第42話 「不思議な日常」
私が目覚めると同時に理子ちゃんも目覚めていたようだが……
かなり長い期間眠っていたのでしばらく動けないようだ。
私が起きてる?と聞いても返事が来ず、心配になって近づいた時に、私の服が軽く引っ張られる感覚がした。
見ると、理子ちゃん手が私の服の裾を引っ張っていたので、理子ちゃんも起きていると認識できた。
私は理子ちゃんに聞かせたくない疑問が湧いたので姫愛縲さんを連れて寝室を離れて、リビングに戻る。
リビングに着くなり、私は口を開く。
「……どうしてわざわざ理子ちゃんを弱らせたんですか?」
姫愛縲さんは驚く様子も見せず、淡々と答える。
「逃げられるから」
……嘘だとは思わなかった。
多分姫愛縲さんは理子ちゃんのことを思って行動しているのは、本当なのだ。
だが、そのやり方がおかしいだけで。
快楽のために人を痛めつけた私よりも、姫愛縲さんのがまともなような気がするのは気のせいだろうか?
……人は変われない。
私はまだ人を痛めつけたいと思っている。
「私を痛めつけてみる?」
姫愛縲さんがそんなことを真顔で言ってくる。
……そう言われると何だかまたその気になってくる。
私は改めて姫愛縲さんを壊す方法を考えてみる。
……いくら姫愛縲さんでも飲まず食わずでは死ぬんじゃないだろうか?
姫愛縲さんは体をビクッと震わせて言う。
「……怖いこと考えるねー?」
姫愛縲さんをこのまま一生ここから出さなければ可能だし、日光を浴びなければ病んでいくのではないだろうか。
「やっぱ無し!怖いもん!」
姫愛縲さんは肩を抑えて、わざとらしくぶるぶる震える。
少しはビビらせたくて
私は姫愛縲さんにゆっくり近づく。
「えっ!?ちょっと!?」
私は止まらず、姫愛縲さんと体が当たる距離まで来て……
「キャー!」
わざとらしくそう言いながら逃げられた。
自分から言い出したくせに、と思わなくもないが、多分姫愛縲さんは怖いもの見たさで言ってきたんだろうなという理解は得られた。
……いつか絶対何かで屈服させる。
そんな思いが私の中で膨らみ始めていた。
ご飯は姫愛縲さんが作ってくれることになったが、相変わらずピンク色のよく分からない味なのでこれからは私が作ることも視野に入れ始めた。
そして、
今日はどこで寝ようかと思ったら、姫愛縲さんがソファーで寝ていいよと言ってくれたのでそこで寝た。
朝起きたら姫愛縲さんが目の前にいて、私と密着する位置で寝ていたのでソファーから落とした。
姫愛縲さんの寝ている場所がここなら早く言って欲しかった。
私は朝なので、さすがに寝てるかな
と思いつつもずっとあった家の外の気配を確かめに行く。
その気配は姫愛縲さんほどの圧は無いが、確かに強者のそれ。
家のドアを開けて外を見ようとしたら
どがっ
……ドアが何かにぶつかった。
私はなんとなく事態が飲み込めたので、ドアを1回閉めて呼びかける。
「……咲さん、何してるんですか?」
多分確信は無いが……
咲さんがドアにもたれかかっている。
「……うーん……あたし………………」
どうやら寝ていたところを起こしたようで、まだ言葉が出てこない。
しばらく待っていると、
ドアの前から気配が消えたので、ドアを開けてみる。
すると、眠そうに目を擦る咲さんが立っていた。
「美香。あたしは美香の様子を見に来ただけよ。元気そうで良かったわ」
咲さんの目は濁っていたが、口は確かに安心したように笑っていた。
咲さんがここまで来てくれたこと自体が少し嬉しかったので……
「入ってください。」
私は咲さんを招き入れる。
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咲さんはこの変なピンク色の家については何も触れなかった。
ただ無言で着いてきて、ソファーで二度寝する姫愛縲さんを見て、一瞬立ち止まったが、ソファーの隣の床に座った。
よく分からなかったが、私は空いていたのでソファーの端に座った。
「咲さんも座りませんか?座る位置なら空けますから。」
私はジェスチャーで姫愛縲さんを落とす仕草をする。
姫愛縲さんは気づく様子もなく、寝息1つ聞こえず、寝ている。
「気にする必要はないわ。あたしはここでいい」
咲さんはそう言って動かなかった。
姫愛縲さんに説明しなきゃいけないし、リビングをあまり離れる訳にはいかず……
とにかく咲さんをもてなすために姫愛縲さんが出してくれた麦茶をだしてみた。
麦茶が入っている容器もピンク色で麦茶自体もピンク色で同化していて、頭がおかしくなりそうだった。
咲さんは麦茶を飲んで、顔をしかめると……
「……今回は……こういう形なの?」
そう聞いた。
私はすぐさま否定した。
姫愛縲さんの麦茶は、咲さんにとっては拷問のようなものだったみたいだ。
……一応水があるなら水でもいいかと蛇口を捻ってみたが、どういう訳かその水でさえピンク色だったから、もう諦めた。
「うわぁーー!!びっくりしたー!」
そんなことを考えていたら、姫愛縲さんが起きて、咲さんを見てわざとらしく驚いていた。
姫愛縲さんが私を連れていく時の発言を思い出すに、気づいていただろうに。
「あ、バレてた?」
姫愛縲さんは笑った。
私は呆れた。
私達はそのまま、数日を過ごした。
ご飯は私が作るようになったし、咲さんはソファーに寄りかかって寝るようになった。
家にある食材は全てピンク色の変な味がするので、咲さんが買い出しに行ってくれるようになった。
お金は……咲さんがどこからか出しているようだ。
そして、これは不服ながら、姫愛縲さんが「ベッドも無いんだよ!?ソファーぐらい無いと寝られないよ!」と言うから、ソファーで2人して向かい合って寝るようになった。
早くも、4人で過ごすのが日常のようになっていたが……
そんな日々に変わった出来事があったのは、咲さんが家に来てから3日後のことだった。
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……今日は人参が安い。
あたしは自分の力でより長く美香を守るために、安くなっているものを買うくせをつけた。
あたしは魔法少女として活動していた時のお金はあった。だが、操られていた時は一切お金を貰ってないみたいで……
口座を見たら思っていたよりも少なくて、少し焦っている。
全て美香のお金だ。
美香のために。
あたしが今日は特売日ということで、少し遠いところにあるスーパーに来たのが良くなかったのだろう。
あたしが人参をカゴに入れた時。
「あら〜咲ちゃん〜こんにちは〜」
間延びした声が聞こえて、体が強ばった。
……怖い?
