第54話 姉妹の仲は
俺は騎士団の拠点にて、オルフィーナさんと話し合っていた。
そこで、オルフィーナさんが何を考えていたのかを話してもらったのだ。
そして、俺はそれを密かに、ソーナにも聞かせていたのである。
「どうして、ソーナが……?」
「俺が、連れて来たんです」
「ス、スレイドさんが?」
「ええ、あなたの本心を、ソーナが知らないのはおかしいと思いましてね」
俺は医務室を出てすぐに、ソーナと出会っていた。
そこで、俺の疑問を話し、オルフィーナさんに本音を話してもらうことになったのだ。
という訳で、ソーナはオルフィーナさんの本心を、最初から最後まで聞いていたのである。
「お姉様……」
「ソーナ、その……」
現れたソーナは、ゆっくりとオルフィーナさんの元へと近づいていく。
「もう……」
「え?」
そして、ソーナはオルフィーナさんを抱きしめた。
オルフィーナさんは、突然のことに目を丸くしている。
「ソ、ソーナ……」
「……お姉様は、色々無茶しすぎよ。私のために、婚約を潰そうなんて……」
「……そ、それは、ソーナのために……」
ソーナは、目に涙を浮かべていた。
姉のしてきたことを知り、耐え切れなくなってしまったのだろう。
「私のためとはいえ、お父様やお母様が知ったら、どうなるか……」
「私は、ソーナのためになら、なんだってします。その結果、どんな罰を受けようとも、私は構わないのです」
「そんなの駄目よ。もしそうなったら、私はとても悲しいわ……」
やはり、オルフィーナさんのソーナに対する思いは、とても大きいようだ。
だが、ソーナだって、オルフィーナさんへの思いは大きいのである。
そのため、オルフィーナさんに不利益が起こるようなことは、嫌なのだろう。
「でも、ありがとう。私のことを、こんなにも思ってくれて……」
「ソーナ……しかし、私はあなたに酷いことを……」
そこで、オルフィーナさんが少し悲しそうな顔をする。
恐らく、結婚の話を進めようとしたことを言っているのだろう。
「婚約を進めようとしたことを言っているの?」
「ええ、ソーナの嫌がることを、私はしてしまいました」
「そんなの気にしていないわよ。お姉様、すごく嫌そうに話を進めていたもの……」
「え? 私、そんなにわかりやすかったのですか?」
どうやら、ソーナはそんなことを気にしていなかったようだ。
その点は、俺が心配していることでもあったが、まったく問題なかったのかもしれない。
もしかして、俺は余計なことをしてしまったのだろうか。
「お姉様、今日はたくさん話をしましょう? 私も家に戻るから、ゆっくりと話せるわ」
「ソーナ……そうですね。私達は、色々と話さなければいけないのですね」
俺がそんなことを考えていると、姉妹がゆっくりと体を離していた。
話の内容から、ここでの話はこれで終わりのようである。
「私は、騎士団の仕事があるから、お姉様は先に帰っていてくれる? すぐに終わらせてくるから、そんなに遅くはならないわ」
「はい、わかりました。でも、無理しなくていいのですよ? 遅くなっても、待っていますから……」
ソーナとオルフィーナさんはそう言って、話をまとめていた。
後は、家出話し合うらしいので、俺の出る幕もないだろう。
とにかく、姉妹の仲が問題なさそうなのでよかった。
「スレイドさん、色々とありがとうございました。私はこれで失礼します」
「あ、はい、どうも……」
そこで、オルフィーナさんが俺にそう言ってくる。
「これからも、ソーナのことをよろしくお願いしますね」
「ええ、もちろんです」
最後にそう言い残し、オルフィーナさんは去っていった。
という訳で、俺とソーナが残される。
「スレイド、色々ありがとう。あなたのおかげで、お姉様とまでうまくいったわ」
先に沈黙を破ったのは、ソーナであった。
