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見えていなかっただけで、そこにあった  作者: ゆら。


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1/3

あの頃の私は、一人じゃなかった


私には三人の子供がいる。

精一杯走ってきた日々だった。


子供はもう中学生。

大分手が離れている。


やっと少し、息ができるようになった気がしていた。


---


バスの中。


若い母親がいる。

三歳くらいの女の子と、赤ちゃん。


---


母親は笑顔で、女の子に話しかけている。


「楽しかったね」


でもその目は、何度も赤ちゃんと周囲に揺れている。


ベビーカーは足元に強く引き寄せられている。


---


笑っているのに、ずっと気を張っている。


(……ああ、分かる)


---


昔の自分がそこにいた。


子どもを優先して、

笑顔を絶やさないようにして、

周りにも気を配って。


ずっと、いっぱいいっぱいだった。


---


女の子は、その横で小さく母親の袖をつかんでいる。


離れないように、でも邪魔にならないように。


---


アナウンスが流れる。


親子が降りようとする。


---


「ベビーカー、降ろしますよ」


気づいたとき、私は立っていた。


一瞬だけ、間があく。


わずかに息が詰まる。


母親は少し驚いて、頭を下げた。


「ありがとうございます」


その言葉に、肩の力が抜ける。


---

小さな女の子がこちらを見る。


私は、一度だけ目線を合わせる。


それから、もう片方の手を伸ばす。


「一緒に降りようか。足元気をつけてね」


小さな手が、すぐに握られる。


その手は、思っていたよりもしっかり握ってくれた。


胸の奥が、静かにほどける。


---


降りる。


---


ベビーカーを押し出し、母親がもう一度頭を下げる。


私は手を振る。


---


遠ざかる親子を見ながら、気づく。


---


(……あの頃の私も)


手を伸ばしてくれた誰かがいたのかもしれない。


一人で頑張っていたはずの記憶が、

少しだけ、違って見えた。



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