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夜勤族の妄想物語2 -5.あの日の僕ら-  作者: 佐行 院


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23/66

㊷~㊸

貢と香奈子のお盆。


-㊷ きっかけはひったくり-


 3人が徳島で呑み食いしまくっていた間、貢 裕孝と山板香奈子はお盆休みを各々を好きに過ごしていた、その間も裕孝の心の何処かには香奈子という大きな存在がいた。

松龍での呑みの後、ちょこちょこ連絡を取る様になっていた2人は互いを「かなちゃん」、そして「ひろ君」と呼ぶようになっていた(※ここからは貢の事を裕孝と表記します)。

日々を過ごす中で裕孝はいつも携帯を手にし、「かなちゃん何してんだろ、連絡してもいいかな」という思いに更けていた。実は香奈子も同じ気持ちでいた。

一回一緒に吞んだだけなのにすっかりその気になっていた裕孝は、気を紛らわす為に近所のボードウォークに散歩しに行った。香奈子も同じタイミングでショッピングに出かけていた。

偶然今回の目的地までの通り道であるボードウォークを歩いていると、後ろから走ってきた男が肩からかけていたバッグを勢いよく強奪して走って行ってしまった。そう、ひったくりだ。

裕孝が何も目的も無くただただぷらぷらと歩いていたら目の前で香奈子がひったくりに合う現場を目撃した、何も考える間もなく足が勝手に動いていた。気付けば陸上部にいた時以上の全力疾走をして追いかけていた。後ろでは泣きながら蹲る香奈子がその姿を見て叫んでいた。


香奈子「ひろ君・・・!!」


 香奈子の声を聞いた裕孝はもっと加速した、正直足が限界を超えていたが諦めなかった。

 数秒後、やっとの思いで犯人の男を捕まえると丁度よくパトロールで通りかけた警官に引き渡した。無線を通して呼ばれたパトカーが現場にぞくぞくとやって来て中から沢山の警官が降りて来た、よく見ればスーツを着た刑事らしき者達もいた。

 先程の警官が汗を拭いながらまだ息が切れていた裕孝とまだ目に涙を浮かべていたままの香奈子に近付いて来た。


警官「すみません、うちの刑事が任意同行と事情聴取をお願いしたいと申しているのですが。」


 ドラマで聞き覚えのある専門用語に少し恐怖を覚えた、2人が警官に案内されるがままにゆっくりと歩くとその先でパンツスーツの女性刑事が笑顔で迎えた。


挿絵(By みてみん)