笑顔を見せながら、俺にお礼を言ってきてくれたのだ。
「いや、俺が何もしなくても、お前達姉妹は仲直りしていたさ。むしろ、余計なことをしたような気がするし……」
「そ、そんなことないわよ。あなたの作戦がなければ、こんな風にはいかなかったもの」
心配する俺に、ソーナは優しい言葉をかけてくれる。
「それなら、よかったけど……」
「ええ、本当に感謝しているのよ。あなたのおかげで、私は今、とっても幸せだわ」
「うん?」
ソーナがそんな言葉を放った時、俺は少し驚いて声をあげてしまった。
言葉とともに、ソーナが動いていたからである。
「ん……」
「なっ!?」
ソーナは背伸びをしながら、俺の左頬に口をつけてきたのだ。
その柔らかい感触と温かい温度が伝わってくる。
「な、何を?」
「ふふっ!」
突然のことに俺が驚いていると、ソーナは笑っていた。
とても、楽しそうな顔である。
「セリアに聞いたのよ。あなたへのお礼は、これがいいってね」
「セ、セリアか……」
確かに、セリアには同じお礼をされた。
しかし、それをソーナがしてくるとは、予想できる訳がない。
このお礼は、嬉しいのは嬉しいが、どうしていいかわからなくなってしまうので、困ってしまう。
「さて、私は仕事があるから、もう行くわ。あなたはゆっくりと休むのよ?」
「あ、ああ……」
「それじゃあ、また」
ソーナはそれだけ言って、駆けて行ってしまった。
「……」
「ふむ……」
「え?」
俺が呆然と立ち尽くしていると、声が聞こえてくる。
隣を見ると、いつの間にかファラエスが立っていた。
「ファラエス……」
「やあ、スレイド、色々楽しそうだね?」
「いや、それは……」
一体、いつから見ていたのか、ファラエスはそんなことを言ってくる。
なんだか、恥ずかしい。
「さて、君は本当に色々頑張った。それで、私からもご褒美をあげたいと思う」
「え?」
ファラエスは言いながら、俺の右頬に口を近づけてくる。
「ん……」
「なっ!?」
次の瞬間、俺は本日二度目の口づけをされるのだった。
柔らかい感触と温かい体温が伝わってくる。
「ふむ……」
「い、いきなり何を?」
「ご褒美だよ?」
「ご褒美か……」
前回も、ファラエスにはこうされたが、やはり恥ずかしいものだった。
しかし、嬉しいものであるのは、確かだ。
ちなみに、これをする度に、お互いに照れる結果になる。
「ところで、君に報告したおきたいことがあるんだ」
「うん? 何かあったのか?」
そこで、ファラエスがそんなことを言ってきた。
俺に報告とは、一体なんだろうか。
「実は、ソーナのことでね」
「ソーナ?」
「彼女が、家に住むことになってね」
「え?」
どうやら、報告とはソーナの同居であるようだ。
しかし、俺にはよく理解できなかった。
ソーナは、立派な家を持っているはずなのだが、どうしてこちらに住む必要があるのだろう。
「何か、問題があったのか?」
「いや、問題はないよ」
「なら、何故?」
「色々あるのさ」
「色々……」
俺が疑問を投げかけてみたが、あまり教えてはもらえなかった。
だが、問題がないのなら、俺が気にしなくてもいいのかもしれない。
「とにかく、ソーナと同居することになるから、よろしくと言いたかったんだ。オルフィーナさんが明日この町を出ていくみたいだから、明日の夕方くらいからになると思う」
「ああ、まあ、別に構わないが……」
ソーナと一緒に住むことについては、特に問題ないと思う。
昨日も泊まられたし、なんとなく、大丈夫な気がする。
「それじゃあ、私はもう戻るから、君は家に戻って、ゆっくりと休んでくれ」
「あ、ああ……」
ファラエスは、それだけ言って去っていく。
本当に、それだけ伝えに来ただけだったのか。
「……帰るか」
こうして、俺は家に帰るのだった。




