61
事件での傷が残る2人。
-61 再来した辛さ-
美麗と香奈子はテレビを直視することが出来なかった、前を向くと決めた美麗に未だ残る恐怖と、記憶を失っているにも関わらずつい先ほどの事が走馬灯の様に香奈子の脳裏を走り続けているが故に生まれている恐怖は周りの者の想像をはるかに超えていた。
気を遣った文香は美麗を病室の外へと連れ出し、出てすぐの長椅子に一緒に座った。
文香「大丈夫、我慢しなくても良いから。」
文香の言葉に安心した美麗はその場で堰が崩れた様に泣き出した。
美麗「刑事さん、私強くなれそうにない。今すぐにでも秀斗に会いたい、こんな人生無理!!」
文香は何も言わずに美麗の肩をずっと抱いていた。
美麗「秀斗が死んだあの交差点を通るのが怖い、1人の夜が来るのが怖い・・・。」
文香「秀斗君は今貴女の一部として生きてるでしょ、ずっと一緒なのよ。それに、私も付いてるから安心して。」
暫くした後、2人が病室に戻ると香奈子はベッドの上で震えていた。テレビには爆弾魔が逮捕されるシーンが映し出されていたのだが、それだけならまだマシだった。テレビの向こうで警察官に腕を掴まれパトカーに乗り込む犯人はうっすらと笑っていたのだ、まるで「してやったり」と言わんばかりに。
ニュースキャスターによると爆弾魔は「これは復讐だ」と供述しているらしい。
皮肉にもこのニュースは良い影響をも与えた。
香奈子「裕孝、私火が怖いの。それとあの人は何で平気で笑っているの?多くの人達を傷つけてどうして笑っているの?」
そう、香奈子の記憶が戻ったのだ。
裕孝「香奈子を含めた多くの死傷者が浮かばれなくなるから理由は聞かない方が良いと思うんだ、それより今は何も気にせずゆっくりと休んだ方が良いよ。」
今回の事件は香奈子を含めた列車の利用客、乗務員、また線路沿いにある警察署の署員や周囲にある住宅の住民を含めておおよそ200人の死傷者が出たという。
事件を思い出した香奈子はその辛さからトイレで吐いてしまった、好美がずっと背中をさすっていた。
香奈子「好美・・・、私死ぬのかな・・・。」
好美「馬鹿な事言わないの、それよりあんたにはするべき事があるでしょ。あんたにしか出来ない事があるはずよ。」
香奈子はその場で泣き崩れた。
香奈子「私、裕孝と離れたくない。」
好美「だったら尚更生きなきゃダメじゃない、体治して裕孝君の所に戻るの。戻って裕孝君が壊れる位にギュッと強く抱きしめるの、周りに汚いって言われても良い位にブチュっとキスするの!!あんた裕孝君の事、愛しているんでしょ?!大好きなんでしょ?!」
好美は言葉に圧力をかけながらその場にしゃがみ込んで説得した、目には大粒の涙が浮かんでいた。
香奈子「ごめん・・・。」
好美「何であんたが謝るの?今すべきなのはそんな事なの?」
違う、香奈子はいち被害者であり、決して悪くはない。
香奈子「そうね、一刻も早く笑顔で裕孝と会わなきゃね。」
テレビで流れるニュースを見て文香は震えながら1人静かに拳を握った、個人的な復讐に大勢を巻き込んだ爆弾魔が兎に角許せなかった。
遅れて美恵が病院に駆け付けた、手にはお見舞いのケーキの箱が握られていた。美恵は反対の手で警察手帳を見せながら自己紹介した。
美恵「好美の叔母で文香の先輩刑事の倉下美恵と言います、香奈子ちゃんだっけ?大丈夫?傷の所とかは痛くない?」
香奈子「まだ少しズキズキする時があるけど大丈夫です。」
美恵と文香は事件について決して聞こうとはしなかった、本人の表情から香奈子の辛さを汲み取ったからだ。
美恵も文香も刑事と言えど、1人の女性。




