帝都での再会
17:00間に合わなかったです。
けれどせっかく書いたのだからと投稿しました。
読んでくださってありがとうございます(>ω<)
コツ、コツと靴が石畳を叩く音が私の歩みに合わせて聞こえる。
(帝都に来たのは一体いつぶりだろうか)
正確に言えば城下町を訪れたのがいつぶりか。
今住んでいる家は帝都にあるのだ。馬車で30分ほど揺られると王城に着くという立地。
当初の予定では学園近くの屋敷を借りるつもりだった。しかし物件を探しに来た私たち家族の前に現れたのは、見慣れた皇帝陛下の使い。あれよあれよと気づけば屋敷を一つ譲り受けてしまっていた。
私たち姉妹への入学祝いと称してはいたが…実際は重臣である父を長く王城に留めるためだ。これは皇帝陛下から聞いたので間違いはない。
ガレディアス領は辺境ということもあって、帝都からは離れた位置にある。
けれど私は幼い頃頻繁に王城に連れて行かれた。
もちろん幼い私に負担をかけないように。
簡単に言うと移動魔法陣を使用していたのだ。
改めて考えると職権乱用なのではと思わなくもない。
移動魔法陣は王城の地下のある一室に繋がっている。機密事項中の機密事項だ。
魔力だって消費するはずで、たとえ長く使われていることでアーティファクトのように魔力が極小数で大丈夫だと言っても限度がある。そんなバンバン使っていいものじゃないだろう。
だが父は王城への当城も、領への帰還もほとんどがその魔法陣に頼り切っている。
加えてここ数年あまり王城に顔を出さないらしい。
頻繁に使用しちゃいけないとか、どの口が言ってんだという言い訳をされたと陛下が言っていた。
自分の都合で顔を出したり出さなかったりする父に、陛下は最終手段に出たらしい。
帝都に帰れる家を用意したのだ。
もともと王城に仕える貴族は帝都に屋敷を構えるのが当たり前。
ガレディアス領の守護が弱まると思われるかもしれないがそれも問題ない。
我が家にはお母様がいる。そんじょそこらの騎士団なぞ容易く捻り潰せるほど母は強いのだ。
(そういえば…最後に帝都に来たのはママとだったな)
異国のキャラバンがやって来ていて、珍しく目を惹くものが溢れていた。
母は異国の茶にも興味があったらしくたくさん購入していた。
あの時は綺羅びやかな光で溢れていたが、今は温かな、ここに息づいている人の活気で溢れている。
ガレディアス領とはまた違った情緒ある街並みに自然と目元が緩んだ。
「お嬢ちゃん!何か買っていかない?」
元気のよい声に、視線を向ける。人の良さそうな女性がニコニコと手招きをしていた。
どうやらお菓子を売っているお店のようだ。
ちょうど小腹がすいていたので、私は小さく頷くと店の方に近寄った。
「お嬢ちゃん見ない子ね。帝都は初めて?」
「いえ。昔、何度か…最近越してきたんです」
「そう。もしかして学園に通うため?きれいな子だなとは思ったけどお貴族様だったかしら…」
よく回る口に少々面食らうが、女性の気さくさに絆されて小さく笑みを刻んだ。
「学園に編入したんです。それと私は平民です」
「あらそう。あまりに綺麗だからもしかしたらって。じゃあ、お嬢さんの引っ越し記念に今日はサービスしちゃうわ。チョコといちごとプレーンならどの味のカップケーキが好きかしら?」
「ありがとうございます。…プレーンが好きですね」
「わかったわ」
にっこりと笑った女性は紙袋にプレーンのカップケーキを一つ詰めた。
続いて数枚のクッキーとお菓子を詰めていく。
「はい。また来てね」
「はい」
お代は結構といった女性に礼を言い、またプラプラと歩き始める。
お菓子は出来たてなのか、紙袋から温もりが伝わってきた。
広場のベンチに腰掛け、カップケーキを口に運ぶ。
香るバターとほんのり感じる甘みは私の好みだった。
小腹を満たし、後は妹たちへの土産にしようと席を立つ。
その時叫び声が聞こえた。
「きゃあっ!?…ひ、ひったくりよ!」
そう叫んだ老婆は転んで起き上がれないらしく、ただ犯人と思われる男を見てわなわなと震えていた。
「大丈夫ですか」
咄嗟に駆け寄った私の腕を老婆が摑む。
「お願い!捕まえてちょうだい…大事なものなの」
「分かりました。これ預かっていてください」
私は老婆にお菓子の紙袋を託し、間をおいて地を蹴った。
街の中心であるためか道は広く、男を簡単に見つけることができた。
走る速度を上げ、男のすぐ後ろに追いつく。跳躍し、そのまま踵落としをお見舞いしてやった。
情けなくも一発で気絶した男は地に伏した。
その拍子に男の懐から時計やら指輪やらが転がる。どうやら余罪もあるみたいだ。
騒ぎを聞きつけたのか数人の騎士が駆けつけてきた。
「騎士さん!あの子です」
「あの嬢ちゃんか」
一際ガタイのよい騎士に先程の老婆が抱えられている。
私は驚いて目を見張った。
老婆を抱えている騎士はカルダンだったのだ。突然の再会に驚いてしまうのは当然だろう。
赤褐色の髪が長くなったところ以外変わったところは見受けられない。
「嬢ちゃんがこいつを倒したのか」
「…はい」
「まあ、お嬢さんありがとうね」
カルダンが驚いたように私を見る中、老婆は私の手を握り礼を言った。
「いえ…盗られたものはこれですか」
正面からの礼にくすぐったい気持ちを覚えつつ、老婆にカバンを渡す。
「ええ。これよ…本当に良かった」
老婆は涙ぐみつつ微笑む。そして私が預けた紙袋と、小さな包みを私に手渡した。
「これは・・・?」
「お礼よ。もらって頂戴」
「……」
人として当然のことをしたまでだ。そう言おうと思ったが、老婆の穏やかな微笑みに何も言えなかった。
「本当に感謝しているの。それに…きっとお嬢さんが持っておくべきだと思ったの。老い先短い老いぼれのお願いだとでも思って、受け取って」
「…分かりました。ありがとうございます」
老婆はなおもにこにこと笑って私を見ている。
「お手柄だな嬢ちゃん!!」
カルダンが私の頭を撫でそう言った。少し力加減を間違えているように思えるが、懐かしい。
しばらくされるがままになる。
その後老婆はカルダンたち騎士が家まで送り届けるとともに去っていった。私も家まで送ると言われたが、まだ暗い時間でもないし、ガレディアス邸(帝都)に送ってもらうとなるとややこしい気がしたので断った。
最後にカルダンはまた私の頭を撫でていった。
帝都に来てから家の者以外に撫でられることは無かった。
去り際に「嬢ちゃん撫でやすい小ささだな」だなんと言われたので、思わず殴ってしまいかけた私は悪くないはず。
なにはともあれ、久しぶりの帝都は温かな巡り合わせで、満足のいく一日だった。
カルダンって誰だっけ?という人は是非、この話を機に思い出してあげてください。




