白魔術師・フィンの予言!?
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「白魔術師って、一体どんな人なんだ?」
乾いた風が頬を打つ荒野を走りながら、テンゴが前を見据えたまま尋ねた。踏みしめるたびに足元の小石がカチカチと音を立て、先へ進むほどに人の気配は遠のいていく。
「変わった人だよ。けれど……とても頼りになる人さ」
ルスランは少しだけ思案してから答えた。
「優しい人だといいなあ」
チヒロが横からひょっこり顔を覗かせる。
「白魔術師なのだから、少なくとも闇に染まってはおるまい」
ピローが腕を組み、もっともらしく頷いた。
「お前、その言い方だと自分が染まってるみたいだぞ」
テンゴが即座にツッコミを入れると、チヒロが耐えかねたように吹き出した。
「もうどっぷり染まりきってるでしょ!」
「失敬な。私は至高の闇を体現しているだけだ」
ピローがフードの奥で肩をすくめる。
そんな軽妙なやり取りを聞いていたルスランは、ほんの少しだけ口元を緩めた。姫を奪われた絶望の渦中にありながら、不思議と押し潰されずにいられるのは、間違いなくこの五人が隣にいてくれるからだった。
「でも……」
モモが抱えたクッションをぎゅっと抱き直し、小さく口を開く。
「何か手がかりが見つかるといいね」
「ああ。絶対に持ち帰るよ」
ルスランの返答には、もう迷いよりも確固たる決意が強く滲んでいた。
やがて一行の前に、黒ずんだ巨大な岩山が姿を現した。
それはただの山ではなかった。いくつもの巨岩が歪に積み重なり、遠目にもどこか不吉な影を落としている。冷たい風が岩の隙間を抜けるたびに「ひゅう……」と低く鳴り響き、まるで山全体が深呼吸をしているかのようだった。
「あれだ……」
ルスランが足を緩めずにつぶやく。
岩肌には草木一本生えておらず、走る黒い亀裂はまるで巨大な獣の爪痕のようだ。空も心なしか薄暗く、その一角だけ光が吸い込まれているかのように空気もひやりと重い。
その岩山の中腹に、ぽっかりと黒い口を開けた裂け目――洞窟の入口が見えた。
外からでは先がまるで読めず、闇の奥で何か恐ろしいものが待ち構えているようでもある。
「うわぁ……映画に出てきそうな不気味な洞窟……」
チヒロが思わず身踏みする。
「陰気な場所だな。よし、さっさと入ろうぜ」
テンゴがそのまま足を踏み入れようとしたが、ルスランが手で制した。
「みんなは、ここで待っていてくれ」
ルスランは一人で入口近くまで進むと、暗がりの奥を見据えて声を張った。
「フィン! いるか!? 僕だ、ルスランだ! いるなら返事をしてくれ!」
一瞬、静まり返った闇がその声を飲み込み、何の反応も返ってこない。
だが次の瞬間、洞窟の奥から低くかすれた老人の声が響いた。
「……ああ、ルスランか……。いらっしゃい。一体どうしたんじゃ?」
その穏やかな声に、張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩んだ。
ルスランに促され、六人は洞窟の中へと足を踏み入れた。
外の不気味な雰囲気とは裏腹に、内部には淡い松明の灯りが揺れ、不思議と静けさが満ちていた。
棚には魔術師らしい怪しげな古文書や実験道具が整然と並び、壺の中には漆のようにドロドロとした黒い液体が溜まっている。お世辞にも美味しそうとは言えない怪しげな代物だ。
その奥に、一人の老人がたたずんでいた。
伸びた白髪に豊かな白髭、頭からつま先まで純白の衣を纏い、手に杖を携えている。その眼差しは驚くほど穏やかで澄んでいた。
「フィン、実は大変なことが起きたんだ……!」
ルスランが切迫した声をあげると、フィンは静かに頷いた。
「ほう。お主がそこまで取り乱すとは、よほどのことじゃな」
「リュドミラ姫が……婚礼の最中に何者かに攫われた! 僕の目の前で……! それに、ラトミール王子とファルラーフ騎士も姿を消した。二人が関わっている可能性が高いんだ!」
悔しさに震えるルスランの訴えを、フィンは一言も挟まず、じっと最後まで聞き届けた。
「ふむ……」
短い沈黙の後、老人は静かに目を閉じる。
「ワシはこの二十年、この洞窟でひとり生きてきた。老いた命を削りながらな……。だが、ついに来たのじゃ。かつてワシが予言した、運命の日が」
テンゴたちは思わず息をのんだ。
フィンはゆっくりと目を開けると、その鋭い視線をテンゴたち五人に向けた。
「さて、大事な話は山ほどあるが……まずは君たち自身のことから始めよう」
「僕たちの?」
「うむ。君たちからは、強大な力を感じる……『フォトン』じゃ」
「「……フォトン?」」
聞き覚えのない言葉に、五人は顔を見合わせた。
フィンは髭を撫でながら静かに説明を重ねる。
「フォトンとは、心の清らかさ、揺るぎない信念、仲間を信じる心、不屈の精神――そして、浄化。そういった高潔な魂が根底にあってこそ宿る聖なる力じゃ」
説明を聞いた五人は、揃って「ぽかん」と口を開けた。
テンゴが眉をひそめて突っ込む。
