13:変わっていく、Ⅳ
王妃との一時は、穏やかで楽しいものだった。アゼルとユアンは少し離れたところで二人を見、ステラと王妃は野に咲く花を楽しそうに摘んでいる。
「母上は、少女趣味な節があるな」
「少女の心を忘れない、可愛らしいお方ですね」
花を摘んできゃっきゃしている姿は遠巻きに見れば仲の良い友達同士に見えるが、実態は嫁と姑なのである。
「……本物のアネーシャを、エデタージュはまだ探しているのだろうか」
「探しているでしょう。それがどうかしましたか?」
「いや……本物のアネーシャが見つかったらあいつは……」
ステラは、どうなるのか、と。
勿論会うことはできなくなるだろう。秘密裏に本物のアネーシャが連理の間に来て、ステラは両親の元に返されるのだろう。それぐらいはわかる。
「今のままがいいですか」
「―――っ」
ユアンの言葉に、アゼルは息を飲んだ。
「本物のアネーシャ姫が見つからず、この偽りの関係がずっと続けばいいと、お思いですか?」
「それは、だが……面倒が続くと……」
「もう、止めにしませんか」
ゆっくりとした語り口調で、しかしはっきりとした声でユアンが言う。アゼルは逃げるように視線を花畑で戯れる二人に向けた。
「なんの、ことだ」
「私は―――」
ユアンが言葉を続けようとする。しかし、ステラが近付いてきたことで口の中で消えていった。
「どうした、何か……」
アゼルが尋ねるよりも早く、ステラが何かをアゼルの頭の上に載せた。見ればそれは白を基調とした花冠で、ところどころ紫や青、黄色の花が絡められている。
「あら、とても似合うわアゼル」
『差し上げます』
にこっと笑ってステラは言葉を見せた。きっと―――きっと、アゼルを思い浮かべながら作ったのだろう。色合いから、それがわかる。
「アネーシャさんは花冠を作るのが上手ね。わたくしにも作ってくださる?いえ、教えてほしいわ」
こくこくと嬉しそうに頷いて、二人は連れ立ってまた花のある場所へと戻っていった。
「アネーシャ様は……可愛らしい方です」
無邪気で、柔らかい。本来ならば犠牲者なのにまるで何もないように振る舞って、むしろアゼルたちに迷惑をかけまいとしている。迷惑をかけているのは、アゼルたち二つの国の王族だというのに。
「もう止めにしましょう」
頭に載せられた花冠を取っていると、再び、ユアンは同じ言の葉を呟いた。ひらりと静かに舞い下りて、アゼルの耳をくすぐる。
「溶けかけているのならいっそ、溶かしてしまえばいい。面倒がるフリをして、ご自分を偽るのはもう止めにしましょう、アゼル様」
「違う、俺は……」
「私は……俺は、知っていますよ、アゼル様が本当は……人一倍努力家で、優しい人だということ」
声色が改まったものではなくなったこと、一人称が変わったこと、それだけでユアンの気持ちが伝わってくるようで、アゼルは眉根を寄せる。―――けれど。
「今更……そんな……」
「今更じゃありません。今だからこそ、でしょう」
ユアンの言葉に、つられるようにしてステラを見た。楽しそうに花冠を作っている姿は、一国の姫とは到底思えない。自分の母親もだが。けれど、そういう部分をひどく愛おしく感じるのも確かだ。
頭に載せられた花冠。今は手の上にあって、その美しい色合いがアゼルの心にすとんと下りる。
きっとこれは、アゼルを思い浮かべながら作られたもの。
何かに一生懸命になることを止めようとした。―――きっと壊れるから。
愛しているという気持ちを否定しようとした。―――いつか壊れるから。
けれどそれは、ただ逃げているということに過ぎないのかもしれない。だとしたら。
「今だから、か……」
ステラがふとアゼルの方を見る。視線が合うと、ステラははにかむように微笑んだ。




