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扉の向こうに、透明の彼

 私たちが通されたのは謁見の間では無く、国王陛下のプライベートサロンだった。想像していた広間と違い、柔らかな日差しが差し込んでいる。白を基調とした室内に、小ぶりのシャンデリア。金色で縁取られた家具も派手過ぎずに調和している。廊下とも違う、優美で重厚な空間に思わず息を飲んでしまった。

 デビュタントがまだな私に配慮してなのか、この会が非公式だからか…もしかすると、少しでも緊張しないように、この場所を選んでくれたのかもしれない。

 父は陛下の右腕ではあるけれど、元より幼なじみだったはず。そう思うと、余計失礼なことが出来ない。落ち着いた雰囲気が、かえって緊張を助長させた。


「陛下。本日はお時間を賜り、厚く御礼申し上げます」


 父の言葉でハッとし、慌てて深く一礼をする。内装に気を取られてしまい、頭を下げることを忘れてしまった。道中での決意が虚しく、早速非礼を働いてしまったけれど…まだ、取り返せるだろうか。


「良い良い、気にするな。その為の会だろう?今日は、君の愛娘に会いたいだけの親友さ。ほら、早く紹介してくれよ」


 低音でも朗らかな、それでいて明るさが伝わるよく通る声。ゲームで聞いた時とは違う生の響きに、思わず震えてしまった。私へと視線が向けられ、それだけで緊張が増していく。先程の無礼は見逃されているようでも、まだ気を抜いてはいけない。


「そうだとしても、一応はね。陛下、こちらが我が娘ペルシカでございます」

「ほう」

「ペル、ご挨拶」


「我が国の太陽たるへいかに、つつしんでごあいさつ申し上げます。」


 姿勢を保ちながらも、何とか父の言葉に応える。緊張してカテーシーを維持できない。声も震えて、失敗した気持ちでいっぱいになる。あれだけ猛特訓したのに、上手くいかなくてもどかしい。


「親子共々堅苦しいのが好きだな、全く。ペルシカよ、良く参られた。楽にしてくれ」


 ……そんなこと言われて、本当に楽にして良いのだろうか。

 迷いながらも父上へと視線を送れば、父と目が合う。小さく頷かれて、ようやく息が出来た気がした。小さく息を吐き、正面へ向き直った。


 国王陛下は、声に劣らぬ威厳に満ちたお姿だった。燃えるような夕焼け色の髪に、光を宿した翡翠の瞳。天を司るとされるこの国の王族は、皆それぞれ空にまつわる色を持っている。緑閃光を思わせるその御髪と瞳は、幸せの象徴だと皆口を揃える。そして、その評判に違わぬ人格者だと、父は話していた。


 その息子も同じように潔癖のきらいがあるのなら、悪役令嬢のペルシカが嫌われて当然と言えば当然なのかもしれない。

 けれど、私はそうはならない。キュッと唇を結び、先ほどの決意を胸に抱く。せめて、せめて嫌われないように振る舞おう。


 自分を奮い立たせていれば、陛下が突然声を上げて笑っている。思ったよりも豪快な笑い方に驚いて、思わず父の背に隠れてしまった。…何がツボだったんだろう。


「そんな取って食われるような顔をせんでも良い。親戚の叔父とでも思ってはくれんか?」

「無理ですね。生憎ですが熊のような男は、うちの家系にはおりません」

「何を言う。熊は熊でも、余はぬいぐるみのように愛らしいだろう?」

「王の自認がぬいぐるみなんて、国民に聞かれたら笑われますよ」


 軽口を続ける父の姿を見て、この場は言葉の通り楽にして良いのだと安心する。気の置けない友人というのは本当らしい。やり取りを聴きながら、ふと今日の目的を思い出す。アスラン王太子殿下はどこにいるのだろう。設定資料集にもない幼少期の姿をこの目に焼き付けないと、腹を括った意味が無い。そっと顔を出して彼を探せば、その行動に大人達の視線が向いた。


「ああ、そうだった。余の息子の紹介がまだだったね。アスラン、おいで」


 陛下の後ろから現れたのは、私の同じくらいの背丈の少年だった。白群から紺碧に移る空色の髪に、鮮やかなオレンジの瞳。目鼻立ちは幼くとも、私の知る彼だと一目で分かって息を飲む。

 大柄な陛下に隠れて見つけられなかったのだろう。だとしても、今までずっとそこにいたのだろうか。存在を感じさせなかった王太子に、少し違和感が残った。

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