「……つまり何だよ?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみるのじゃ」
「いや、余計分かんねえよ!」
チヒロも困惑気味に手を挙げる。
「もっとこう……ビームが出るとか空を飛べるとか、そういう分かりやすい説明はないの?」
「ないのう」
「ないんだ……」
あまりにもあっさりした返答に、脱力感が漂う。
「じゃあフィンさんはフォトン使えるの?」
「ワシは持っておらん」
「持ってないの!?」
「使い方も、お主たち自身で見つけるんじゃ」
「丸投げかよ……!」
呆れるテンゴに続いて、ネルソンが素朴な疑問を口にした。
「やったら、ルスランはフォトンを使えるんかいや?」
「持っておらん」
「……え?」
今度はルスラン本人が一番派手に固まった。
自分たちにはあって、主人公たるルスランにはない。その理不尽な差に五人も首を傾げる。
「さて、フォトンの話はこのくらいにして、次はいよいよ本題じゃ」
「いやいやいや待って! なんで僕にはないんだいフィン!?」
「それは……なぜじゃろうなあ」
「分からないの!?」
「ワシにそこまでの理由が見える力があればよかったんじゃがのう。っほっほっほ」
「そんな朗らかに流すことある!?」
からからと笑う老魔術師に、チヒロは吹き出し、テンゴは頭を抱えた。
「このじいさん、思ったよりふわっとしてるな……」
気を取り直し、ルスランは改めてあの惨劇のすべてを打ち明けた。
闇の中で動けず姫を奪われた屈辱、無力感、そしてテンゴたちが差し伸べてくれた手の温もり――。
悲痛な面持ちで語るルスランを見て、フィンの笑みが消えた。
「なるほど……ルスランよ」
フィンの声が重く響く。
「お前は大切な姫を奪われ、その心も深く傷つき揺らいでおる。だが、そこで終わりではない。激しい嵐もいずれ過ぎ去る。不運がしばしお前を襲った――ただ、それだけじゃ」
そして老魔術師は、傍らの水晶玉をそっと指さした。その表面には、鏡のようにテンゴたちの姿が映り込んでいる。
「ワシが見た水晶には、宴会場に立ち込める闇の中、一人の『茶髪の男』がおった。呪いを放って場を麻痺させ、その隙に二人のしもべに姫を奪わせたのじゃ」
「じゃあ、やっぱりラトミールとファルラーフが……!」
「断定はまだ早い。真の答はこの先で自ずと見えてくる」
フィンは力強く杖を叩いた。
「ワシはかつて水晶の中に見たのじゃ。お主たち六人が、強大な悪と対峙する姿を! 茶髪の男とそのしもべを打ち倒すのは……お主たち六人じゃ!」
その宣言に、洞窟の灯りが大きく揺らぐ。
「フォトンの力が分からぬなら自らの足で走り、戦いの中で掴むがいい! 姫を奪われたのなら、追いかけ、力ずくで奪い返せばよい!」
フィンはルスランをまっすぐ見据えた。
「まずはルスラン、希望を持て! 心を奮い立たせ、自信を持つのじゃ。決して気を落としてはならん。彼らのように強い信念を持っておれば、道は必ず開かれる!」
老魔術師の熱い言葉が、ルスランの胸に激しく突き突き刺さる。
「だから進め! 剣を取り、胸を張り、自らの道を切り開くのじゃ! すべてはお前にかかっとるぞ!」
ルスランの瞳に、炎のような強い光が完全に蘇った。
「よいか、勇者たちよ。立ち塞がるのは恐るべき邪悪な魔法使いとその賊。それを打ち倒すのは――お主たちだ!」
「「「……!」」」
六人は顔を見合わせ、深く頷き合った。自分たちの果たすべき使命を、誰もがはっきりと確信した瞬間だった。
「よし、答えは出たな! さすれば進路は北じゃ! 北へ向かえ!」
「ありがとう、フィン」
ルスランは深く頭を下げた。その声に、もう一切の迷いはない。
「僕は行く。必ずリュドミラ姫を取り戻してみせる!」
「みんな、行こう!」
ルスランの呼びかけに五人が力強く頷き、六人は揃って洞窟を駆け出していった。
外に出ると、冷たい荒野の風が頬を叩く。
空の下には、北へ向かって果てしなく続く乾いた大地。
「北だ!」
ルスランが剣の柄に手をかけ、力強く大地を蹴る。テンゴたちもその横に並び、新たな希望を胸に、六人は北の地を目指して疾走し始めた。
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六人の姿が地平線の彼方に消えるまで、フィンは冷たい風に吹かれながらずっと佇んでいた。
「……おっと」
ポツリと、老魔術師がひげを撫でながらつぶやく。
「そういえば……さっきのは少し言い方を間違えたのう」
フィンはのんびりとした調子で独り言を漏らした。
「予言ではなかったな……『倒す』というのは、あれはワシの単なる『予想』じゃ」
水晶で見えたのは、彼らが悪と「対峙」している場面だけであり、倒した結末まで見えたわけではなかったのだ。
だが、フィンはどこからか吹き抜けた風に目を細め、楽しそうに笑った。
「まあ、あやつらなら何とかするじゃろぅて。っほっほっほっほ……」
愉快そうな笑い声を残し、白魔術師は静かに温かな洞窟の中へと戻っていった。
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