刑事「急にごめんなさいね、大丈夫だった?」

裕孝「は、はい・・・。あの、任意同行と事情聴取って聞いて来たんですけど。」


 香奈子は裕孝の腕をしっかりと掴んでずっと震えていた、バッグは無事返ってきたものの未だに恐怖が襲っていた。


刑事「あいつ・・・、大袈裟なんだから。軽くお話を聞くだけだから安心してね。」


 刑事は懐から警察手帳を取り出して2人に自己紹介した。


刑事「刑事の倉下美恵くらしたみえです、その子まだ震えているけど落ち着くまで待っているからね。」


 聞き覚えのある「倉下」という苗字と優しい女性の声に安心したのか、少し落ち着いた香奈子は深呼吸して顔を上げた。

 美恵のお陰で雰囲気は和やかな物になり、2人は身分証明書として学生証を見せた。


美恵「へぇ・・・、そこの大学の子なんだ。あれ?この前・・・、身に覚えがあるわね・・・。あ!!もしかして君が陸上部の貢君?!」

裕孝「はい、でもどうして俺の事を知っているんですか?」


 美恵は学生証を返却しながら答えた。


美恵「姪っ子から聞いたのよ、陸上部の男の子が走って犯人を捕まえてくれたって。ほら、倉下好美っての、あれ私の姪だから。」


 宥める様に声を掛ける目の前の女性刑事が何処か雰囲気が好美に似ている理由が分かってホッとした2人、一先ず思い出せるだけ状況を報告して質問に答えていった。


美恵「そういえば、あなた結構その子に信頼されているみたいだけどどう言った関係なの?もしかして・・・。」

香奈子「いえ、一回呑んだだけの大学の同期の友人です。」


 香奈子の言葉を受けた裕孝は固唾を飲んで答えた。


裕孝「そして、俺にとって命より大切で、ずっと隣で笑っていて欲しい人です。」

香奈子「えっ?」


-㊸ 真実の照明-


 何かを決意したかの様に拳を握りながら美恵からの質問に答えた裕孝、その横で香奈子がぽかんとした表情をしていた。


美恵「あらま・・・。」


 数秒程静寂が続いた。


裕孝(小声)「い・・・、言っちまった・・・。」


 裕孝は口が震えていた、そして開いた口が塞がらなかった。空気を読んだ美恵はそそくさと荷物を纏め始めた。


美恵「あ、2人共ありがとね。もう大丈夫だから・・・、ごゆっくり!!」


 逃げる様にして一番近くのパトカーに乗り込んだ美恵、そして2人は現場からの帰路に着いた。

 裕孝の一歩後ろを歩く香奈子、ただ歩く速度は香奈子に合わせる様にしていた。

 裕孝は香奈子に嫌われたのではないかという恐怖に震えていた。


香奈子「ねぇ・・・、あれ本気?」


 香奈子が少し下を向きながら尋ねたので裕孝は言葉を選びながら答えた。


裕孝「ごめん・・・。」

香奈子「どうして謝るの?私嬉しかったのに、もしかして嘘だったの。」

裕孝「いや、決して嘘じゃない!!」

香奈子「じゃあ言い直してよ!!本気見せてよ!!」


 香奈子は目に涙を浮かべていた、それなりの言葉を言わないと許して貰えそうにない様な気がした。

 裕孝は拳を強く握って自らの頬を殴った、まずは過去について打ち明ける必要があった。


裕孝「かなちゃんと初めて話したあの日、実は嘘をついていたんだ。あの時は本など一冊も持っていなかった、そして数日後に迫っていたレポートの提出に焦っていたんだ。

 ただ数日前、涼しい図書館でゆっくりと読書をするかなちゃんを見かけて何処か本が嬉しそうに、そして楽しそうに笑って見えたんだ。

 その時思ったよ、あの人は本当に本が好きなんだって。いつか自分も、好きな本について語る事が出来たらなって。

 そしてレポートの資料にしようとしていたあの本にかなちゃんの手が触れたあの時、自分なんかよりかなちゃんが読んだ方が本は喜ぶだろうって。

 当然の様に他の資料で書いたレポートは再提出になってしまったけど、決して後悔していない。だって、こうやってかなちゃんに出逢うことが出来て、かなちゃんの事を好きになれたんだから。

 1人の人を想ったのは初めてだ、大好きになったのは初めてだ!!

ずっとかなちゃんの横顔を隣で眺めていたい、こんな気持ちにさせてくれて本当にありがとう!!

 かなちゃん、いや山板香奈子さん!!僕と・・・、付き合って下さい・・・!!」


挿絵(By みてみん)


 香奈子は涙した、まさか自分と同様に好きになったきっかけが図書館だったなんて思いもしなかった。

 香奈子は固唾を飲んで重い口を開いた。


香奈子「私もひろ君を初めて見かけたのが図書館だった、毎日の様に必死にレポートを纏める姿を見て何処か親近感が湧いたの。自分も毎日宿題やレポート、色んな手続きに追われていたから。

 ただ本を読んでいる時だけ自分に戻れる気がしたの、勿論友達がいなかった訳じゃないけど1人の世界が好きだったみたい。

 でもね、もう1つ楽しみにしていた事があって。実は本を読みながらいつからかひろ君の姿を探すようになってた。

 手が触れたあの日、本当に嬉しかった。ひろ君も本が好きなんだって。私と同じ世界が好きなんだって、自分だけじゃないってあの後あの本を抱えてトイレで泣いちゃった。

 これからはずっと、堂々と隣にいさせて欲しい。勿論、喜んで・・・。」


 未だ現場に残っていた美恵を含めた警官達と、ボードウォークの景観を楽しむ全員が2人を拍手で祝福した。


2人「ありがとう・・・、本当にありがとう・・・。」


 2人はずっと唇を重ね、抱き合っていたという・・・。


幸せな雰囲気がボードウォークを包んだ。

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