いや、
それは違う。
ただ、めんどくさいのだ。
ただあたしと2年ほど交友がある程度で、友達のようなツラをされても困る。
美香はあたしを15回も殺しているのに……
なんて変なことを比べてしまう。
あたしは小百合を無視してカートを押して違う商品を見に行く。
……小百合も片手でカートを押したまま、何故か追いかけてきた。
「あの〜?咲ちゃんに何か嫌われるようなことしましたっけ〜?はっきり言ってもらわないと〜凪ちゃんが落ち込んでて可哀想なんですが〜?」
あたしの足はより早くなる。
説明、なんて長々しいことをしている暇があったら、1秒でも長く美香に尽くしたい。
……当たり前だが小百合からは逃げられない。
あたしは後ろを振り返って、段々と小百合が近づいてきていることにめんどくささを感じたその時……
ガシャーン
よそ見している間に、
……誰かのカートとぶつかってしまった。
慌てて私はぶつかって転んでいる相手を見ながら謝罪を述べる。
「ごめんなさい」
相手は……
……
…………………
「ごめんなさいじゃ済まさないー。私は痛い思いをしたー許せないー」
………………………………
……………………………………
……あたしは散らばった商品を拾ってカートに入れ直して、そのままレジに向かう。
……しかし、今度は知らない人に呼び止められる。
「君は……確か、序列六位の……ふむ。そういえば管理局に攻め込んだうちの1人と聞いたな。美香はどうしている?なにか知っているか?」
モヤで顔が見えない変なスーツの男性が、核心的な話とともに話しかけてきていた。
……美香の知り合い……?
でも怪しい。
あたしはその男性も無視して、レジに向かった。
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「ということがあったわ。」
「小百合さんに翠に…k!?そんな人達がいたの!?」
最近あまり驚かなくなっていた私も、流石に驚いた。
世間が狭すぎる……
……私はなんだかその人たちに自分が見つかりたくないという、不思議な気持ちになった。
まぁよく考えればその3人は、それぞれの分野で優秀な人達だから、劣等感を感じるのは当然かもしれない。
そういえば、理子ちゃんがいつ動けるようになるか、というのは姫愛縲さんには分からないらしい。
姫愛縲さんは医学の方はあんまり分からないんだそうだ。今の理子ちゃんの状態は分かるが、治し方は知らない。そんないい加減なことを言っていた。
医学の方はカナタ……kが修めているそうだが、呼ぶ訳にもいかない、と姫愛縲さんが困った顔で言っていた。
私は理子ちゃんの居る寝室まで行く。
「……」
理子ちゃんはベッドに寝転がったまま無言で小さく手を振る。
私も手を振り返す。
理子ちゃんはまだ話せない。
喉の筋肉が弱まっているんだそうだ。
無理をすれば話せるかもしれないが……
やめておいた方がいい気がする。とは姫愛縲さんの言葉。
「じゃ、お食事の時間だよー」
そう言いながら姫愛縲さんが注射を取り出して……
理子ちゃんのお腹に刺す。
「……っ!……」
理子ちゃんは痛みで顔を歪ませ、一瞬息を呑んだ。
……大丈夫。
……大丈夫。
……私は興奮してない。
興奮してない。
虐めたくなってたりなんて……
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なぜまだこんな食事の仕方をしているかと言うと、筋肉が弱まっているのもそうだが、今胃に何かを入れると、理子ちゃんは吐き出してしまうだろうと姫愛縲さんは言っていた。
だからこれしか無いんだ。
……そして、これを見る度に、理子ちゃんを虐めたくて……
体が疼くんだ……
理子ちゃんのお腹に注射を刺すふりをして、刺しちゃいけないものを刺してみたり……っ!
「駄目だよ」
姫愛縲さんが注射を引き抜きながら、いつになく冷たい声で言う。
二の句は告げなかったが、普段おしゃべりな姫愛縲さんもこういう時はあまり喋らない。
だからこそ、気持ちが伝わる。
「ごめんなさい……」
「もー美香ちゃんはしょうがないなぁー!私がいつでも相手してあげるって言ってるのにー!」
……姫愛縲さんは屈服させられないから面白くないとは、思うだけで秘めておく。
「こんなに優しいのにー!!」




