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 夜を舞い遊ぶ小さな光が今、闇に呑まれて消えた。






 蛍はじっとりと背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、静かにこうべを垂れた。


「ねぇ、蛍。」


 甘い声が毒のようにじんわりと身体を駆け巡る。

 完全に毒が巡る前に紡がれる言葉を遮り、蛍は顔を上げて真っ直ぐに晴希を見つめた。


「私は、最善の選択をしたつもりです。」


 綺羅にとっても晴希にとっても、二人に仕える侍女として、苦楽を共にした幼馴染として自分のできる最善を選び取った。


 けれど、従順だった侍女が見せたはじめての反抗を晴希は許さなかった。

 ドンという衝撃と共に感じたことのない熱が蛍の腹部を襲う。


 痛い。

 そう思う前にやはりこうなったかと頭の片隅で冷静な自分が呟いたのを蛍はどこか遠くで感じた。

 それでも、


「後悔、していませんわ」


 蛍は凛然と微笑んでみせた。

 血に塗れ、息も絶え絶えのはずなのにその姿は驚くほど美しく映る。

 晴希は僅かに目を瞠りくしゃりと顔を歪めた。


「馬鹿だね。君はとんでもない馬鹿だ。」


 ぐったりと横たわる蛍のすぐそばで膝をついて小さく呟いた晴希に蛍は小さく笑みを零した。

 まるで睦言のようだ。

 本当に馬鹿げた考えが頭を巡る中で蛍は最後の力を振り絞って緩慢な動作で腕を持ち上げようとした。

 申し訳程度に自分へと伸ばされた腕を取って、晴希は祈るようにその小さな手を額に押しいだいた。

 こうして縋るように彼女の手を取っていても彼女を手にかけたことを微塵も後悔していない自分に呆れながら、迷いながらも最期まで自分と妹の為に生きた侍女をじっと見つめた。

 痛くて苦しくて堪らないだろうに、彼女の表情は酷く静かで、哀しげだった。

 そして晴希と目が合うと困ったように眉を下げてかすれて声で紡いだのだ。


「止めてさしあげられなくてごめんなさい。

 もっと早くにこうするべきだったのに。」


 侍女としての誇りを抱いて蛍は静かに瞼を閉じた。













「晴希、」


「お前の義妹を奪った」


「それでも貴方は後悔していないのでしょう。」


「あぁ、」


 彼女を殺す時は自分の手でと決めていた。他の誰にもその権利を譲るつもりはなかった。

 漠然としたものであっても晴希の中にある綺羅以外の唯一の執着だった。


「私も貴方に付き合って差し上げます」


 李玲は静かにそう笑う。

 どこか蛍が浮かべた笑みに似ているそれに晴希は李玲の決意を感じた。


「蛍殿とは違う方法で、最期まで。」


 彼の犯した罪を共に背負い、共に身を堕とす。

 自分のすべてを持って晴希を止めることが蛍の選んだ方法ならそれが李玲の選んだやり方だった。


 引き返すことも止まることももうできない。

 蛍がずっと綺羅のそばにいたように、晴希のそばにずっといた自分だからこそわかることがある。

 誰もが自分の望む未来を掴み取る為の岐路に立たされているのだと李玲は何処か冷静にそう感じていた。




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