第44話 「最適解」
私は美桜の声がしたような気がして目を覚ます。
……そんなわけが無いのに。
今日は私がここに来てから2週間ほど。
少し前から理子ちゃんも動けるようになっていて、喋れるようにもなっている。
そんな理子ちゃんがここで寝ていいよと、ベッドのスペースを半分譲ってくれたのでそっちで寝ていた。
ソファーで寝ている時は姫愛縲さんとほぼゼロ距離で寝ていた。別に落ち着かないとかそういう訳では無いが、姫愛縲さんは寝ている時に寝息1つ立てないので少し不気味だ。
それに、
夏は過ぎたと言っても、やっぱり暑い。
姫愛縲さんは本当に気にしてないのか、抱き枕にして寝てくる。暑い。
その点理子ちゃんは寝ている時も互いのスペースで寝ている感じで、あまりそのスペースを越えようとは、互いにしない。……たまに理子ちゃんが不安で寝れない時は……スペースなんて無くなるが……
バタン!
リビングの方が騒がしい……?
姫愛縲さんが暴れてるのかなぁ……
私はゆっくりとベッドを降りると、リビングの方に歩いていく。
リビングが見える位置に来ると……
私は言葉を失った。
美桜と能愛が倒れていたからだ。
……何でここに
もしかして私のため?
それならどうして倒れてるの?
「お姉さん、2人はお姉さんことを連れ戻しに来たみたいだよ?」
理子ちゃんが魔法少女姿のまま教えてくれる。
もしかして……
……私はもう一度美桜と能愛を見る。
また理子ちゃんにこんなことをさせてしまったんだろうか……
私の事情で……
「美香ちゃんそれは違うよ。理子ちゃんは美香ちゃんのためを思ってやったけど、それは嫌なことでは無いんだよ。」
姫愛縲さんは真顔でそういう。
……あれ?姫愛縲さんと理子ちゃん以外見当たらない……
「……咲さんは?」
「咲ちゃんなら外だよ。誰よりも早く接近に気づいて何も言わず外に出て行ったんだよね!かっこいー!」
姫愛縲さんは興奮した様子だ。
そういえば魔法少女オタクと言っていたのを思い出す。
咲さんは本来、そういうかっこいい人なんだろう。
……私の前で無様に命乞いをしていたのは、私にしか見せてくれない顔なんだろう……
……あぁ……興奮してきたなぁ……
「私の咲ちゃん像が一瞬で崩れたんだけどっ!?」
「あ、ごめんなさい。」
私は謝って一応、外を見に行く。
ガチャ。
咲さんは……
あ、ダメだったんだ……
咲さんは血などは見当たらないが、ただ地面に倒れていた。
咲さんが序列六位で、それに勝てる相手……
私は外を見渡す。
「……あぁなるほど。」
見覚えのある怪獣の身体と少女の体が合わさった少女。そして見覚えのあるモヤがかかった男。
「望ちゃんか。それなら出来るかもしれないね。」
望ちゃんは私を見て痛ましそうに顔をしかめたあと、こっちに近づいてくる。
「お姉様、一緒に帰りましょう?美桜様も能愛様も私も、ご主人様も、心配しています。」
そんな望ちゃんをkが肩を引っ張って止める。
「……あまり近づくな。」
そう言ったのが、私の耳には聞こえた。
「……ちょっと前は私のこと娘だって言ってくれたのに、今はもうそんな扱いなの?」
kはこちらに向き直ると、少し怒っている顔で……
「君が能愛にしたこと、居なくなる前に美桜にしようとしたこと、全て聞いたぞ。どうなっている?君は妹のことが大事じゃなかったのか?」
……それは本当に娘を怒る時のような怒り方で……
私は父ともう長い間顔を合わせていないから、なんだか本当のお父さんのように感じつつ……
それでも、私のことを思った言葉というのは胸に刺さる。
痛いんだ。
痛い。
耐えられるかもしれないが……
耐えたくない。
「美桜のことは大事だよ。でも……さ、あの穢れてない体を見てよ……すごく……すごくグチャグチャに壊したくなってしまう……っ!私だって嫌なんだ……!でも!美桜はもう……私の欲望の捌け口でしかないんだ……っ!!だったら、だったら離れた私の判断は間違ってない!!……それなのに連れてきちゃったんだね。もうどうなっても知らないよ?あなたたちが悪いんだからね?」
望ちゃんは口を抑えて泣き出す。
kは顔を憤怒に染めるが、怒りが強すぎて言葉すら出てこない様子だ。
……そうだろう。
そうなんだろうなぁ……
でもこれが私なんだ。
この、人の優しさが痛くて、人を痛めつけるのが好きで、人を屈服させるのが好きで、同じような穢れた人間としかいられない。
これが私なんだ。
そんな私を認めてくれる人がいるんだ。
だったらもういいかなって思えたんだ。
……思えてしまったんだ。
「……もういいよ。kも望ちゃんも帰りなよ。私の気が変わらないうちに。……早く帰ってくれないなら……望ちゃんも……私、食べちゃうかも……っ!!」
望ちゃんはガクガクと体を震わせて、ガクンと足から力が抜けて地面にへたり込む。
「おい、おい!望!…………くそっ!」
kは望を抱えた。
望ちゃんは目の焦点が合わず、口からは泡を吹き出し始めた。手足は強い痙攣を止めない。
そして、kが私に向かって言った。
「……君がここまで変わってしまっているとは思わなかった。……能愛を殺せば本当に容赦しない。その場合は……」
kは口にするのを躊躇って、覚悟を決めたのか、ハッキリと
「管理局と手を組んででも君を殺してやる。」
そう言ってモヤに包まれて、望ちゃんと共に消えていった。
これで良かった。
そう。
そのはず。
だって望ちゃんをぐちゃぐちゃにしたかったのは本当。
kを殺したかったのも本当。
一緒に居られないのも本当。
優しさが痛かったのも本当。
ならもうしょうがないじゃん……
殺すより……きっとマシだよ。
そうなんだよね……
これが『正解』
テストだったら100点を貰えるような最適解……
……最適解を取ったはずなのに胸に残る痛みは増すばかり。
「……帰ろう」
私は咲さんを連れて、『家』に帰る。




