表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/39

第14章 『 ひと休みしよう 』 (1)

 おそらく昨日のあの途方もないストレスが、心身のすべてを使い果たしたのだろう。次の日の昼近くまで、まるで打ちのめされた牛のようにぐっすりと眠り込んでしまった。

 金曜日ではあったが、結局学校には行けなかった。

 

 麗華も、わざわざ起こそうとはしなかった。いや、それどころか家の中は驚くほど静まり返っていた。

 いないわけではない。むしろ彼女は気を遣って、何をしていたのかは知らないが、できる限りの静けさで動いてくれていたのだと思う。

 ありがたいことだった。

 

 たまには、何の心配もなく一日をのんびり過ごすのも悪くない。実に癒やされる時間だった。ぜひおすすめしたい。

 

 「学校を休んで大丈夫なのか?」と思う人もいるかもしれないが、そのあたりの面倒ごとは、すべて最愛の兄に丸投げした。

 昨夜、家に戻ってすぐに優一へメッセージを送った。

 

《麗華の家に戻った。でも明日は休む。なんとか学校を休む理由を作っておけ。無理ならまた家出する》

 

 脅し文句としては弱かった。

 昔から言葉で人を威圧するのは苦手だった。

 それでも、約束破りの優一に対するささやかな報復にはなった気がした。

 

 たぶん兄はスマホを手放さずにいたのだろう。ほどなくして返事が来た。

 

《なんで僕なんだよ》

《いいから。どうにかしろ》

 

 そう返してスマホの電源を落とし、あとは心置きなく眠った。

 そして目を覚ましたとき、優一からもう一通のメッセージが届いていた。

 

《わかった……》

 

 ただし、続けてもう一行。

 

《お前の話してた“彼女の娘”について、少し調べてみる》

 

 ――麗華の「娘」だという子のことを指していた。

 別に頼んだわけでもないのに。

 どう返せばいいのかわからず、頭の中にいくつかの答えが浮かんだ。

 

『やめろ』

『無礼だ』

『僕がやる』

 

 だが、最終的に好奇心に負けた。

 ……その選択を、後で激しく後悔することになる。

 

                *********

 

 腹が減ったので、重たい体をどうにか起こした。

 麗華との関係がまだはっきりしていない今、勝手に台所を使うのは気が引けた。そこで出前を頼むことにした。

 

 麗華の家は二階建てで、一階は長い廊下を挟んで左右に分かれている。

 片方には広いリビングとキッチンが一体となった空間があり、もう一方の側には三つの扉が並んでいた。

 一つは浴室、残りの二つはまだ用途を知らない。

 

 二階には四つの部屋があり、そのうちの一つが僕の寝ている部屋だった。

 麗華がどこで寝ているのかはわからない。

 そこにもトイレとシャワー室があった。

 

 家全体は中くらいの高さの石塀で囲まれていて、中央には小さな庭がある。花も木もなく、ただ芝生だけが広がっていた。

 横手には大きなガレージがあったが、まだ入ったことはない。

 

 リビングには麗華の姿はなかった。

 自由に入れるのはそこだけなので、他の部屋を勝手に覗く気にもなれなかった。

 この家は僕のものではないし、彼女を不快にさせたくもなかった。

 

 できることなら、もう少しうまくやっていきたい。

 だが、その「きっかけ」が見つからない。

 

 出かけているのかもしれない――そう思った矢先、リビングの隣の部屋から物音がした。

 

 そこから現れた麗華を見た瞬間、僕の体は固まった。

 

 麗華はスポーツウェア姿だった。

 どうやらつい先ほどまで運動していたらしく、顔にはうっすら汗が滲み、髪も少し湿っていた。

 黒いウェアが肌に張りつき、まるで彼女の体の線をそのまま写し取るようだった。

 

 グレーのレギンスが、丸みを帯びた腰のラインをはっきりと描き出している。

 息をするたび、胸がゆっくりと上下する。ゆっくり、ゆっくりと――。

 

 その光景に、心から惹かれてしまった。

 そして、想像してしまった。若い男なら誰もが想像するような、ああいうことを。

 

 ……神様、これから僕はこの人と一つ屋根の下で暮らすのか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