第14章 『 ひと休みしよう 』 (1)
おそらく昨日のあの途方もないストレスが、心身のすべてを使い果たしたのだろう。次の日の昼近くまで、まるで打ちのめされた牛のようにぐっすりと眠り込んでしまった。
金曜日ではあったが、結局学校には行けなかった。
麗華も、わざわざ起こそうとはしなかった。いや、それどころか家の中は驚くほど静まり返っていた。
いないわけではない。むしろ彼女は気を遣って、何をしていたのかは知らないが、できる限りの静けさで動いてくれていたのだと思う。
ありがたいことだった。
たまには、何の心配もなく一日をのんびり過ごすのも悪くない。実に癒やされる時間だった。ぜひおすすめしたい。
「学校を休んで大丈夫なのか?」と思う人もいるかもしれないが、そのあたりの面倒ごとは、すべて最愛の兄に丸投げした。
昨夜、家に戻ってすぐに優一へメッセージを送った。
《麗華の家に戻った。でも明日は休む。なんとか学校を休む理由を作っておけ。無理ならまた家出する》
脅し文句としては弱かった。
昔から言葉で人を威圧するのは苦手だった。
それでも、約束破りの優一に対するささやかな報復にはなった気がした。
たぶん兄はスマホを手放さずにいたのだろう。ほどなくして返事が来た。
《なんで僕なんだよ》
《いいから。どうにかしろ》
そう返してスマホの電源を落とし、あとは心置きなく眠った。
そして目を覚ましたとき、優一からもう一通のメッセージが届いていた。
《わかった……》
ただし、続けてもう一行。
《お前の話してた“彼女の娘”について、少し調べてみる》
――麗華の「娘」だという子のことを指していた。
別に頼んだわけでもないのに。
どう返せばいいのかわからず、頭の中にいくつかの答えが浮かんだ。
『やめろ』
『無礼だ』
『僕がやる』
だが、最終的に好奇心に負けた。
……その選択を、後で激しく後悔することになる。
*********
腹が減ったので、重たい体をどうにか起こした。
麗華との関係がまだはっきりしていない今、勝手に台所を使うのは気が引けた。そこで出前を頼むことにした。
麗華の家は二階建てで、一階は長い廊下を挟んで左右に分かれている。
片方には広いリビングとキッチンが一体となった空間があり、もう一方の側には三つの扉が並んでいた。
一つは浴室、残りの二つはまだ用途を知らない。
二階には四つの部屋があり、そのうちの一つが僕の寝ている部屋だった。
麗華がどこで寝ているのかはわからない。
そこにもトイレとシャワー室があった。
家全体は中くらいの高さの石塀で囲まれていて、中央には小さな庭がある。花も木もなく、ただ芝生だけが広がっていた。
横手には大きなガレージがあったが、まだ入ったことはない。
リビングには麗華の姿はなかった。
自由に入れるのはそこだけなので、他の部屋を勝手に覗く気にもなれなかった。
この家は僕のものではないし、彼女を不快にさせたくもなかった。
できることなら、もう少しうまくやっていきたい。
だが、その「きっかけ」が見つからない。
出かけているのかもしれない――そう思った矢先、リビングの隣の部屋から物音がした。
そこから現れた麗華を見た瞬間、僕の体は固まった。
麗華はスポーツウェア姿だった。
どうやらつい先ほどまで運動していたらしく、顔にはうっすら汗が滲み、髪も少し湿っていた。
黒いウェアが肌に張りつき、まるで彼女の体の線をそのまま写し取るようだった。
グレーのレギンスが、丸みを帯びた腰のラインをはっきりと描き出している。
息をするたび、胸がゆっくりと上下する。ゆっくり、ゆっくりと――。
その光景に、心から惹かれてしまった。
そして、想像してしまった。若い男なら誰もが想像するような、ああいうことを。
……神様、これから僕はこの人と一つ屋根の下で暮らすのか。




