消えた光
世界の終わる音を聞いた気がした。
優しい光が闇に呑まれ溶けて消えるそんな音を。
朝から妙な胸騒ぎがした。
虫の知らせとでも言うのか……。とても嫌な予感が綺羅の胸を渦巻いている。
それもいつもなら目覚めた時から綺羅のそばに控え世話を焼いてくれる侍女がいないかもしれない。
どんどん色濃く鮮明になっていく予感を振り払うように綺羅は口を開いた。
「翠蘭様、蛍はどこですか?」
翠蘭は縋るような綺羅の視線と声に言葉に詰まった。
蛍の件については綺羅には伏せておくようにとの王命が下っている。
誤魔化す為に口を開こうとした瞬間、夜の瞳に射ぬかれた。
この2日間で見たことのない表情だった。
「翠蘭様!教えてください。」
強い覚悟を秘めた夜の瞳、焦燥を必死に抑えつけようとする声、不安気に寄せられた柳眉。
秀夜といる時に良く似た感情を全面に出した表情。
ただ決定的に違うのはその瞳に宿る頑なな意思だったり、ひきしめられた唇だったり、甘くてふわふ わとしたものが一切削ぎ落とされた表情だ。
誤魔化すことが無理だと悟った翠蘭は諦めたように口を開いた。
「蛍様は―――――…。」
苦い顔をする翠蘭からその知らせを聞いた瞬間、綺羅は顔を蒼白にしてその場に崩れ落ちた。
私は、一体何をしていたの?
分かっていたはずだった。
自分の立ち位置を。取るべき行動を。
蛍が自分を兄をどれだけ大切に思っているかを。
だからこそどちらか一方を選べなくて時折申し訳なさそうに綺羅を見つめることを。
それなのに甘い誘惑に乗せられて一番大切なものを見落としていた。
ずっとずっとそばにいたのに。ずっとずっと支えてもらっていたのに。
なのに、
「綺羅姫様、」
気遣わしげな翠蘭の声に綺羅は震える唇でなんとか音を紡ぐ。
言葉にならない音をなんとか繋ぎ合わせた有能な女官長はその言葉にすぐさま否を唱えた。だが、両の手をきつく握りしめ何かを決意した様な綺羅の様子に何を言っても無駄だと悟ると彼女は渋々是と頷いて彼女の願いを叶えるべくその場を辞した。
「姫様、」
泣くのをぐっと堪えて自分を止めようとする自分より年下の女官に絆されないよう綺羅はぐっと力を入れて立ち上がった。
「会わなければ、ならないの。」
絶対に。
こうなってしまった以上、もう逃げる訳にも誰かに全てを委ねるわけにもいかない。
綺羅が自分で決着をつけなくてはならない。
そうでなければ、自分を慈しみ、支え、守ってきてくれた蛍にあわせる顔がない。
そう思うのに彼の人に会ったその後自分がどうするのか、そこまで今の綺羅に考える余裕はなかった。
ただ、会わなければならない。それだけが頭の中を巡っていた。
そしてこの逢瀬こそが自分たちの最後になるともどこかで予感していた。




