第57話 姉妹の別れ
俺達は、夕食を食べていた。
帰ってきたファラエスとセリアとともに、昼寝をしていたが、起きた時には既にそんな時間だったのだ。
「あ、そうだ。スレイドとセリアに、言っておきたいことがあったんだ」
そんな中、ファラエスが口を開いた。
何やら、俺とセリアに言いたいことがあるらしい。
一体、なんだろう。
言っておきたいことと聞いて、ソーナがこの家に来ることを思い出したが、俺は聞いているので、それではないはずだ。
「なんだ?」
「なんですか?」
「ああ、ソーナのことは、二人にも話したよね?」
「ああ……」
「はい」
俺の予想に反し、ファラエスが話し始めたのはソーナのことだった。だが、聞き方的に、これがメインではなさそうだ。
それと、セリアもソーナが家に来ることを聞かされているようである。
「それで、ソーナは明日家に来るんだけど、それはオルフィーナさんが明日、ディーソルトに帰るからなんだ」
「ああ、そういえば、それも聞いた気がするな」
ファラエスが話したいのは、ソーナではなくオルフィーナさんのことらしい。
オルフィーナさんは、ディーソルトという町から、この町サールティンに来ている。そのオルフィーナさんが、明日家に帰るのだ。
「その見送りに、皆で行きたいと思ってね。二人とも、構わないかな?」
「ああ、それなら、大丈夫だ」
「はい。ボクも大丈夫です」
ファラエスが言いたかったのは、その見送りに行く話だったらしい。
もちろん、それは構わなかった。
ソーナの姉であり、それなりに親しくさせてもらっていたので、むしろ俺から言い出すべきだったくらいだ。
「それなら、良かった。なら、明日の朝に、ソーナの家へと向かおうか」
「ああ……うん?」
「師匠? どうしたんですか?」
「いや、護衛はどうするんだ?」
そこで、俺はあることに気づいた。
俺とセリアは、オルフィーナさんを護衛して、ディーソルトからサールティンに送ってきたのだ。
それなら、サールティンからディーソルトに送り届ける必要もあるはずである。送りの護衛は指名だったので、その護衛をどうするのか、気になってしまったのだ。
「ああ、それなら心配ないよ。君達が送っていく必要はないよ。オルフィーナさんから、そう言われているからね」
「そうなのか、それなら、よかった」
どうやら、護衛の心配はないようである。
しかも、オルフィーナさんから俺達ではないように申し出があったようだ。恐らく、ソーナがこちらの家に来るので、その辺りを考えてのことだろう。
あの人の性質的に、そんな気がする。
「ああ、それと、明日はソーナのために、軽いパーティでもしようかと思ってね」
「パーティ?」
俺がそんなことを考えていると、ファラエスがそう言ってきた。
「いわゆる、歓迎パーティといったところかな?」
「な、なるほど、いいんじゃないか?」
「はい、ソーナさんも、きっと喜びますよ」
何やら、歓迎パーティを開くらしい。
どのようなものかはわからないが、セリアの言う通り、ソーナが喜ばないといことはないだろう。
「君達の時にも、そうしたかったんだが、色々と立て込んでいて……すまなかったね」
「別に構わないさ。そもそも、俺は突然やってきたし……」
「はい。ボクも押しかけて来たようなものですし……」
ファラエスは、そこで申し訳なさそうにしながら謝ってきた。
しかし、俺もセリアもそんなことは、気にしていない。むしろ、ここに来た経緯的に、申し訳なくなっていた。
なんだか、変な感じだ。
「まあ、とにかく、明日はパーティだから、楽しみにしておいてくれ」
「あ、ああ、そうだな」
「は、はい!」
そんなことを話しながら、食事は進んで行くのだった。
◇◇◇
俺、ファラエス、セリアの三人は、ソーナの家まで来ていた。
ソーナの姉、オルフィーナさんの見送りをするためである。
今は家の前で、オルフィーナさんに別れを告げているところだ。
「皆さん、今日はお見送り、ありがとうございます」
オルフィーナさんは、俺達に頭を下げてそう言ってくる。
今日のオルフィーナさんは、とても元気そうなので、ソーナとの対話はうまくいったようだ。
「いえ、オルフィーナさん。私達の仲ではありませんか」
「ファラエスさん……ありがとうございます」
オルフィーナさんの言葉に応えたのは、ファラエスだった。
なんだか親しげな感じの言葉なので、俺は少し驚いてしまう。
「お姉様とファラエス隊長……同い年で、なんだか、結構親しいのよ」
「そうなのか……」
「意外ですね……」
俺とセリアが疑問に思っているのを察してか、ソーナが耳打ちをしてくれる。
どうやら、ファラエスとオルフィーナさんはそれなり親しいようだ。
意外な関係が明らかになったが、考えてみれば、ソーナ好きという共通点があるので、納得できなくもない。
「オルフィーナさん、どうか、お元気で……」
「はい、ソーナのことを、よろしくお願いしますね」
「はい、任せてください」
そんな俺達を余所に、ファラエスとオルフィーナさんの会話は続いていた。
そういえば、身内を任せるのも信頼していないとできないことだ。
「お二人も、ソーナのことをよろしくお願いします」
「あ、はい」
「は、はい」
そこで、オルフィーナさんは俺とセリアに話を振ってくる。
咄嗟に答えたため、二人とも返事だけしかできなかった。
なので、きちんと言葉を返すことにしよう。
「オルフィーナさん、ソーナのことは任せてください」
「ソーナさんを支えられるように、ボクも頑張ります」
セリアも同じことを考えていたようで、俺の後に続いてくれた。
流石は俺の弟子、考えが似ているようだ。
「はい、お二人やファラエスさんがいれば、ソーナも大丈夫だと思います。これからも、よろしくお願いしますね」
「ええ、オルフィーナさんもお元気で」
「今度は、遊びに来てくださいね」
「はい、ありがとうございます」
俺とセリアの挨拶が終わり、いよいよソーナの番である。
オルフィーナさんに、ソーナがゆっくりと近づいていく。
そして、二人は抱き合った。お互いの存在を噛みしめるように。
「ソーナ、皆さんに、あまりご迷惑をかけてはいけませんよ」
「お姉様……ええ、もちろんよ」
「体に気をつけて、過ごすのよ……」
「そんなに心配しなくても、大丈夫よ。もう、子供じゃないんだから……」
「……そうですね。でも、許してください。いくつになっても、姉は妹を心配するものなのです」
ソーナとオルフィーナさんは、しばらく言葉を交わした後、体を離した。
二人は、笑顔だ。これなら、きっと大丈夫だろう。
「それでは、皆さん、さようなら。また、いつか会える日を、楽しみにしています」
「ええ、またね、お姉様」
「さようなら、また必ずお会いましょう」
「オルフィーナさん、お元気で!」
「さようなら、またいつか……」
「ソーナ、皆さん……本当に、ありがとうございました」
そう言って、オルフィーナさんは馬車へと乗り込んでいく。
それに続き、付いて来ていたメイドと執事が乗り込み、その戸を閉める。
これで、本当にお別れだ。
なんだか、少し寂しい気持ちになってしまう。
別れというのは、どんな形でもそういうものなのかもしれない。
「それでは、出発します」
「ああ、頼んだよ」
「はっ!」
御者席に座っている騎士達が、そう言って、俺達に向かって礼をしてくる。
その直後、言葉通り馬車が動き始めた。
俺達はしばらく、その馬車を見つめる。
馬車は特に問題なく走っていき、やがて見えなくなっていく。
こうして、ソーナの姉オルフィーナさんは帰っていくのだった。




