド様、なんとお優しい……っ)
(うわぁゼノ、また悪い顔してるよ……)
さて、運よく面白いイベントに遭遇できたけど、今日のメインディッシュはこれじゃない。
「ボクは大事な予定があるから、もう行くね」
「はっ、どうかお気を付けて」
「ゼノー、また遊ぼうねぇー」
シュガー&ソラグマと別れ、リゼとエンティアの魔力を探る。
(っと、マズいな)
両者は既に至近距離に迫っていた。
この感じだと、後数分もしないうちにバッティングするだろう。
(少し急ぐか)
魔力と気配を完全に消し、小走りで現地へ向かった。
■
一分後、
(……ふぅ、ギリギリ間に合ったか)
ボクは商業地区・中道通りの路地裏、『絶好のポジション』を確保した。
物陰に身を隠しながら、静かに息を潜めることしばし――。
(おっ、来た来た!)
北から下りてくるのは、美しい黒紫の髪をなびかせる美女、色欲の魔女リゼ。
南から上ってくるのは、艶やかな桃色の髪を伸ばす美女、知欲の魔女エンティア。
二人はそのまま歩みを進め、偶然バッタリと出くわした。
「「……うっわ……」」
開口一番、嫌そうな声が飛び出る。
魔女たちは定期的に『お茶会』を開いているので、みんな顔馴染みなんだけど……。
『同族嫌悪』って言うのかな。
基本みんな性格が悪いから、お互いに嫌い合っている。
「しかし、驚いたわ。あの引き籠りが、禁書庫から出て来るなんてね」
「それはこっちの台詞よ。あの社会不適合者が、時計塔から出て来るとはね」
軽いジャブとばかりに皮肉を交わした。
「で、エンティアとボイドはどういう関係なの?」
「んー……まぁ、『ビジネスパートナー』ってところかしら」
「ふーん、ならいいわ」
「何よ、含みがあるじゃない。ホロウとはどういう繋がり?」
「ふふっ、よくぞ聞いてくれました!」
リゼは上機嫌に微笑み、
「私が千年と想い続けた『厄災』の転生体、運命の赤い糸で結ばれた生涯の伴侶――それがボイドよ!」
乙女のように瞳を輝かせる中、エンティアは呆れ顔でため息をついた。
「はぁ……。相変わらず、純情な娘ねぇ。『色欲』の二つ名が泣くわよ?」
「ぴゅ、ピュアじゃないし!」
「どこからどう見ても、ピュアッピュアじゃない。あなた、『白馬の王子様』とか信じてる性質でしょ?」
「ぅ、ぐぅ……っ」
リゼは悔しそうに口を一文字に結び、
「えっ、ほんとに……?」
エンティアは割と真剣に驚いていた。
まさかそこまで乙女だとは、思ってもいなかったのだろう。
「ぃ、いいじゃない! 私だって女の子なんだから、少しぐらい夢を見たって!」
リゼは開き直りながら、ビッと人差し指を突き付ける。
「そういうエンティアはどうなのよ! あなたの国が滅びて千年ぐらい、だっけ? いい加減、男の一人でも見つけたのかしら!?」
「それは、その……っ」
痛いところを突かれたのだろう、エンティアは言葉を詰まらせた。
「あら、ごめんなさい。確か『本が恋人』、だったわよね? 千年以上も生きているのに、偉そうに知欲とか名乗ってる癖に、男のことはなぁんにも知らない『お子様』だもんねぇ?」
反転攻勢。
これまで散々イジられたリゼが、息を吹き返したように攻め立てる。
「は、はぁーっ!? べべべ別に、男のことはよく知ってるしぃ? なんなら有り余ってますけどぉ!?」
左右に泳ぐ目・上滑りした声・激しい貧乏ゆすり、どこからどう見ても嘘だ。
「そもそもの話、私とリゼじゃ『男性経験』が違うのよ! 悪趣味な時計塔に引き籠って、ずっと修業三昧の戦闘狂とはね!」
「なんですってぇ……!」
ボクが言うのもあれだけど……このポンコツたちは、ほんと煽るのが好きだね。
「私は『色欲』、男なんか掃いて捨てるほどいるわ!」
「私は『知欲』、ありとあらゆる男を知っているわ!」
魔女たちはそう言って、大きな胸をツンと張った。
「……いいわ。そこまで言うのなら、発表し合いましょう。お互いのこれまでの男性経験をっ!」
リゼは仄かに赤面しながら、とんでもないことを提案し、
「えぇ、望むところよッ!」
意地になったエンティアも、食って掛かるように応じた。
二人はわざわざ<契約>を結び、お互いに嘘をつけなくした状態で、それぞれの男性経験を発表する。
「私は子どもの頃……二人きりでお茶をしたことがあるわ!」
「私は小さいとき……二人きりでお話をしたことがあるわ!」
うーん、小学生かな?
