第101話 食堂での会合
俺は入浴を終えて、食堂に向かっていた。
クレッタがあがってから、しばらく入っていたが、少しのぼせてしまったのだ。そのため、水を求めて食堂に向かっているのである。
「うん?」
「あら……?」
食堂に着いてから、俺の目にあるものが入ってきた。
それは、食堂でグラスを傾けているカノンさんの存在だ。
「……また、酒ですか?」
「え? いや、これ水だから!」
「水? なんだ……」
てっきりまた酒でも飲んでいるのかと思ったが、違うらしい。
カノンさんとグラスがイコールで、酒に繋がる程、イメージができてしまっていた。だが、これは俺の邪推でしかなかったようだ。
「すみません。酒にしか見えなかったので……」
「まあ、そう思うのも仕方ないわね。私、あんなことしちゃったし……」
俺の言葉に、カノンさんは少し落ち込む。
どうやら、自分のやったことを振り返っているようだ。流石に、反省しているのだろう。
「……ところで、スレイド君はどうしてここに?」
「ああ、水が飲みたくて……」
「そう。私と一緒だった訳か……ちょっと待ってね」
カノンさんは近くにあったグラスとポットを手に取り、水を入れてくれた。
俺はゆっくりとカノンさんの側に近寄っていく。
「はい」
「ありがとうございます」
カノンさんから、グラスを受け取り、一気に飲み干す。
冷たい水が、喉に染みる。風呂上がりということもあって、いつもより効くのだろうか。
「やっぱり、冷えた水はおいしいわよね」
「ええ、そうですね……」
「ふふ……とりあえず、座ったら?」
「あ、はい……」
カノンさんに促され、俺は椅子に座った。
水を飲んで、帰ろうと思っていたが、呼び止められたなら仕方ない。
別に眠たい訳でもないので、特に問題はないだろう。
「まあ、水でも飲んで……」
「あ、ありがとうございます……」
カノンさんは、俺の開いたグラスに水を入れてくれる。
それは、まるで酒を進めている時のようだ。
「スレイド君には、色々お世話になったわね……」
「え?」
「本当に、私を救ってくれてありがとう。あなたには、感謝しても仕切れないわね……」
「いや、そんな……」
そこで、急にカノンさんがお礼を言い出した。
まさか、ここでまたそれを言われるとは思っていなかったので、少し驚いてしまう。
「本当に、またあの子と一緒になれてよかったわ……」
「あの子? ファラエスのことですか?」
「ええ、そうよ」
カノンさんは、ファラエスと元に戻れたことがとても嬉しいようだ。
そういえば、カノンさんがファラエスに対して、どのような思いを抱いているのか、病気が治ってから詳しく聞いていない。この機会に、それを聞いてみるのもいいのではないだろうか。
なんとなく、カノンさんもそれを求めているような気がする。
「カノンさんは、ファラエスのことをどのように思っているんですか?」
「そうね……あの子のことは、妹のように思っているわね」
俺の質問に、カノンさんはすらすらと答えてくれた。
やはり、この質問をして欲しかったようだ。
「ファラエスは、とってもかわいくて、本当にいい子なのよね……」
「え、ええ……」
「昔は尖っていたけど、だんだん甘えるようになってきて、そこがまたたまらなくかわいいというか……」
だんだんとカノンさんはヒートアップしていく。
俺はこの人のことを冷静な感じの人だと最初は思っていた。だが、今はまったく違う。
カノンさんは、割と話し好きなのだ。病気で何もできなかっただけで、こちらが本質なのだろう。なかなか、すごいことを言うし、すごいことをするし、意外と面白い人なのだ。
「それに、あんなに大きくなって……」
「大きく?」
「ええ、ほら、胸とか」
「……」
そこで、カノンさんがそんなことを言ってきた。
どうやら、ファラエスの胸についての言葉のようだ。
今日は何故かこの話題が多い。クレッタといい、一体どうしたというのだろうか。
「うん?」
「え?」
俺がそんなことを考えていると、カノンさんが疑問の声を出した。
振り返って、その視線を辿ってみる。
「おっ……」
「カノンさん、スレイド……」
すると、ファラエスがいた。
何故かわからないが、食堂に来たようだ。
丁度、ファラエスの話をしていたので、タイミング的にはばっちりといえるかもしれない。
「ファラエス? どうしたの?」
「あ、はい。スレイドの部屋に行ったら、誰もいなくて、それでもしかしたら水でも飲みに行っているのかと思って……」
「なるほどな……」
ファラエスの話で、俺は大体を理解する。
別々に寝ることになってはいたが、ファラエスは寂しくなり、俺の部屋に来たのだろう。そこで俺がいなくて、ここに来た。恐らく、そういった流れであるはずだ。
「それで、二人はどうして……?」
「私が水を飲んでいたら、スレイド君がやってきてね。少し話をしていたのよ」
「そうだったんですか……」
カノンさんの言葉を聞き、ファラエスは俺の隣に座ってきた。
なんだか、話が続きそうな雰囲気だ。そろそろ、部屋に戻りたいと思っていたのだが、それは無理かもしれない。
「さっき、胸がどうのと聞こえたんですけど、気のせいですか?」
「え……?」
そこで、ファラエスからそんな質問がカノンさんに投げかけられた。
どうやら、少しだけ話を聞いていたらしい。しかも、よりによって一番駄目な所から聞いていたようだ。
カノンさんが、まずそうな表情になっていく。
「い、いや、その、違うのよ……」
「違う?」
「ただ、ファラエスは大きくなったなあって……」
ファラエスの視線に怯んだのか、カノンさんはそう呟いた。
そのことに、ファラエスは少し息を吐く。
「はあ、またそういう話題ですか?」
「いや、これはただ成長を祝っているだけで、変な意味はないのよ」
「そうですか」
カノンさんの言葉に、ファラエスは短く返事する。
怒っているのか呆れているのかわからないが、いい反応ではないことはわかる。
カノンさんは先程、ファラエスに色々としたので、疑われているのだろう。流石に、フォローしておいた方がいいかもしれない。
「ファラエス、カノンさんは、その前にファラエスは妹みたいなもんだと言っていたんだぞ」
「え?」
「だから、成長を祝っているのも嘘ではないはずだ」
「そ、そうだったんだ……」
俺の言葉に、ファラエスは顔を赤くする。
カノンさんに妹と言われたのが、嬉しいのだろう。なんだかんだカノンさんが大好きなのが、ファラエスなのだ。
「そ、そう、ファラエスは私のかわいい妹だって、思っているのよ?」
カノンさんは、ファラエスに対して早口でまくし立てた。
なんだか手馴れているので、昔からこれだったのだろう。
「カノンさん……」
これで許してしまうファラエスも、慣れているのかもしれない。
「さ、さて、そろそろ眠らないとね」
そこで、カノンさんが強引に話を逸らす。
だが、その言葉はありがたいものだった。これで、やっと部屋に戻れる。
「あ、カノンさん、それなら一緒のベッドで眠りませんか?」
「え?」
「元々酔っぱらいが危険という理由でしたが、もう大丈夫そうなので……」
部屋に戻ろうと立ち上がったカノンさんに、ファラエスはそんな提案をした。
先程の言葉で気をよくしたのか、酔っぱらいが危険という理由がどうでもよくなったらしい。
「ま、まあ、いいけど……この年で、同衾か……」
ファラエスの提案を、カノンさんが受け入れた。
という訳で、今日は三人で寝ることになりそうだ。俺は聞かれていないが、恐らく既に確定しているだろう。ファラエスが部屋に来たのだし。
こうして、食堂での会合は終わるのだった。




