㊹~㊺
久々の恋人たちの時間。
-㊹ 聖なる日に向けて-
平和なままに数か月が経過し、クリスマスまで後1ヶ月となったある日、最近守がバイトのシフトを増やしていたので余り恋人同士のちゃんとした時間が取れていなかった2人は好美の部屋で久々にランチを食べていた。
ゆっくりとした時間が流れ、好美が大量のチキンを馬鹿食いする中、守が切り出した。
守「好美ってさ、何か苦手な食い物とかある?」
好美「唐突だね、急にどうしたの?」
好美は最後のお楽しみに取ってあった大きなチキンを手で掴んだまま聞き返した。
話は数日前のある水曜日に遡る、相も変わらず松龍で正とランチを楽しんでいる時にいつも通りこの時間帯に働いている好美の目を盗んで龍太郎が守に切り出した。
龍太郎「お前ら、クリスマスどうするつもりだよ。」
守「いや・・・、まだ決めてないけど。」
正「俺も・・・。」
龍太郎は親指で好美を指しながら助言した。
龍太郎「おいおい、2人共折角彼女が出来たんだからしっかりしろ。ディナーとか行くなら早く予約しなきゃダメだろうが。」
守がチラ見したので、好美は応える様に手を振った。
父と守の様子を察したのか偶然居合わせた美麗が懐からあるチラシを取り出して守に見せた。
美麗「守君、好美ちゃんこのチラシをずっと見てたよ。」
龍太郎「流石俺の娘だ!!(小声で)後で唐揚げおまけしてやるよ。」
守「ちょっと見ていい?」
最近近所に出来たとてもお洒落なカフェのチラシだった、昼はコーヒーやランチを楽しめるカフェで夜はお酒が呑めるバーになるらしい。
龍太郎「当日好美ちゃん休みにするから今から電話しとけ、勿論正もだぞ。(小声で)当然美麗も休みだから楽しんでおいで。」
美麗(小声で)「嬉しいけど、パパ良いの?」
龍太郎(小声で)「当たり前だろう、かんちゃんと楽しんでおいで。」
王麗「お客さんの前でこそこそと何してんだい、注文が立て込んでいるから早く来な。」
龍太郎「いってえ・・・、今日も母ちゃん強ぇな・・・。」
金属製のお盆を使ったお決まりの件があった後、守はチラシに記載された番号にかけた。
守「もしもし、12月24日の20時に2名で予約を入れたいのですが。」
店員(電話)「ありがとうございます、ただ恐れ入りますがイブ当日はスペシャルディナーのみのご予約とさせて頂いているのですが宜しいでしょうか?」
守「えっと・・・、おいくらなんですか?」
店員(電話)「お1人様8000円のご予定とさせて頂いております。」
守は固唾を飲んで電話を続けた・・・、1人8000円は覚悟がいる値段だ。
店員(電話)「あの・・・、お客様?よろしいでしょうか?」
守「あ、はい、すみません。」
店員(電話)「恐れ入りますが、お客様とお連れ様は何か苦手な物がございますでしょうか。」
守「自分は何でも大丈夫なのですが、ちょっと彼女に聞いてみます。」
そして今に至る、「1人8000円」という相当な値段を思い出した守は少し体が震えていた。
好美「苦手な物は何もないけど・・・。それよりさ、気になる事があるの。」
守「どうした?」
好美「最近バイト多くない?無理し過ぎだよ、何で?!」
恋人の少し圧が加わった質問にタジタジしてしまった守。
守「お金欲しいから。」
数日前、この事に関して守のバイト先の店主である我原も心配していた。
我原「最近根詰めすぎじゃないのか?どうした?」
守「好美と過ごす初めてのクリスマスなので何かプレゼントしたくて。」
-㊺ 覚悟への感謝-
守の言葉に涙した我原は今月のバイト代に少しばかりだが色を付けておくことにした、その上での質問なのだが・・・。
我原「当日休みあげた方が良いよね、何処か行く予定なの?」
守「20時に予約を入れてディナーに行く予定なんです。」
我原「良いじゃないか、結構頑張っているって事は相当な高級ディナーって事じゃないのか?」
守「そうですね、1人8000円なんで今から頑張らないとです。」
守が口にしたとんでもない値段に驚いた我原は守のバイト代に20000円程付け足す事を心に誓った、良い話を聞かせて貰ったお礼という事にしておいた。
店員(電話)「では12月24日当日、20時でお待ちしております。」
別の日のランチタイム、店員の重く聞こえたこの言葉を思い出しながら守は好美に例のお店のチラシを見せた。
守「勝手にして申し訳ないんだけど。クリスマス・イヴにこの店を予約したから。」
守が差し出したチラシを見て涙を流す好美。
好美「何で知ってんの・・・。」
守「この前美麗ちゃんが見せてくれたんだよ。」
好美「美麗が?」
何故か恋人同士で美麗の呼び方が異なっている2人、ただ意見が合わなくなっている訳では無かったので全くもって問題なし。
守「美麗ちゃんに感謝しなきゃな。」
好美「本当、後で美麗に電話しとく。」
松龍で出逢った恋人たちは、皆で集まって一緒によく遊ぶ仲になっていたので全員と連絡先を交換していた。美麗へのお礼の電話は守から先にしておいたのだが、やはりここは気持ちの問題。
守「うん、是非しておきな。」
ただ好美には気になる事が1点。
好美「そう言えば皆はどうするんだろうね、実はこのチラシ美麗も一緒に見ていたんだけど金上君は何か考えているのかな。」
その横から聞き覚えのある女性の声がした。
女性「守君と好美じゃん、もしかしたらご飯終わっちゃった?」
好美「桃、丁度皆の話してたの。」
守「あれ?正は?一緒じゃなかったの?」
桃「コンビニ行ってるよ、どうしてもホットドッグが食べたいって走って行っちゃった。」
好美「何それ・・・。」
守「相変わらずだな・・・、今朝もそうだけど毎朝ホットドッグ食ってるのに今日は昼もかよ。」
桃は少し呆れた様子でため息をついた。
桃「ホントよ、こんなに別のコンビニで食料買ったのにまだ欲しいんだって。」
そう言うと桃は弁当が5個入った袋を持ち上げてテーブルに置いた。
好美「これ、2人分だよね。」
桃「いや、これ全部正の。私のはこっち。」
桃は反対の手に持っていた袋をそっと置いた、中にはミートソーススパゲティが1皿。
桃「もう先に食べちゃおうかな、伸びるのやだもん。」
桃が蓋を開けようとしていると正がやっと手に入れたホットドッグをがしっと掴みながら息を切らして走って来た。
正「お・・・、お・・・、お待たせ・・・。」
好美と正の恐るべきホットドッグ愛と食欲。