なんてレベルの低い争いだ。
魔女の名前が泣いているよ。
それからしばらく、「わーわーぎゃーぎゃー」と言い争い、
「「……ぶっ殺す……っ」」
唐突に戦闘が始まった。
「そんな性格だからモテないのよ! ――<黄金の雷撃>!」
リゼが激しい雷を放てば、
「そっくりそのままお返しするわ! ――<禁書の封印>!」
エンティアはそれを本に閉じ込める。
(おーっ、いい勝負だ!)
魔女たちの戦いをこんな間近で、最高のポジションで見られるなんて……ボクは本当に幸せ者だなぁ!
その後、
「――<黄金の雷槍>!」
リゼが猛攻を仕掛け、
「――<禁書の防壁>!」
エンティアが華麗にいなす。
一進一退の攻防が繰り広げられた。
(ぐっ、ほんと鬱陶しい本ね……ッ)
リゼの固有<黄金の雷>と<未来の色見>は、攻防一体の優れた魔法だけど……めちゃくちゃ燃費が悪い。
帝国という『聖域』でなければ、強大な『環境強化』がなければ、その本領を発揮できない。
(相変わらず、無茶苦茶な雷ね……っ)
エンティアの固有<禁書の庭園>は、攻撃性能こそ低いけど、生存能力が極めて高い。
膨大な本の中に隠された『霊の書』を壊されない限り、完全に死ぬことはない。
(攻めるリゼ×受けるエンティア、これは面白いね!)
真逆の長所を持つ魔女たちの戦闘は、原作では存在しない激レアイベントは、とても見応えがあった。
「はぁはぁ……っ。ほんと、ゴキブリみたいな生命力ね……ッ」
「はぁはぁ……っ。どうしたの、もう魔力切れかしらぁ……?」
リゼとエンティアは、額に大粒の汗を浮かべ、荒々しい息を繰り返した。
(お互いに攻め手がないし、この辺りで終わりかな?)
なんだかんだ言って、二人もちゃんと大人だし、最低限の引き際は弁えているだろう。
そんなボクの予想は、一瞬にして裏切られた。
「――<<原初の雷轟>!」
「――<終末の極星>!」
頭に血が昇った魔女たちは、最大クラスの攻撃を展開する。
(これは……さすがにやり過ぎだね)
あの規模の魔法が炸裂したら、ボイドタウンが壊れてしまう。
「「死ぃねぇええええええええ……!」」
リゼとエンティアの『必殺』が解き放たれると同時、
「――はい、ストップ」
ボクは両者の間に割って入り、迫りくる大魔法を右手と左手で、それぞれ軽く振り払った。
「「なっ!?」」
リゼとエンティアは、目を丸くして息を呑む。
(今のは虚空……じゃない。ただの膂力で、私たちの最大火力を!?)
(嗚呼、さすがはボイド……っ。私が千年と恋焦がれた運命の旦那様ッ!)
二人が驚くのも無理はない。
原作ホロウにとって、虚空界は聖域。
ここにいる間、ボクは限りなく『最強』に近い存在だからね。
「リゼ、エンティア、家族同士のガチバトルは禁止だよ?」
ボイドタウンの統治者として注意すると、
「えぇ、ごめんなさい」
リゼは素直に応じ、
「むぅ、わかってるわよ」
エンティアもコクリと頷いた。
色欲×知欲の戦闘は、ひとまずこれで終了。
(いやしかし、面白かったなぁ!)
魔女たちの会話から戦闘まで、実に満足度の高いイベントだった。
思いっきり楽しんだことだし、そろそろ『仕事の話』へ移ろう。
「ねぇリゼ、これからちょっといい?」
「別に構わないけれど、どうしたの?」
「実はキミに手伝ってもらいたいことがあってさ」
色欲の魔女リゼは、第五章の『特殊クリアボーナス』。
彼女の固有<未来の色見>は、原作ロンゾルキアでも極めて珍しい、『因果干渉系』の魔法だ。
(この特異な力を悪用して、今から『とある実験』を行う……!)
これが成功すれば、ホロウルートの――第七章以降の攻略が、グっと楽になるぞ!
【※大切なお知らせ】
つい先日、電撃文庫より発売した極悪貴族!
いろいろな売上ランキングで、高順位を獲得しており、凄まじい売れ行きです!
おそらくもう一押しで重版が決まるので、ぜひ書店さんでお買い上げいただけると嬉しいです!
ホロウの物語を最後まで描くには、破滅の回避が必要不可欠……っ。
っというわけで読者の皆様、本作を応援=買い支えていただけると嬉しいです!
一人一冊お買い上げいただければ、きっとアニメ化まで届くので、どうか何卒お願いします……ッ。
では、私はまだ表に出せない仕事(ホロウ関連)&Web版第四話の執筆に戻ります!




